恋戦隊LOVE&PEACE | ナノ
君知り初めし頃


 疲れているのだということは何となくわかっていた。
 もう少し、柔らかい言い方ができればいいのかもしれない。
 もしくは、優しくすればいいのだろう。
 ……それができる性格なら、こんな事にはなっていない。かといってこの性格をどうにかしようとも思わない。
 
 「あの……青山さん」

 遠慮がちな声が聞こえて立ち止まると彼女は少し足を早めて隣に並んだ。

 「どうして、違う色の桜があるんでしょうか」

 そう言われて見ると、桜並木にはひときわ白い桜が咲いている。ソメイヨシノよりも早咲きなのでよく目立つ。
 この光景を見飽きるほど見てきたはずなのに気づかなかった。 

 「……品種が違うんだろう。白いのはおそらくヤマザクラだな」

 ヤマザクラ、と呟いて彼女は桜を見ている。
 少し痩せたかもしれない。
 こういう時、猿飛なら優しい言葉の一つでもかけるのだろう。

 「ヤマザクラはソメイヨシノと異なり、開花と同時に若葉が出る。それに長寿だな。個体変異が多く、開花時期も花の形も色も様々だ。古来、桜と言えばヤマザクラのことを指した」
 「……じゃあ、ソメイヨシノは?」
 「ソメイヨシノは比較的近代になってから栽培され始め、明治時代に染井吉野と改名された。元々は一本の木からなるクローン植物で、種子で増えることができない。接ぎ木でないと増えることができず、人の手によって増やされてきた植物といえるだろう」

 桜に関する情報をつらつらと口にしていくと彼女の表情がほんの少し明るくなった。こう言うところは少し変だと思う。
 何かを問われて答えを返すと表情が凍るか、論理的すぎてつまらない、実感が伴わないと言われてきたのだが。

 「クローンって言うことは、DNAが同じって言うことですよね」
 「そう。だからすべてのソメイヨシノは一斉に開花して一斉に散る。病気に弱いし、短命でもあるな。ソメイヨシノは一斉に枯れるなどという都市伝説が生まれるゆえんでもある」

 ふぅん、と呟いた彼女は笑う。

 「青山さんは、いろんなことをご存じなんですね」
 「知識として知っているだけだ。ただ情報を羅列しているだけの話など、面白くないだろう」
 「そんなことないです。青山さんの話は面白いです……」

 彼女はそう言ってはっとした顔をした。

 「申し訳ありません……仕事中でしたね」

 慌てて歩き始める後ろ姿は小さく、細い。あの後ろ姿を見ていると決まって、守ってやらなければならないのだろうと思う。
 何故、私を選んだ。目が合ったからか?
 それとも別の理由があるのか……ならば、教えてほしい。
 そんな言葉が言えるならこんな性格にはなっていない。
 彼女を追い越してしまうような、しかし追ってきてくれることをどこかで待っているような性格には。

 end


[*prev] | [next#]

- 5/16 -



[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -