午後3時の甘い誘惑



冬の寒い日、昼寝から起きたばかりの俺は秘密基地のソファで一服していた。吸い込んだ煙で頭を覚醒させようとするが、寝起きの脳みそはまだまだボーッとしていて、残る眠気から思わず「くぁ」と欠伸が出た。

部屋の時計をチラッと見れば、針は午後3時過ぎを指していた。無意識に落ち着きのない足が小刻みに動く。毎日、この時間になると時計が気になってしまうのは、予定通りであれば恋人の女主人公が此処に来るからだ。

(そろそろだな……)

そう思えば、キッチンに行っていた女主人公が後ろに何かを隠しながらやってきた。その様子は見るからに上機嫌だ。

女主人公は決まって3時になると間食を取る。彼女曰く『おやつタイム』だそうだ。おやつはクッキーだったり、アイスだったり、ポテチだったりと様々で『前日と被らない』というのが彼女の独自ルールらしい。(ちなみに、昨日は寒いからと買ってきたコンビニのあんまんを二人で分けた)

何故、俺が女主人公を待ってるかと言うと、その時間に居合わせれば「半分こ」とおやつのお零れが貰えるからだ。女主人公の選ぶおやつはハズレがなく、どれも美味い。(何より恋人と過ごす時間だ、嫌な訳がねェ)気が付けば、一日一回あるこの時間を楽しみにしている自分がいた。

「今日は何を持ってきたんだ?」

俺がそう尋ねれば、女主人公が勿体振ったように「んふふふふ」と笑い、後ろに隠していたそれを見せる。

「じゃじゃーん!!今日は洋酒チョコレートでーす!」

女主人公が嬉しそうに見せてきたのは緑色の薄い箱だった。あどけない笑顔が可愛いと思ってしまうのは、俺が女主人公に惚れている所為なんだろう。

「ねぇ!この後、外出の予定は?」

「? 特にねェが……」

「なら大丈夫だね。少量だけどお酒が入ってるから、今日はもう車の運転はダメですよー」

出掛けるのは明日にしてくださいね、と言うと女主人公は俺の左側に座り、膝の上でガサガサとチョコの箱を開け始めた。高級そうなデザインの紙パッケージには酒の写真と飲酒に関する注意が書かれている。女主人公が箱からチョコの乗ったトレイを少しだけ引き出すと、そこから一粒を取った。

「はい、あーん」

吸っていた煙草を近くの灰皿に押し付け、言われるがままに「あ」と口を開ける。女主人公が俺の口にマットブラウンの粒を運ぶと、それを歯で受け取ってからパクッと口に入れた。ひと噛みすればパリパリとチョコのコーティングが砕け、続いて中からとろりとしたブランデーが溢れてきた。大人向けの程よい甘さと苦味が口いっぱいに広がる。しばらく口の中でもごもごと堪能してから、最後にブランデーと混ざったチョコをゴクリと呑み込んだ。

「へー、結構うめェな」

「でしょ? 冬限定だから、この季節になるとついつい買っちゃうんだよねぇ」

「なァ、もう一粒くれよ」

「いいよ」

俺が「あー」と女主人公に向かってまた口を開ければ、女主人公が「ん」と同じように差し出す。今度は数回噛んでから、途中で噛むのを止めた。チョコを口に含んだまま女主人公に視線を向けると、彼女は俺が食べている姿をニコニコと見ていた。美味いものを二人で共有出来るのが嬉しいんだろう。女主人公の様子を尻目に、俺はなるべく自然な感じでソファの背もたれに腕を回した。そして、気付かれないようゆっくりと女主人公の後頭部に手を持っていくと頭を抱き寄せ、互いの唇を近付けた。

「んむぅ……ッ!!」

女主人公の柔らかい唇が、俺の唇にふにっと当たる。目を開ければ女主人公が驚いた顔でこちらを見ていた。数秒してから、状況を理解したのか「んー!」と手で俺の胸を押してきたが、鍛えていない女主人公では何の意味もない。その力は段々と弱くなり、抵抗を諦めた手は胸に添えられるだけになった。

自分の口からチョコが溢れないよう舌を出すと、女主人公の唇をちろちろと舐めた。すると、彼女の口が僅かに開く。そこを舌で押し広げると、ブランデーと砕けたチョコを女主人公の口に押し込んだ。

「ふっ……ん、ぅ……」

漏れた女主人公の鼻息が俺の上唇に当たり熱くなる。舌を使って女主人公の前歯裏にグリグリとチョコを押し付ければ、甘い欠片はゆっくりと溶けていった。

チョコがなくなっても唇を離す気にはなれず、続けて女主人公の口内を犯していく。
舌と絡ませたり、歯茎をなぞったり、女主人公の唾液をヂュッっと吸ったり。貪るような口付けを繰り返せば、唾液はもうどちらのものか分からず、唇はビチョビチョだ。

ヌチュ、クチュ、ピチャ、と唾液の絡むいやらしい音が俺の五感を刺激する。体があちぃ。女主人公は息苦しさに眉を寄せ、俺に添えていた手で胸元をキュッと掴んだ。女主人公の可愛い行動に思わず、空いている手で彼女の太ももを摩ると女主人公の体がビクビクッと跳ね上がった。その反応が面白く「もっと見たい」と、腹や腰などワザと違う箇所に触れる。すると、焦らされた女主人公が次第に太ももをモジモジと擦り合わせる。ムラムラするよなァ……分かる、俺もだ。

名残惜しくも最後にリップ音を立てて唇を離せば、女主人公が「ん、はぁっ……」と色っぽい声を出す。自分がさせたとはいえ、女主人公の陶然とした表情に下半身がぞくりとする。

「はっ……じょー、かぁ……ッ」

「ッ……あァ……」

愛した女に熱っぽい瞳で自分の名前を呼ばれれば、やることは一つだ。そもそも今日は女主人公の言う通り、もう外には出られねェんだ。好きにさせてもらおう。

いつの間にか女主人公の膝からソファに落ちていたチョコの箱を取ると、中から一粒取り出す。チョコを前歯で軽く咥えてから、女主人公に差し出すと、女主人公が欲しがってる表情で「あ」と口を開けた。それを合図に再び彼女の唇に噛み付くようなキスをした。

(さァて、残りは何粒だ……)

箱が空になった時、チョコレート同様に俺たちの心も体がもドロドロに溶け合っているだろう。明日にでも多めに買い直してやるか、と頭の片隅で考えながら女主人公の服に手を掛けた。これは酒の所為だと自分に言い聞かせて――。


20210101
ジョーカーとバッ○スを食べる
(text)
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