「これ、暗。それを解くな」
 余すところなく全身に巻かれているさらしを、指先からとこうとした官兵衛に刑部はそう言った。
「なぜだ?」
 醜い姿を見られるのが嫌か?と官兵衛が露悪的に笑うと、刑部は混濁する紫水晶の目を三日月形に細めた。
「主は、我が消えてもいいのか?」
「どういうことだ、刑部?」
「そのさらしこそが我よ。それを解いたら我は影も形もなくなるわ。病んだ肉体など、呪法の糧にくれてやったゆえ」
 持ち主の意のままに浮遊する輿や禍々しく光る数珠が脳裏に浮かび、官兵衛が絶句すると、その顔を見た刑部は小首を傾げて「信じるか?」と嘯いた。
 官兵衛は前髪に隠れた眉間に皺を寄せると、手枷をつけられた腕を伸ばし、まるで虫取網で蝶を捕らえるかのような仕草で刑部を広い胸に引き寄せた。
 刑部は己が拘束した官兵衛の逞しい両の腕の中にされるがままに収まると、厚い胸板にそっと頬を寄せてヒィッヒィッと声を立てて笑った。




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