Only the secret


「なにゆえーなにゆえー」

「違うって、一くんの何故はもっとこう…」

「なにゆえー、なにゆえー?」

「***ちゃんは真似するの下手だね」

「…なにゆえ」

「そうそう、やれば出来るじゃない」

「……何をしている」

「あ、一くん」

「一くんだ」


総司くんが振り返った先に居る一くんは相変わらず気難しそうな顔をしていて、でも今日はちょっぴり機嫌が悪そうだった。

名前を呼んだのにそれ以上何も言わないから、再び廊下に寝そべっておやつ代わりの金平糖を摘む。早く千鶴ちゃん来ないかな。とっておきのお饅頭が有るのに。

金平糖を挟んだ向かい側で総司くんが座り直すのと一緒に、一歩此方へと近付いた一くんも私と総司くんの間に腰を下ろした。


「一くんも食べる?美味しいよ」
 
「否、俺はいい」

「なにゆえー」

「………」
 
「あっははは!やだなあ、僕を睨まないでよ、一くん」

「…どうせあんたが余計な事を吹き込んだのだろう。」


総司くんが分けてくれた金平糖をまた一粒口に放り込み、何やら言い合いを始めた二人を見る。

この二人が言い合いを始めるとなかなか終わらない。今日もまた、総司くんが適当にあしらいながらも余計な茶々を入れて、一くんはその一つ一つを見事なお説教擬きで沈めてく。

結局、千鶴ちゃんが来るまで私は一人でこのやり取りを聞いてなきゃいけないのかと思うと、飽きを通り越して眠気すら感じる。


「もう良いよー私飽きた」

「まったくだよ。僕も飽きたなぁ」

「誰の所為だと思っている」

「一くんの話が長いから?」

「何ゆ「なにゆえー!」

「………………」

「ははは!ほら見てごらん、一くんも土方さんに似てきたと思わない?」

「そんなに顰めたらシワになっちゃうよ」


またさっきと同じ。皴を寄せた一くんの眉間に指を当て、伸ばす様に押してみる。

その一くんは総司くんに何か言い足そうな視線を向けているし、総司くんは総司くんで素知らぬ顔をしている。

だが、何も言わない総司くんに痺れを切らしてか、眉間に伸ばしていた私の手を掴み下げ今度は此方へとその目を向けてきた。


「…***、あんたは何がしたい」

「何って?」

「先から俺の…真似を、しているのだろう」

「真似じゃないよ。特訓だよ」

「特訓?」

「うん。私はね、なにゆえ隊士になりたいんだよ!」


ぶふっと吹き出した総司くんに鋭い視線を向けた一くんは何やら腰元に有る刀に手を伸ばしていて、でも総司くんは気にする様子も無く笑っている。

二人には通じているらしい何かが分からない私は一人首を傾げるだけで、それでもその理由を教えては貰えない。


「……兎に角。そんな隊は存在しない上に、今後とも必要無い。故に、特訓など…無意味だろう」

「なん…、なにゆえ!」


秘密だよって教えてくれた総司くんの為にも立派ななにゆえ隊士になりたいのに、その道は険しい模様。

此処までその存在を頑なに隠されてしまうなんて、一体なにゆえ隊士とはなんなんだ!謎!

2011/05/12***

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