恋戦隊LOVE&PEACE | ナノ
恋せよ!ピンク〜猿飛と青山の場合〜


 日替わりの恋人はどう? と問われた紅子はげんなりとかぶりを振った。

 「……疲れました」
 「うちのイケメン集団を相手にして、疲れましたって感想もすごいわねぇ……」

 神谷は驚いたように紅子を見ている。
 今日は金曜日。本日の恋人は紅子が指名するのだが、先輩方には待機してもらうことにした。
 とにかく、疲れる。

 「いえ、皆さんいい人だっていうのはわかってるんです。私なんかにはもったいないって思います。でも、本当に疲れたんです……」

 すったもんだの末に、ローテーションはリーダーからお決まりの順序で、と言うことに落ち着いた。
 当然、紅子の意向は聞き入れてもらえない。

 「昨日は継ちゃんだったのよね?」
 「えぇ……そうですね」

 朝からどこかに連れ去られそうになったり、昼から押し倒されたりと穏やかではない木曜日を思い出した紅子は深いため息をついた。その様子にさすがの神谷も引き気味だ。

 「水曜日は……」
 「猿飛くんです」

 水曜日はまるで、反射神経の訓練だった。おかげで反射神経だけは格段に良くなったと自信を持って言える。

 「火曜日は青山さんで、月曜日は赤木さんです」

 火曜日は分刻みのスケジュールで動く青山に連れ回され、月曜日は赤木のトレーニングに延々と付き合わされるという、恋人と言うよりも助手に近い扱いを受けた紅子だったが、水曜日と木曜日に比べたら助手扱いの方が遙かにマシだ。
 月曜から木曜までを思い出した紅子は泣きたくなった。

 「……本当に、疲れてるのねぇ」

 神谷が苦笑いを浮かべて紅子の頭をよしよしと撫でる。

 「神谷さん〜……」

 すがるように神谷を見る紅子に、神谷がにっこりと極上の笑みを浮かべた。

 「いっそ、私に恋してみる?」

 私なら紅子ちゃんを疲れさせたりしないわ、という魅惑的な囁きを紅子は一蹴した。

 「いえ、結構です」
 「早!」

 神谷もあの四人に引けを取らないくせ者だ。金曜日に神谷が組み込まれたりしたら恐ろしくてならない。
 すごい早さで断られたよ……と神谷がわずかに男の顔をしてぼやくが当然の事ながら、紅子は気づいていない。

 「桃ちゃん、抜け駆けはダメだよ〜」

 うちの天然ちゃんに手を出しちゃダメ、と猿飛が音もなく現れると紅子の隣に座った。

 「その、天然ちゃんってやめてくれないかな……私、天然じゃないし」
 「……紅子ちゃんが天然でなければ何なの?」

 真顔の猿飛に問われて紅子はうっと言葉を詰まらせる。

 「継ちゃんとオレが揃って言い寄っても動じない女の子の、どこが天然じゃないっていうの? 教えてもらえないかな」

 妙に顔を近づけられて紅子は思いっきり顔をそらした。
 これだけ近づいてもその容貌に欠点が見あたらないというのが恐ろしいし、心臓に悪い。
 その様子を眺めていた神谷は軽く笑った。

 「……これは、思ったよりも大変そうねぇ」
 「でしょ? 普通はオレか継ちゃんで落とせるものなのにねぇ……ツンデレ眼鏡と純情王子はともかくとして」

 顔をそらしたままばくばくする心臓を落ち着けようとしていた紅子の心拍数は、視界の隅に入ったスーツでさらに上昇した。その上、冷や汗までどっと流れてくる始末だ。

 「……そうね。特に眼鏡はね」
 「機械人間とは良く言ったものだと思うよ。感情が見えないからわかりづらいしね」

 好き勝手な事を言う猿飛の服を無言でぐいと引っ張って紅子は危険を知らせる。しかし遅かった。

 「……機械にはマニュアルが付属しているのが常識だったな。そのことを失念していた」

 冷ややかな声が猿飛と神谷の言葉を止めた。食堂にしんとした空気が流れる。

 「そ……そう?」

 ひきつった猿飛の言葉に青山は頷くと静かに紅子の隣に座る。猿飛と青山に挟まれて、紅子の動悸は止まらない。
 もちろんいい意味の動悸ではなく、心臓に悪い系の動悸だ。

 「来週の火曜までには作成しておくので、熟読して私の取り扱い方を理解するように」
 「わ、私がですか?」

 そうだ、と青山は真顔で頷くと手にしていた紅茶に口をつけた。

 「ちょっと、それズルくない?」
 「何がだ? 機械を取り扱うのならそれなりの事前知識は必要だろう……何しろ、私は機械人間なのだし」
 「いや、だからさ〜……悪かったって玲ちゃん!」
 「別に、何も思っていないから安心するといい」

 神谷が笑いをかみ殺して猿飛と青山のやりとりを眺めている。間に挟まれた紅子としてはそれどころではないのだが……

 「機械は嘘をつかない。操作通りに動くから取り扱いを覚えると楽でいい」
 「は……はぁ……」

 どう返事をしていいのか、曖昧に言葉を濁した紅子に青山は言葉を続ける。

 「少なくとも、そこの狼よりは扱いやすくなるだろう」

 そこの、という言葉に紅子も、神谷も猿飛を見た。その視線に猿飛がむっとした表情で反論する。

 「誰が狼って? オレは至って紳士なんだけど……」
 「……紳士って隙さえあればキスする生き物なの?」
 「送り狼のくせして良く言う」
 「私は、知っているぞ」

 しかし、口々に問われて猿飛は追いつめられてしまう。
 青山が知っている「何か」や送り狼の実体は結構なものなのだろう……

 「オレが狼なら、継ちゃんはどうなるの? あの人も大概だと思うけど」
 「……常に色魔であるなら警戒もしやすいだろう。おまえは豹変するから狼なんだ」

 淡々と指摘を受けた猿飛は反論しようとしているが材料が見つからないらしい。しばらく沈黙が続いた。
 その空気に耐えかねたのか、神谷がそそくさと席を立つ。

 「じゃね、紅子ちゃん」
 「神谷さん!」

 私を一人にしないで下さい! という叫びもむなしく神谷は逃げるように食堂を出ていってしまう。
 紅子は浮かせた腰を再び椅子に落ち着けて、水を一口飲んだ。

 「あの、私もそろそろ……」

 戻らなきゃ、と言う紅子を青山と猿飛が同時に見た。
 落ち着いていたはずの心拍数が再びばくばくと上昇する……決して、ときめきなどではない。

 「……か、かいものにいきたいのですが」

 昼からは少しだが時間が空いている。その時間を利用して買い物にいこうと思っていたのは本当のことなので、この場を去る口実としてつい口走ってしまった。
 猿飛はにっこりと笑い、青山は頷く。

 「それはいい。同行しよう」
 「そうなの? じゃ、オレも行くよ」

 二人はほぼ同時に違う言葉で紅子への同行を申し出る。そして紅子が間にいないかのようににらみ合った。

 「……玲ちゃんは、忙しいんじゃないの〜?」
 「生憎と、手持ちの仕事はすべて終えた。猿飛こそ頼まれた仕事が終わっていないのではないか?」
 「締め切りはまだ先だし?」
 「そうやってずるずると後回しにしていくから、仕事も溜まっていくんだろう」

 穏やかに棘のある言葉で言い合いを続ける二人に挟まれて紅子は身の置き所がない気分になる。それに、この二人の言い争いを聞いているのは悲しい。

 「あの!」

 紅子は少し大きな声で二人の言葉を遮った。

 「言い争いするの、やめましょうよ……買い物は、三人で行きませんか……嫌でなければ、ですけど」

 言い争いの原因が自分にあることぐらいは自覚しているので、言葉は自然、小さな声になっていく。ついでにうなだれ気味にもなる。
 両脇からため息が聞こえた。

 「紅子ちゃんがそう言うし、やめとこうか、玲ちゃん」
 「……そうだな」

 あぁ、空しい。と猿飛はぼやいて紅子に笑いかけた。

 「早く準備しといでよ」
 「……え?」

 買い物の準備だ、と青山が呟く。

 「私たちはここで待っているから、速やかに準備を整えて戻ってくるように」
 「は、はい!」

 ぴしりと言われて紅子は反射的に席を立つと食堂を後にした。
 ハートレンジャーの面々が仲違いしているのは見ていて悲しい。馴れ合いという訳ではないが、仲良くしているのが一番だと思いつつ紅子は部屋へと駆けた……

 「玲ちゃん……」
 「何だ」

 青山と猿飛はそろって深いため息をつく。

 「オレ、ほんっとに、空しい」
 「……同感だ」
 「それに、紅子ちゃんのあの顔は反則だよね」
 「あんな悲しそうな目をされてはな……」

 部屋でばたばたと買い物の準備をする紅子は、青山と猿飛がこんな会話を交わしているとは夢にも思っていない。
 
 「リーダーと継ちゃん、少しはうまくいったのかな……」
 「うまくいったと思うか?」
 「……欠片も思えない」

 再び深いため息をついて、後は実力行使しかないんじゃないか、それなら継ちゃんが有利じゃない、と頭を抱える猿飛とゆっくりとかぶりをふる青山。
 いずれ、四人の先輩たちの間で実力行使の話題が持ち上がる事など知らぬまま、紅子は部屋を出て二人が待つ食堂へと向かった。

 end


[*prev] | [next#]

- 9/12 -



[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -