図らずも水葬
「***ちゃん」
僕がこうして君の名前を呼ぶ瞬間だけは、昔と何一つ変わらない。
あの時代を共に生き抜いてくれた***ちゃんは間違いなく君なのに、どうしてだろう。ちゃんと見付けてくれると言うから、僕が先にさよならを告げたのに。
どんなに愛しんでも、あの時の君は答えてくれないんだ。
今を生きる***ちゃんは、本当に酷い子だよね。
「何ですか、沖田先輩」
「呼んでみただけ」
「またですか」
しつこいと思われようと、君の名を呼び続けてみれば何かが変わるかもしれない。
君の名前を紡ぐ時だけ自然と柔らかくなってしまうこの声音の理由に、気付いてくれるかもしれない。
「…引っ付かないで貰えますか」
「だって今日寒い」
「ちゃんとブレザー着れば良いのに」
この腕で捕えてみれば、何か思い出してくれるかもしれない。
僕には何も無かったけれど、それでも幸せだと言ってくれた時の様に笑ってくれるかもしれない。
――この僕が口約束程度を守ってるっていうのに、君がそれを破るなんて許さないよ。
「?…そんなに寒いんですか?」
「……うん。」
彼女の身体を捕えた腕は小さく震える。
そんなのはどうでも良い。何時になったら君は、この冷え切った想いに気付いてくれるの。
2011/05/27***
( 転生したけど、沖田だけしか記憶が残ってないという。そんな感じ。 )