いつか必ずこの男を従わせ、跪かせ、後生だから殺してくれと言わせてやる。
 肺臓と胃の腑が潰れるような妬心にも似た熱情が胸を焦がしたのを大谷刑部少輔吉継は今でも鮮明に覚えている。
 いや、覚えているというのは語弊がある。忘れるまいぞ、と大谷はあの灼熱を胸に刻んだのだ。だから、今も烙印のようにそれは大谷の中にくっきりと残っている。
 太閤豊臣亡き後、凶王三成と供に西を制し、九州を縄張りとしていたその男をも配下に置き、大谷は望みを叶えた。そう、叶えたのだ。だが、どうしても溜飲がさがらない。理由は分かっている。あの男は仕方なく翼下に収まったが、決して恭順を示したわけではないからだ。さらに、あの目だ。長い前髪に隠されてい双眸は、いまだ絶望を知らず虎視眈々と天下を狙っている。手枷を嵌めて、重石まで繋いでやったのにまだ諦めない。撓み、捻じ曲がるくせに、決して折れない。
 あの男を従わせたが、跪かせてはいないし、命乞いをさせてもいない。だから、大谷は黒田官兵衛が見せたあの時の目を未だに夢にみるのだろう。




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