※少し暗い…?
※鉢雷鉢






この世の中には説明できるものなんてほんのわずかしかないのだ、たぶん。だってそうでなければ今、こうして僕と三郎が熱い口づけなどするはずがない。生物学上どちらも男に分類される僕たち二人が、互いを想い合うなんてどうしてあるのだろう。
もう長いことこうしていたような気もするし、まだほんのわずかしかたっていないような気もした。だけどだんだん鈍くなる舌の感覚が、苦しくなる息が、時間の経過を物語っているのも感じていた。

今、みんなは授業を受けているはずだ。それなのに僕は三郎と二人っきりで静かな教室にいて、こうして何度も口づけをしている。この状況はいったい何だろう、とぼんやりした頭で考える。確か、僕は前の休み時間に廊下を歩いていた三郎を見つけて声をかけた。なんだかんだ言って優しい三郎に甘えていて、それからどうした?僕だったか、三郎だったか、鮮明ではないがどちらかが手をとって二人してここに来た。引っ張っていたのは僕だったような気がするけど、手首に残っている握られた感触は、アレは多分三郎が握ったのだ。そしていつの間にかこの状況になっていた。

目の前でひたすらに自分を求めているのは、一体誰?三郎、彼以外ありえない。頬だけでなく耳も首も赤くした、かわいいかわいい三郎。普段は鋭く光らせているその瞳をうっとりと閉じて口づけをねだる彼に、どうして何も感じないでいられようか。

「……さぶ、ろ」
彼の名を呼ぶ。ちょっとだけ、三郎は目を開けてこちらをみた。見たまではいいものの、唇を合わせることをやめようとはしない彼を力ずくで引き離す。ぽかんとコチラを見つめる彼に、「時間、」と呟く。そう、延々とこうしているわけにもいかないのだ。授業はもうすぐ終わってしまう。一時間丸々放り出した自分たちのことを、誰もとがめないはずがない。八左衛門や兵助、勘右衛門あたりは今ごろ、心配しているかもしれない。


と、不意に三郎が手を伸ばして僕の服の裾を掴んだ。今度はこっちが目をぱちくりとさせれば、そのままぐいと引き寄せられてまた口づけられる。

「ちょっ……、三郎!」
「考えるな」
口を離した三郎の瞳は揺らいでいた。彼の瞳に映るのは今、目の前にいる、僕だけ。

「今は私以外のことを、考えるな」

はっきりとそう言った三郎の唇が濡れていた。そこから目が離せない。動けないでいる僕は、いともたやすくまた彼に口をふさがれる。


目の前にいるのは、一体誰だ?優秀で、先輩や先生方からも一目置かれていて、でも悪戯が好きな本当はさびしがり屋の三郎。彼以外ありえない、なぜならば僕は彼以外とは口吸いをする気なんて、これっぽっちもないのだから。

そのとき急にガタンと音が響いた。今鳴った音ではない、これは記憶の断片だった。
間違いなく三郎の手を引き、部屋に連れてきたのは僕だった。わずかに頬を染めた三郎が目の前にいる。彼は僕に捕まれていない方の手でがらがらと後ろの扉を閉めたのだ。それから彼は、そのドアが開かないように壁に立てかけてあった棒で、


「雷蔵」



そう、僕の名を呼ぶ、彼は鉢屋三郎。彼は微笑んでいた。
僕は彼の、その熱に浮かされた瞳を見る度に思うのだ。

僕も彼も、




遺伝子が狂っている




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -