幸福はいつも傍らに


ずいっと何の言葉も無しに差し出された手を見て、私はどんな反応をすれば良いんだろう。

それはバイトが終わる時間にアカイトが迎えに来てくれて、一緒に家に帰るまでの短い時間。

何時も通り歩幅を合わせることなく先に行ってしまうのに、少し距離が空くと歩調を緩めたり振り返って見たり。

たまに遅いって言うけど、私を置いていったりはしないのが普通。

なのに、今日ばかりは普段と変わらぬ表情で足を止め私を見下ろしている。その手を、此方に向けたまま。


「……寒いの?」

「ッ…ちっげーよ!!」


取り敢えず手を握ってみた。怒られた。

訳が分からなくて首を傾げてみると、僅かに赤くなった頬を隠すようにそっぽ向かれてしまう。


「………荷物持ってやるっつってんだ」

「…ありがと」


握った手に少しだけ力を入れながら口を開いたアカイトに、思わず笑ってしまいそうになる。

でもまた怒られるのも嫌で、素直にバッグを差し出す。空いた方の手に渡ったバッグを目で追い掛けながら、握ったままの手にもう片方を添えてみる。

今度こそ歩き出したアカイトにぴったりくっつけば小さな舌打ちが聞こえたけど、両手の温もりが恋しい私は気付かないふりをした。


2011/11/12***


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