恋戦隊LOVE&PEACE | ナノ
02


 利用者が絶えた食堂で紅子は赤木とトレーニングメニューの相談をしていた。紅子のトレーニングメニューは猿飛が主に作ってくれるが、時々は格闘技の型などを組み込んだトレーニングを赤木に頼んで作ってもらう。支援タイプのハートエナジーと言えど、自分の身は自分で守らねばならない。

 「今の紅子ならこれぐらいがいいと思うぞ」
 「ありがとうございます」

 メモ用紙に書き殴ったトレーニングメニューを眺めていると誰かが食堂に入ってきた。規則正しい足音で青山だということがすぐにわかる。

 「珍しいな、玲士」
 「気分転換にコーヒーでもと思ってな」

 白衣を羽織った青山は当然のように紅子の隣に座る。赤木と青山に挟まれてしまったがそれはいつもの事なので紅子は特に気にしなかった。

 「私、コーヒー入れてきます。赤木さんもコーヒーでいいですか?」
 「ああ、悪いな!」
 「よろしく頼む」

 先輩にコーヒーを入れるために紅子は席を立つ。赤木はトレーニングメニューを考えてくれたし、青山は研究で行き詰まっているのかもしれない。お礼と応援の意味も込めて紅子は丁寧にコーヒーを入れた。

 「お待たせしまし……た?」

 トレイにカップを乗せ、振り返った紅子は二人の姿が消えていることに気づく。食堂を出て行った気配もないし、悪ふざけをして遊ぶような二人でもない。食堂内を見回した紅子はとんでもない物を発見してトレイを落としそうになった。

 「え……何、これ」

 トレイを近くのテーブルに置き、できるだけ足音を立てないように近づく。少し離れた場所まで近づいてから紅子は腕を組んで考えた。

 「……こういうときは、どうしたらいいんだろ」

 赤木と青山の服に埋もれるように眠っているのは二人の「子供」だった。心当たりなら何となくだがある。こんな芸当を可能にするのはメノスの怪人、ジュテームしかいない。
 以前も青山と黒峰の中身を入れ替えてハートレンジャーを混乱に陥れようとした実績がある。もっとも、一癖も二癖もあるハートレンジャー達はジュテームの思惑とは全く別のところで盛り上がっていたのだが……
 自分一人の手に余ると判断した紅子はため息をつくと子供二人を服にくるんで抱き上げ、長官室へと向かった。日々トレーニングを積んでいる紅子だがさすがに子供二人は重い。ふらふらしながら歩いていると背後から声をかけられた。

 「ああ、ちょうど良いところに。奈月さん、青山君を……」

 立ち止まった紅子に九楽が並び、驚いたような表情を浮かべる。

 「これは……何と言ったら良いのでしょうか」
 「私の隠し子ではないことだけはお伝えしておきます……」

 何を言われるかおおよその見当がついた紅子は先手を打って九楽に事実を伝えた。隠し子どころか彼氏もいないしそんな心当たりすらない。ただ、そこまで言ってしまうと自分が寂しくなるのでやめておいた。
 九楽はおやまあ、という表情ですやすやと眠る二人の子供を見ていたが穏和な笑みを浮かべて呟いた。

 「事情はともかくとして、かわいらしい子達ですね。こっちの子は癖毛の感じが赤木君によく似ています」
 「……ええまあ」
 「こっちの子は青山君と同じところにほくろがありますね」
 「ええ、まあ……」

 九楽と紅子、二人の間に沈黙が流れる。夜も更けた基地内には人気もなくしんとした空気だけが流れていった。

 「……まさかとは思いますが、この二人は赤木君と青山君ですか」
 「状況証拠から考えると、おそらくそうです」

 さすがは九楽、話が早い。紅子は深々とため息をついて事の次第を説明する。話の間に九楽が青山を引き受けてくれたので紅子はずいぶん楽になった。

 「推定年齢は5〜6歳と言うところでしょう。小学校に上がる直前と言う感じです」

 話が終わると九楽は穏やかな笑みを浮かべつつそんなことを呟く。

 「そうですか……記憶とかはどうなっているんでしょうね……」
 「さぁ。こればかりは二人に直接聞くしかないですね」

 やはり九楽も千鳥に相談した方がいいと言うので紅子は九楽と並んで長官室へと向かった。成人男性が唐突に子供に退行するなど世界の理に反する現象だし、有事の際に動けるハートレンジャーが三名しかいない、という事実はJガーディアンズとして見逃せない。
 幸いな事に千鳥は長官室で書類仕事に追われていた。赤木と青山をソファに寝かせて紅子は何が起こったかを手短に説明し、九楽は食堂に放置した衣服の回収に向かった。
 ジュテームの仕業かな、と渋い顔をして呟いた千鳥はソファで健やかな寝息を立てている二人の子供を眺めていたが柔らかな笑顔を浮かべる。

 「それにしても、かわいいものだね二人とも」
 「……そうですね」

 紅子はそんな千鳥の言葉に心から同意した。赤木は少年のようなところがあるので容易に想像がつくが、沈着冷静を常とする青山の幼少期など想像できない。
 そこに九楽が戻ってきて三人で赤木と青山の寝顔を眺めつつ、話し合いが始まった。話し合いと言っても具体的な話は千鳥と九楽が進め、紅子は二人の話をただひたすら聞いているだけだ。
 遺伝子レベルでのチェックや記憶の有無、今後の対策などを話し合っている途中、長官室直通の電話が鳴りだした。千鳥は九楽との話に熱中しており電話に気づかない。許可を得ず直通電話に出るのも悪いだろうし知らせた方が良いのかと紅子が悩んでいるうちに電話は切れて、次は紅子の携帯が鳴り始めた。

 「す、すみません……」

 紅子はあわてて席を立ち、長官室の隅へ移動すると携帯端末を手にする。ディスプレイに表示されていたのは神谷の番号だ。

 「……はい、奈月です」

 声をひそめて電話に出るとずいぶん焦った様子の神谷の声が聞こえてきた。滅多にない事なので驚いたが神谷は紅子の事などお構いなしに話を切り出し、話を聞いた紅子も神谷が焦っている事などどうでも良くなってしまった。
 通話を終えた紅子は足早に千鳥と九楽の元へと戻る。

 「た、大変です! 今神谷さんから連絡があって、猿飛くんと黒峰さんも、小さくなっちゃったみたいで……!」

 話し合いに熱中していた千鳥と九楽は紅子の声に言葉を止め、顔を見合わせた。

 「今はイエローマンらしいんですけど、すぐに二人を連れて基地に戻るそうです……ど、どうしましょう……」

 赤木と青山が子供に戻っても猿飛と黒峰がいるからそう心配することもないだろうと思っていた紅子は思わぬ連絡に呆然とするしかない。それは千鳥と九楽も同じらしく、長官室には沈黙が流れた。

 「物理的にハートレンジャーの動きを封じようとしている、という事だろうか」
 「方法は斜め上ですが、効果的ではありますね」
 「私一人では、ちょっと……」

 ため息混じりに呟いた三人はとりあえず神谷を待つことにして話を中断する。時間がすぎればすぎるほど紅子の不安は募り、居ても立ってもおいられなくなる。
 深々とため息をつきながら何気なく赤木と青山を見ると二人は良い夢でも見ているのか、無邪気な笑みを浮かべていた。

 −続く−



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