恋 愛 未 遂


特別、何が有ったという訳じゃない。

ただ、何と無く。何と無く、彼に抱き締められてみる。

心地好い温もりに身を預けて、考える事を全て放棄して、身体で感じるその温もりに目を閉じる。

気が安らぐのかと言われれば、それは違う。

私にとって絶対の居場所に逃げて、一人微睡んで、煩わしい世界を遮断して、ただ息をする。

楽。とても楽。

確かな言葉を以てカイトを特別な枠に入れている訳では無いのに、なのに、カイトはこれを拒まない。

私がマスターという名を持つからなのか、意味は多々有れど私に対して好意を抱いているのか。でも、優しさに違いない彼の行為は私を落としていくだけだ。

深く、深く、底なんて見えやしない深みへと。


「カイト、私は自分がめんどくさい」

「自分を持つと、何かに対する事がめんどくさい」

「もう、面倒臭い」


どうでもいい。もう、どうでもいいよ。

今まで頑張ってきたんだからもう休ませて、なんて言わない。

言える程の事なんてしていないし、そんな飛び切り自分に甘いだけの言葉なんて言いたくもない。ああ、そんな事を言う自分を想像するなんて反吐が出そう。


「――…少し、休みましょう」

「息詰まったなら、足を止めて下さい。足を止められないなら、歩みながらでも足下に咲く花を眺めてみましょう」

「それが出来ないなら、…休んでしまえば良いんです」


聞く人によっては、気持ちが軽くなる言葉なのかもしれない。

でもそんなの、どうでもいい。どうでもいいんだ。

そんな面倒臭い事言う位なら、黙って抱き締めて。この一瞬が永遠だと錯覚出来るくらい、強く、強く。

じゃないと、全部放り投げてしまいたくなるのよ。


2010/12/07***


 

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