雨にけぶる三成の視界の隅に、舞い飛ぶ蝶の幻が見えたような気がした。
 幻蝶はひらりひらりと身を翻し、三成の肩に舞い降りて、複雑な文様の翅をたたんだ。
「・・・刑部、か?」
 立ち止まり、肩先にとまる蝶に掠れた声で問えば、『我よ』と答えが後方より返ってきた。
 幻蝶は、刑部の打った式だった。
 振り返ってみれば、そこには刑部が担ぎ手のいない輿に乗りゆらゆらと揺れていた。
「ようやくみつけたぞ、三成。敵将を追っていったきり戻らぬ主を迎えに来たのだが・・・」
 蝶を象った兜の下の目できょろりと動き、三成に身を預けてぐったりしている家康を見た。
 三成は沈黙して、耐えた。針の筵に座するような、居たたまれない心地だった。
「まぁ、よい。三成よ、何も聞くまい。何も問うまい。このまま人も呼ぶまい。はやに戻るぞ」
 刑部は紫水晶の目を三日月形に細め、最後にこう言葉を結んだ。
「三成よ。そのような顔をするな。我はいつでも主の御方よ」


 了







*最後までお付き合いありがとうございました。感謝です!

back top

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -