あの頃、眠る娘の隣から離れることがハクガにとって一番辛かった。夜が明けるぎりぎりまで娘の寝顔を見ていた。そばにいたかった。さらってしまいたかった。けれど自分のようなどっちつかずの者がニンゲンの娘をさらっても良いことなんか一つもない。
――だから、自分も「同じもの」になろうと決めた。
雨に濡れた服の代わりにと日菜子が出してくれた服はハクガが頻繁に日菜子の元に訪れていた時、購入してくれたものだ。礼を言うと、だって着替えがないと困るじゃないとふてくされたように返事をした日菜子を今でも覚えている。
きれいに洗濯された服を身につけて座っていると窓から空が見えた。いつの間にか雨は止み、陰鬱な雲の隙間から光が射している。
飲み物を手に戻ってきた日菜子が隣に座った。
会いたかったとは言ってくれなかった。そばにいてもいいとも言ってくれなかった。けれど、待っていたと言った。
日菜子は待ってくれていた。
「……まだ、日も暮れてないのね」
ため息混じりに日菜子が呟く。コップを手に、空を見ていた日菜子は目を細めた。
「こんな時間にハクガと一緒にいるのは初めてかもしれない」
ぽつりと呟いた日菜子は少しだけ笑って空を見ている。ハクガはその横顔から目が離せない。
……日菜子は自分の事が好きなのだろうか、と初めて思った。
好きだという言葉を聞きたいと初めて思った。
end
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