自分にはとても意地悪で口の悪い年上の幼馴染がいる。みっつ年上で中学、高校と同じところに行ったけれど、ちょうど入れ違いになって同じ学校の制服は来たことがない。
「なんだ、なんだー?このチョコオレにくれんのか?あさひぃ、お前は毎年毎年寂しい女だなぁ、今年もオトコ日照りか?」
 綺麗にラッピングされた市販のチョコレートを差し出したオレにニヤニヤしながらタバコの煙をふぅーっと吹きかけてきた。
 うわ、モロに顔にきたっ!これはない。日ごろの感謝をこめてチョコレートをプレゼントしようとしている幼馴染の女の子(一応ね!でかくても女子ですから!)に対してとる態度じゃないよ。
「違う!そんな誤解を生む言い方やめて……。いらないんだったら受け取らなくっても別にいいから」
 むせながら涙目になって手を引っ込めようとしたらひょいっとチョコレートを奪われた。
「そーは言ってないだろう〜?オレは甘党なの知ってるだろ?角のタバコ屋のおばあちゃんからだって、いかつい野郎からだってオレは甘いもんは断らなねぇよ。つか、そんなこたぁいいんだけどよ、旭。違うってことは、お前、最近オトコできたんだろ?ちょっと前に仲がいい後輩がいるとか言ってたアレか?アレとまとまったのか?まぁ、どうでもいいけどよ、いいのか?オトコいんのにオレにこんなもん渡して?」
「別にいいんじゃないかなぁ?毎年あげてたし、勿論今も昔も変わらず義理だし」
 オレの本命は、その……年下の彼だけだ。その西谷は本当にさばさばした男前な性格だから、きっとオレが他の人にチョコレートあげたくらいじゃヤキモチなんかやいてくれないと思う。それはそれでちょっと寂しいんだけど、もちろんへなちょこのオレがそんなこと言えるわけもなく。
「まぁ、そりゃそ〜であってくんねぇとオレも困るけど、相手はそう考えてんのか?今この状況とかさ。今、うちの家族は出払っちまって誰もないのに、20歳の男の部屋に女子高校生が一人で入ってくるっつーのは、オトコ的に面白くないんじゃね?オレとお前じゃ間違ってもナイけど、よそから見たら疑われてもしかたねぇことだぞ。しかも、今日は2月14日よ、わかってんのお前?」
「あ……おばさん、留守なの?」
「旭んとこのお袋さんと買い物と映画を見に隣の駅まで行くって小一時間前に出かけたよ」
「そうなんだ」
 と、いうことは今うちも誰もいないんだ。
「そうなんだじゃねーよ。生まれて初めてお前みたいなおっぱいのでかいことだけが取柄の女に寄ってきてくれた男なんだろ?おっぱい目当てだっつっても、その男はお前みたいなブチャイクな女とつきあってくれてんだから大切にしなきゃ駄目なじゃねぇ〜?お前が彼氏のこと好きなら尚更にな」
「〜〜っ!」
 悔しい!こいつはいっつもそうだ!いつもいつもオレの胸とか顔のことをからかう。おもしろくないけど、それ以外のことについては言われてみてはっとすることがあるんだよな……。
 この口の悪い幼馴染の家はオレの家のはすかいに立っている。歩いて3分とかからないうちに、オレの部屋からこの部屋までくることができる。ちょいちょい上がって話をしているから、これが普通だって思っていたけど……多分そうじゃないんだろう。
 でも、言われたことには腹が立つ。今までだったら「ほっといてくれ」って睨み付けておしまいだったけど、今回はそうはいかない。
「西谷はそんなんじゃない!オレのおっぱいなんかどうでもいいって言ってくれたんだ。西谷に失礼なこといわないでくれ!」
 オレが怒ると、ラフに組んでいた無駄に長い足を投げ出してベッドの上でダラダラとふかしていたタバコを取り落としそうになりながら憎らしい幼馴染は『は?お前に近づいといておっぱいが目当てじゃねぇオトコってどんなヤツだ?何が目当てなんだ?』と真顔で聞いてきた。
 もう、コイツ本当に嫌だ!
「バレーだよ!西谷はオレがスパイク打ってるところを見て興味持ってくれたんだよ!」
「はっ!嘘臭いね!」
「そ、そんなことない!オレだって一応、女バレのエースではあるんだから。西谷は中学でベストリベロ賞をとるくらい優秀な選手で、すごい上手なんだぞ!バレーが好きで、レシーブが好きでさ。西谷のプレイに華があって、見る人を惹きつけるんだから。ブロックされたボールを繋ぐプレーなんてすごく格好よくってさ……。オレは西谷が入部した頃から上手で熱心な部員だなってずっと見てたんだ。そんな西谷が、オレのスパイクを拾ってみたいって言ってくれて。一緒に練習したりしてるんだ。西谷はオレの胸なんかどうでもいいんです!」
「……なんか、うぜぇ。のろけられたし。旭のくせに生意気」
「べ、別にのろけてなんか!!」
 言われてカァーッと顔が熱くなる。
「た、確かに西谷がどんなに素敵か説明したら力はいっちゃったけど、学校の友達にはこんなこと言えないんだから少しくらい聞いてくれてもいいじゃないか!と、いうか西谷のことを聞いてくれたり、アドバイスくれたりするから感謝の義理チョコをあげているわけで」
「うっせー!部活の仲間にでも聞いてもらえよ。それか、山に向かってでも叫んどけ。なんでオレに聞かせるんだよ、てめぇは」
「山に向かってなんて叫んだら木霊して恥ずかしいじゃないか!」
「じゃあ、言わせてもらうけどな、旭。もし、お前が言ってんのが本当ならそれマジで彼氏なのか?ただの仲がいい先輩後輩みてぇに聞こえるけど?いつも爽やかなスポーツ漫画みたいな青春してるって話は聞くけど、ちゅーしたとかハグしたとか肩抱かれたとか手ぇつないだとかってあんま聞かねぇし。それってレンアイなわけ?」
「え……?」
 オレは言われた一言に息が止まりそうになった。
「あー、何ショック受けてんだよ!めんどくせぇな、もう帰れよ、お前!オレはこれからデートなの。お前にかまってやるヒマはねぇの。おうちデートってヤツだ。オレらはこれからエロい事して愛を確かめあうんだから、お邪魔虫はカエレカエレ」
 オレもこれから西谷に会う約束をしている……バレンタインのチョコレートを渡そうと思って、うちの前で待ち合わせてる。どうしよう、オレ……こんな状態で西谷に会えるのかな?
 ショックで固まったままのオレの肩を抱くようにして階段を引き摺り下ろしたくわえたままの幼馴染は、無慈悲にもそのまま寒空の下に追い出した。
「そうだ、とりあえずチョコレート、ありがとな〜」
 おざなりな言葉をかけられたオレはバタンと閉じられた扉をアホみたいに眺めていた。




「ただの仲のいい先輩後輩……男女別だけど、同じバレー部の仲間?」
 確かに、そうかもしれない。と、いうかむしろそのほうがしっくりくるし。隠しているわけでもないのに、チームメイトからは西谷と旭ちゃんってつきあってるの?とか聞かれたことない。
 身長差があってオレの方がでかいから肩を抱かれることはまずないけど、腕を組んだり手を繋いだりすることもあまりないし、キスも片手で数えるくらいしかしてない。その、え、えっちはしたけど、それはオレが盛ってしまったからで、西谷がしたいって言ったわけじゃないし……も、もしかして西谷はオレのこと好きって言ってくれるのはそういう意味じゃなかったりするんだろうか?断ったら、オレが傷つくとか思ってえっちも、無理やりつき合ってくれたのかな?
 オレは西谷を見ていると、ああカッコいいなぁ凄いな好きだなってドキドキするし、恥ずかしいけど、お腹の下の方が疼きだす。けど、西谷はオレをみてときめくなんてあるんだろうか……?
 ああ、駄目だ。どんどん目の前が暗くなっていく……。 
「あの、旭さん……?」
「え!!」
 なんで西谷の声がするんだっ!?
 驚いて振り返れば、オレの家の門扉のところに西谷が立っていた。
 オレは慌てて時計を見ようとして制服のポケットに手を突っ込んで携帯を探ったけどどこにもなかった。自分の部屋においてきちゃったのかな?
「まだ、約束の時間になってないですよ。少し早く着いちゃって、チャイム鳴らしても誰も出てこなかったから待ってたんです」
 黒い学ランにオレンジ色の糸で編まれたざっくりとしたマフラーを巻いただけの西谷の鼻の頭は少し赤くなっていた。西谷はあまりコートが好きじゃないみたいで、あまり着ている姿を見たことがない。今も凄く寒そうだ。
「ごめんな、寒かったよな。とりあえず、上がってあったまっていって」
 もしかしたら、携帯に連絡をくれていたかもしれない。ああ、なんで家を出るときに携帯持ってくるの忘れちゃったんだろう。ちゃんと持ってたら西谷を待たせることもなかったのに。
「……ハイ」
 いつもの西谷らしくない歯切れの悪い言い方だったんだけど、今のオレにそれを気にしている余裕はなかった。本当は何日も前からずっとチョコレートを渡すこの日のことを考えて恥ずかしくなったりドキドキしたりしていたのに、それなのに今のオレはもう何がなんだかわからなくなっている。
 オレは門扉を開けて先に西谷を通すと並んで歩いた。すぐに玄関のドアが見えてきて、鍵を空けた。西谷は前に来たことがあったから、キョロキョロしたりせずに黙って玄関の敷居を跨いだ。
「お邪魔します」
 少し大きな声だなぁって思ったけど、体育会系だし、挨拶だし、日頃から賑やかな方だし……それが何を意図するかなんて考えもしなかった。
「さ、どうぞ。オレの部屋は床暖が入ってるから暖かいよ」
 挨拶したのにスニーカーを脱ごうとしない西谷を促したんだけど。
「旭さん、うちの人は居ないんですか?」
「ああ、うん。みんな留守だから気兼ねしないであがってって」
「……俺、できません」
 西谷はオレの誘いをきっぱりと断った。
「え?」
 なにこれ?オレ、西谷に拒絶された?なんで?どうして?いつもオレのお願いをさりげなく聞いてくれるのに……初めてこんなに強い口調で拒まれた。
「ど、して?」
「だって、誰も居ないのわかってて上がりこむなんて真似できません。ましてや旭さんの部屋だなんて、絶対駄目です」
「そんなこと……」
 そんなこと、気にしないでいいのに……って言おうとしてはっとして口を噤んだ。ついさっき言われたことを思い出した。誰もいない部屋で二人きりになったら、間違いが起こってもおかしくないって窘められた。けど、オレは何か起こってもそれは間違えじゃないって思うし、むしろなにかおこってほしい。西谷からアクションを起こしてほしいのに……。今日だって、キスくらいできたらって考えてたし……できれば西谷の方からしてくれないかなって下心はあったし。
「どうしても駄目?」
 お願い、ちょっとだけならいいって言って……って気持ちをこめて西谷を見たんだけど答えは変わらなかった。
「だ、駄目っっすよ。そんな風にされても……いけません」
 ああ、オレはわがままだ。西谷を困らせてる。
 でも。
「じゃあ、チョコレートだけでも受け取ってもらえる?」
「はい、それは」
 こっくり頷いてくれたから、少し安心した。チョコレートもいりませんなんていわれたらもう、立ち直れない。
「よかった。そしたら、すこし待っててくれないか?その……手作りしたんだけどラッピングが途中でさ。その間、ここじゃ寒いから居間でお茶でも飲んでいて」
「え?でも……」
「お客さんを玄関で待たせるなんてことできないから。ね?」
 必死に言い募ると西谷は少し戸惑いながら頷いた。
「じゃあ、準備ができるまで」
 でも、すぐに帰りますからねと念を押されたのに、今度はオレが頷いた。
 ごめんね、西谷。本当はもう、ラッピングは終わってる。あとは紙袋にメッセージカードを入れるだけなんだ。でも、こうでも言わないと西谷は帰っちゃうだろ?
 



 オレのうちの居間は二つある。片方は畳敷きの和室で炬燵があって、一家団欒に使っている。もう片方は洋間で、ソファとテレビがあって居心地は悪くはないんだけど使用頻度は低い。仙台に住んでる本家の親戚とかが来たときに使うのが主で殆ど客間と化している。
 西谷を通したのはその洋間だった。
 オレは西谷をどうしたら引き止めて置けるかを考えながら台所で牛乳を温めて、ココアを作った。
 よくわからないけど、なんだか気まずいことは鈍感なオレでもわかる。西谷の表情が硬いし、いつもはもっとオレに笑いかけてくれるのに今日はぜんぜん笑顔を見せてくれない。男バレの連中から西谷のプレイと性格は真逆とか言われているくらい賑やかなのに、今日に至っては殆ど話しかけてくれない。オレはどうやって言葉のボレーボレーをしたらいいのかわからなくて凄く焦ってしまう。
 オレ、なんかしたのかな?せめて、西谷に嫌な思いをさせた原因がわかれば謝りようもあるのに……。
 いろいろ考えたけど、西谷を引き止める名案なんか浮かばないままオレは台所を出て、洋間に向かった。これ以上ぐずぐずしていたら、せっかく淹れたココアが冷めてしまう。
 西谷はつけられたテレビを見るともなしにみていた。オレの家のソファーに西谷が座っているってだけでも、昨日までのオレなら素直に喜べたのにな……。
「あの、オカマイナク」
 ガラス製のローテーブルの上にココアを置くと、西谷は言い慣れない言葉を使った。それすらもよそよそしく聞こえて悲しい気持ちになった。マフラーさえとっていなくって、早く帰りたいってそわそわしてる。
 西谷はオレに優しい、と思う。
 同級生の男子なんかには半ば女子として扱ってもらってないけれど、西谷だけは違う。学校の廊下ですれ違ったときに、オレが荷物を運んでいたりすると手伝おうかって声をかけてくれるし、同じクラスの男子に「お前は妖怪塗り壁のようだ」とか言われてからかわれていたのところを「女子にそれはないだろっ!」って本気で怒ってくれたりした。
 だから、そういうことをしてもくれた。
 オレが練習がキツイとか泣き言を言うと、「何いってんスか!オレも頑張るから一緒に頑張りましょう!」とか檄をとばしてくれたりして、ヘンに甘やかすことはしないけど……キスして欲しいとか、抱きしめて欲しいって意思表示をするとそれを察してくれて、いつも期待以上のものをくれた。
「あの、旭さん……?」
 それを知っている狡猾なオレは、西谷の座っているソファの横に腰を下ろした。そして、戸惑うような表情を浮かべている西谷の首元にそっと手を伸ばして首の後ろで結んであるマフラーを解いた。
「ちょっ、やめてくださいよ」
 西谷が仰け反るけど、かまわずに襟元からマフラーを引き抜いてパサリとソファーのクッションの上に落とす。本当は指先の震えを隠すのに必死だった。
 いつもあけている詰襟の第一ボタンがかかっているのをみて、それを外す。一度失敗したけど、二度目でうまくできた。この黒くて厚い生地の下には四字熟語が書かれたTシャツを着ていることが多い。さらに、その薄い布を取り払えば……小柄だけれどしなやかで瑞々しい少年の膚が熱く熱を帯びるのも知っている。
「旭さんっ!!」
 赤くなった顔で窘めるように呼ばれたけれど、オレはそんなことじゃとまらなかった。
 第二ボタンまで外れた学ランの前あわせから、健康的な喉元が見えた。そこに喉仏があるのを見つけて、浅ましいことにオレはまるで花の蜜に吸い寄せられる虫みたいになってしまった。
 西谷の胸元に擦り寄って、喉仏にちゅっとキスをした。
「ちょっ、旭さん、待った!待ってください!」
「待てない」
 無視して、舌を伸ばしてしこをちろちろと擽るとうっと切羽詰った呻き声があがった。西谷の体がびくびくと跳ねるのを両手で縋るように抱きしめて押さえる。
 舌に西谷の膚の感触が気持ちいい。もっと舐めたい。西谷のいろいろなところを舐めたい。
 好き勝手に西谷の首の柔らかい皮膚と喉仏の隆起を唇と舌でむさぼっていると、唐突に西谷の体が硬直した。
「タバコの匂いがする」
 欲望に霞んだ頭でも、わかった。西谷の声が、ぞっとするくらい冷く突き放す響きを帯びていたことを。
 オレは色ボケした助平心に冷や水をぶっかけられた気分になって、慌てて否定した。
「オ、オレはタバコなんて吸ってないからっ!」
 そんなことをしたら、西谷に見放される。それに、オレはタバコにいいイメージがない。意地の悪い幼馴染に紫煙を吹きかけられて咽ているからだ。今、西谷が嗅ぎ取った匂いだってアイツのタバコの匂いだ。
 けれど、西谷の答えは
「そんなの、わかってるよ」
 という、そっけなく突き放すものだった。
 だったら、どうしてそんなに怒っているの?
 現実に引き戻されてしまったオレがどうしたらいいのかわからなくなっておろおろしていると、突然西谷はオレの体を押し倒した。
 えっ?なに、これ?どうしたの?どうしてこうなるの?
 怒らせてしまったから、このままチョコレートすら受け取らずに帰ってしまうと思ったのに逆の展開になった。
 そのままぎゅっと抱きしめられて、オレの首筋に頬を寄せた。
「痛ぅっ」
 首筋に歯を立てられて、思わず声を上げてしまった。でも、その声すら喜んでるよ、オレ。
 西谷は機嫌が悪い。でも、よくわからないけれどオレの体に触ってくれている。
 ……こんな状態だっていうのに、嬉しい。
 そろそろと西谷の背中に手を回して背中を撫でる。それから、ツンツンと立っている毎朝キチンとセットされている髪に指を差し込んで顔を上げさせると、西谷の唇を奪った。
 固く結ばれている唇を食むように啄ばんで、それからオレは自分の唇を半開きにして西谷が堕ちてくるのを待った。
 西谷がソファのクッションを叩いて、小さくくそっと口の中で呟いてオレの口腔に舌を差し入れてきた。
「ん、ん……」
 入ってきた西谷の小さくて薄い舌にゆるゆると自分の舌を絡めた。いつもと違って、オレが自由にするのを許さないみたいに西谷はオレを捻じ伏せた。
 勘違いしているのはわかるけど、それがまるで強く求めらているみたいで……それだけで腰が揺れてしまった。
 乱暴に舌を吸われて、息継ぎもうまくできなくて、たらりと唇の端から二人分の少し滑りを帯びた暖かい唾液が伝い落ちる。全部飲みたかったのに、それすらままならない状態にゾクゾクした。 
「にしのやぁ……」
 どこもかしこも体中が熱くってたまらない。オレは制服のブラウスのボタンを自分で毟るみたいに外して、それからスカートは脱がずに下着だけソファの下に落とした。本当は、自分の体を西谷に晒すことは怖い。細くも柔らかくも白くもない、筋肉質っぽくていかつい体が興ざめだって言われたら死にたくなると思う。けど、西谷は前にこんな体でもいいって言ってくれた。オレのこと好きだって言ってくれて、オレの体で興奮してくれた。
 だから、今回もそれを信じたい。西谷の気持ちが変わってないことを。オレを許してくれることを。
「にしの、やぁ……もう」
 欲しい、と年下の男の子の耳元で哀願すると、西谷は旭さんっとオレの名前を呼んでからちょっと待ってくださいと苦しそうな声で言った。
 もう待てないと思ったけど、西谷の額に汗が光っているのを見つけて、急かす言葉を飲み込んだ。
 独り言みたいに「あっちぃ」って呟いて学ランのボタンを外す西谷の顔は凄く雄っぽくかった。少年っていう言葉が凄く似合う、お日様みたいな無邪気な笑顔をする彼が、オレの体の上でこんなふうに変貌している。オレ以外、この顔を知っている人は居ない。
 首元から腰まで震える。もう、溢れ出たもので内股が濡れているのがわかった。ああ、本当に西谷が好きだ。
 衣擦れの音と、ベルトのバックルのささやかな金属音がオレを追い詰めた。オレは足をそろそろと開くと、両膝を立てた。
「に、にしのやぁ……にしのやあ……」
 キス以外していないのに、もうオレの中は落ちつかなげになっている。欲しい、もう欲しい。
「旭さん……」
 西谷はスカートをはぐると、そっと一番外側の襞を潜って指を一本だけ熱く潤った膣に差し込んだ。
「うわっ」
 ぴくりと中が蠢いた。気持ちいいから、そうなる。でも、まだ馴染んでいない。
 西谷が中の具合に驚いているのが、凄く恥ずかしかった。でも、指を使って欲しかった。
「に、にしのやの指、好き……」
「あ、旭さん……なんで、いつも煽るようなこと言うんスかっ?」
「?」
「試してますか?」
「ど、どうかな?よく、わかんないや……オレ、にしのやの指好きだけど……でも、もう……」
「え?で、でも……それじゃ痛いでしょう……すげぇ濡れてヌルヌルしてるけど、狭いし」 
「っ!」 
 顔から火を噴くかと思うくらい恥ずかしかった。そうだけど、そうなんだけど……!
 ああ、もう……!!
「いい、いいからぁっ!」
 焦れたオレは腹筋を使って一息に起き上がる。指が抜ける感覚に肩を竦めてやりすごすと西谷の上に乗っかった。
「あ、あさひさんっ!?」
「お、重い?」
 勢いよくこの姿勢をとったものの、恐る恐る聞いてみた。西谷はそれは大丈夫ですけど、と言ってくれたので仰向けにした西谷の腰に跨ったまま、後ろ手に目当てのものを探った。
「んっ」
 手にあたったそれは硬く熱くなっていて、それだけでオレは嬉しくなってずくりと襞が蠢いた。あ、でも……この感触ゴ、ゴムだ。いつのまにつけたのかな……。
 薄い膜を隔てて感じる独特の質感と熱っぽくて生っぽい皮膚の感触にいやらしい気分になる。手のひらでさえも感じてる。本当はもっと西谷のいろいろしたいんだけど我慢の限界。
 もう、慣らす余裕すらないよ。まるで、発情した獣みたいで恥ずかしい。慎みがないっていうのは、こういうことを言うんだ。
「旭さん……エロすぎっスよ」
「にしのやぁ、ごめんなぁ」
 こんな淫らな女で本当にごめんなぁ。
 心と口の両方で謝りながら手でそっと包んだ西谷の膨らんだ愛しいものの先端を、もう片方の手の人差し指と薬指を使って一枚目の襞を広げた場所にぴたりと沿わせた。



つづく

 
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