恋戦隊LOVE&PEACE | ナノ
クローストロフォビア


 閉じた部屋でうずくまって、何も見ずに過ごしていた。
 耳をふさいで目を閉じて、一人で朽ちていく日を待っていた。
 誰も、与えてくれないから。
 誰にも、与えない。
 でも、もし。
 誰かが、与えてくれるなら。
 その誰かに全て与えてもいい。
 全てを引き替えに、全てを下さい。
 あなたの全てを下さい。
 そして二人で。


 「紅子ちゃん?」

 紅子は猿飛の声にゆっくりと振り返る。

 「どうしたの」
 「……雨が、降り始めたから」

 肩や髪にかかった雨をぱたぱたと払って紅子は言い訳のように呟いた。
 猿飛は看板を仕舞いながら怪訝そうに紅子を見ていたが、入りなよ、と声をかけてくれる。その言葉に甘えて紅子は誰もいない店内に入った。

 「雨、ひどくなりそうだしね……それまでにここに来れて良かったんじゃない?」
 「そうかもね」
 「……なんか、調子狂うんだけど」

 猿飛は少し低い声で困ったように呟く。

 「紅子ちゃんが自分から、俺の所に来るなんて何日ぶり? っていうか初めての時以来じゃないの?」

 カウンター越しに出されたトニックウォーターを一口飲んで、そうだったかと改めて思い返す。
 そう言われればそうかもしれない。
 雨も降るよ、と言い捨てた猿飛は紅子の隣に座った。

 「で、どうしたの? 人生相談でもしたいの? それともしたいの?」

 そう、それだ、と紅子は心の中で呟く。
 体の奥に猿飛の香りが染みついていて、そんな香りを感じながら他の男と談笑していたら突然、何もかもがどうでも良くなってしまった。
 とどめのように紅子さんって清楚だよね、とか言われてしまった紅子はたまらずその場を逃げ出した。
 それをこの男の前で言ってみるがいい。
 きっと悪魔のようにせせら笑ってくれることだろう。
 つまるところ自分はひとでなしで、結局はひとでなしの傍が落ち着く場所なのだ。

 「……友達に紹介された人と会ってたけど、気持ち悪くなって逃げてきた」

 気持ち悪いって、と呆れたような声が聞こえる。

 「いい人だったんだけどね」
 「俺よりも?」
 「猿飛くんはいい人とか、そんなんじゃないでしょ」

 それはそうだ、と低く笑った猿飛は手を伸ばして紅子の前に置いたままのトニックウオーターを飲む。

 「で、いい人とかじゃない男の所に逃げてきたんだ」
 「そう。猿飛くんなら私が清楚じゃないって知ってるでしょ」
 「……可愛いこと言うんだね。いつもそんなに素直ならいいのに」

 その言葉に反論しようとしたとき、猿飛が手首を掴んで歩きだした。強い力に引きずられるようにスツールから腰を浮かした紅子は抵抗する。

 「ちょっと! 猿飛くん……」
 「可愛いすぎて、腹が立つ」

 そう言い捨てて猿飛は紅子を引きずってカウンターの奥へと向かい、扉を蹴破るように開けた。
 薄暗い部屋はごく普通の、しかし生活感のないワンルームだった。恐ろしく強い力で引き寄せられ、投げ出されるように突き飛ばされた紅子を弾力のあるマットが受け止める。
 店の照明が開け放たれた扉から部屋の入り口を照らす。その光を背に受けた猿飛の整った顔は無表情で、紅子は身動きがとれない。

 「これ、邪魔だよね」

 紅子の足に手を伸ばした猿飛はサンダルを脱がせて投げ捨てる。
 僅かに開いた脚の間に膝をついた猿飛はこれも、と言いながらスカートの中に右手を突っ込んだ。

 「邪魔」
 「やめて!」

 スカートの上から猿飛の手を押さえようとしたが、左手がしなやかに紅子の手を払いのける。右手はショーツにかかり、むしられるようにはぎ取られた。
 それも投げ捨てられ、ベルトを外す音が耳に届いたとき紅子は何をされるのか理解してマットから逃げようとした。
 
 「駄目。逃がさない」

 脚を捕まえて猿飛は目を細める。ばたばたと暴れる脚を押さえ込んで猿飛は体を進めた。
 まだ濡れてもいないところに熱いものが触れる。

 「やめて……」
 「ねぇ……初めては誰にあげたの」
 「やめて! 嫌!」
 「覚えてない? なら俺にしといてよ」

 嫌、という言葉は悲鳴に変わった。ぎしぎしと軋むように体を押し開いていく痛みは破瓜の痛みなど比べものにならない。
 痛みに耐えかねて喚きながら猿飛の肩に爪を立てる。

 「いた……い! 痛い!」
 「力入れると、余計痛いよ?」

 せせら笑うような囁きに猿飛をねめつける。しかし猿飛は笑ってその目を見つめ返した。

 「ほら、力抜いて」

 猿飛から逃げられないことを悟り、紅子は力を抜く。強情を張って苦痛が続くよりも、早く楽になった方がいい。
 それに、と思う。
 こんな男のところを選んだのは自分なのだから。
 いい子だね、とからかうような声が腹立たしくてならない。
 紅子の痛みなど関係ないとでもいう動きで腰を突かれて涙がにじむ。
 猿飛の笑顔がぼやけて見えた。

 「痛い? でも全部入ったし……すぐに気持ちよくしてあげるから」

 ゆっくりと、緩やかな動きにひきつれるような痛みが生じる。その度に悲鳴を上げる紅子を猿飛は満足げに見た。

 「あぁ、ほら、濡れてきた」

 軋むようだった膣内が滑らかに猿飛の物を受け入れていく。自分の意志とは別の、本能がそうさせることはわかっていた。
 それが尚更に悔しい。
 どんなに睨みつけても猿飛は笑っていた……嬉しそうに。

 「……紅子が好きなのは、ここ」
 「ぁあ……っ」

 体の奥の、一部分。猿飛であれば熟知している場所を突かれて声が漏れる。悲鳴ではなく、甘い声。
 
 「ここ、知ってる男はいるの? いたら殺しに行くけど……」

 上擦った声で物騒な事を囁きながら猿飛は腰を突き上げる。紅子はかぶりを振って肩を掴んでいた手を引き寄せようとした。
 肉を打ちつける音にかすかな濡れた音が重なる。これは本能ではないぬめりの音。

 「駄目。動けなくなるよ……」
 「や……い、や……」

 獣のような息づかいと共に聞こえる声は艶めいている。
 性急な、まるで早く終わらせてしまいたいとでも言うような動きに耐えきれなくて腕に力を込める。

 「だめ……も、やめて……」

 嫌だ、と言う言葉を境に動きが早くなる。脳裏にちらちらと白い光が浮かび、やめて、ともう一度懇願した。
 定まらない視点に眉を寄せた猿飛が見える。
 
 「いやだ」

 ねじ込むように突き上げられて紅子は一際高い声を上げた。体の奥に暖かいものが溢れ、猿飛がひくりとうごめくたびに声が漏れる。
 ぐったりと体を預けてきた猿飛の全体重を受け止めて紅子はしばらく何も考えずにいた。
 小さな痙攣が何度か襲い、ようやく猿飛は体を起こして紅子の中から離れる。

 「――紅子」

 整った顔に、笑みを浮かべながら猿飛は顔を寄せた。

 「楽しみにしてる」

 何を、と呟きかけた紅子に口づけた猿飛は不気味に優しく頬を撫でる。

 「え……な、に」
 「身ごもったら、俺一人の物になってくれるよね」
 
 紅子は冷水を頭から浴びたような思いで猿飛を見た。
 猿飛は動けないでいる紅子をそっと抱き寄せる。

 「でも、子供はいらない」

 
 そして二人で、朽ちてゆく。
 もうなにも、いらない。
 
 end


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