雨声に泣く

(▼死ネタ)


今日の雨は、冷たい。

薄紅を滲ませる雫は着実にこの身体から体温を奪い、辺りにぼんやりとした靄を漂わせる。

僕の頭を抱く***ちゃんの顔すらも霞ませているのか、はっきりしない視界に映るその顔は酷く歪んで見えた。


「沖田さんっ、…沖田さん!」

「うるさいなぁ…そんなに大声を、出さなくても…聞こえる、よ」

「ッ…沖田さん…!」


うるさいって、言ってるのに。

ざあざあと地を打つ雨の音が大きすぎて、自分の口から出た声がちゃんと届いているのか心配になる。

大丈夫だよ、そう紡いだ言葉さえ掻き消されてしまいそう。


「沖田、さん…私を見て、手を握って、…ほら、ちゃんと笑って下さい」


何時だって君を見てる。この手を離すつもりは無い。でも、君がそんな顔をしてるのに笑うなんて、無理を言わないで欲しい。

なら君が笑ってよ。君が笑ってくれれば、僕は言われなくても笑うんだから。

雨に濡れたその顔はもうぐしゃぐしゃで、それなのに笑えと言うなんて。何時だったかな、傘を忘れてびしょ濡れになった君を笑ったら怒ったくせに。


「…何時から君は、そんな自分勝手な子になったの」

「前から、…前から、です。一緒に居たいと思った時から、ずっとずっと、私はっ…」


ぽたりと頬に落ちる雫は冷たくて、弾けた飛沫に目を細めてしまう。

叫ぶ様に発された声も何処か遠くて、今はその冷たさと痛い位に抱かれる感覚だけが意識を繋ぎ止める。


「……***ちゃん、待ってるからね」

「いや。」

「偶には言う事を聞いてくれても、良いじゃない」

「いやっ…」

「…だからちゃんと、気付いてね。僕を、見付けてあげて」

「私、は…!…私は、貴方と一緒に居たいんです!」


馬鹿だね、そんなの分かってるよ。

置いていく僕の方こそを、馬鹿だと思ってくれて良い。君を悲しませる僕を、最低だと罵っても良い。

置いていかれる君を思うと目頭が急に熱を持って、更に視界が歪んだ。

 
「…じゃあ、僕が見付けてあげる、から。何時だって、何時までも、君を見てる。君だけを、」


ふっと闇に包まれた視界に頬を擽る毛先、唇に感じた温もりが鮮明過ぎて、頬に伝った生温い雫が中途半端に愛おしい。


「…だから、嫌いにならないで、ね。」

「沖田さん、沖田さん、大好きです。沖田さん、ずっと、私はずっと、貴方が、貴方が大好きですっ…!」


此の唇に落ちる雨は、君の温もりさえも奪い去る。

――今日の雨は、冷たい。


2011/06/27***

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