想い出越しの恋心
付き合い始めてからもうすぐ三年という彼と、別れた。
今日この日までの時間が全部真っ白になったけど、お互い薄々とは抱いていただろう気持ちの結果だ。
じゃあねと言って別れて、本当に別れて、だけど泣くまでの悲しさも無くて。
冷めた女だなと思ったけど、家に着いた私の顔を見るなり両手を包んだ温もりにはあっさりと涙が零れた。
目の前で私を見つめるルカの顔が滲んでぼやける。
「好き、だったよ」
「そうね。彼と一緒に居た時の方が可愛かったわ」
「毎日が大切だったの」
「どんな話でも笑って話してくれてたもの」
「でも、なくなっちゃったよ」
「…無くしてしまうの?」
それは無くなるんじゃない、貴女が無くそうとしてるのよ。
そう言われては、今まで見付けられなかった悲しさが一気に溢れてくる。
この両手を掴んで離さないルカの手が酷く優しくて、考えもしない言葉がぽろぽろと出てきて止まらない。
好きだった。自分が思っていた以上に好きだった。
この日を薄々感付いていたんじゃなくて、彼の気持ちを知ってしまっただけだったんだと思う。
「自分の過ちに泣くのは止めなさい。」
「で、も」
「でももだってもないでしょう?なら、今からまたやり直そうとでも言えるのかしら」
放たれる言葉は確実に胸に突き刺さるのに、向けられた瞳は揺れて見えた。
泣く私を見るルカも嫌なのか分からないけど、そんな顔を長くは見ていられなくて下を向く。
繋がれた手に力が込められ、その場には私の啜り泣く声だけが残った。
「…ごめんね」
「それは今に適した言葉とは思えないわね」
「……ごめん」
二度目には黙って踵を返しリビングに向かうルカの背を追って、未だ繋がれたままの片手を見続ける。
ドアを開けると鼻を擽る紅茶の匂いに、また目頭が熱くなるのを感じた。
冷めてしまった優しさは、それでも目の前を鮮明にしてくれる。
2011/01/05***