君しかみえない関係
不変を望みながらも、ほんのちょっとの変化に期待する私は相当愚かしいと思う。
来る筈の無いメールや、呼ばれる事の無い名前。触れられる筈が無い手も心も、その全てに僅かな希望が有るという気持ちが捨てられない。
そんなの、有り得ないのに。
「***ちゃん、そろそろ帰ろっか」
「…うん。」
こうして私の名前を呼ぶ声も手を握る温もりも、全部全部あの人のものなら良かったのに。
そんな考えを止めろとでも言うように力を込められた手は、偽物でしかないのだから。
「この前出掛けた時ね、一くんを見掛けてさ。声掛けようと思ったんだけど、あまりにも真剣な顔してストラップなんて選んでるから」
つい笑っちゃった。
そう言う総司の浮かべる表情はとても冷たくて、その名を口にしたくないならそんな話しなきゃ良いのに。それでも口を閉ざさないのは私を嗤う為。そんなの解ってる。
私だって雪村さんの話を聞かせる事が有るし、これはお互いがお互いを嘲笑うだけの意地悪。
叶いやしない想いを未だに捨てられない自分達を馬鹿にするだけの、自慯行為。
「それがペアだったりしたら、大笑いだよね」
「ほんと、写メでも撮っておけば良かったかな」
意地悪。そう、意地悪。
初めは単なる傷の舐め合いだったのに、何時からかこの関係は歪んだまま。
斎藤くんと雪村さんが付き合ってからすぐ、私達も恋人という名ばかりの関係になった。
埋まらない心の隅っこにお互いを置いて、私は彼と、彼は彼女との思い出を作る。
お互いがお互いをあの人に置き換えて。なのに、私達はお互いを傷付ける。
何時かきっと、自分だけがあの人の全てになれると信じて。
「でもペアストラップかぁ…僕がそんなの買ってきたら、笑う?」
「ううん、うれしい」
「そっか。君が喜んでくれるなら僕も嬉しい、かな」
「ねー、なんで微妙に疑問形なの?」
「あれ、そんなつもりはなかったんだけど。…ちゃんと君が好きだから、ね?」
「ふふ、私も貴方が好きだよ」
あなたが。そう、あなたが。
2011/05/14***