三成は家康の首から手を離した。
 ひゅっと家康が喉を鳴らして呼吸をする。そして、激しく咳き込んだ。
 身体の下に、弛緩する家康の肉体を感じた。開放されても、家康は身体を地に貼り付けるかのごとく、ぴくりとも動かなかった。当然だ、動かば首が切れよう。
 三成は家康の身体の上から一旦退くと、大きく足を開かせその間に立てひざをついた。まるでまな板の上の鯉のような家康を睥睨しながら、指先まで武装した己の黒い手を伸ばし家康の腰に巻かれた縄帯を掴むと、音を立てて一息に蝶の結び目を解き払った。三成は用を成さなくなった腰縄を高々と掲げて、その頬の上に緋色の一条をだらりと垂らしてやると、家康が顔を強張らせる。
 大らかに笑い、余裕を滲ませ、常に胸を張って前を見ている家康の、初めて見せた表情だった。
 三成は笑った。さして、可笑しくとも面白くともないのに、唇の両端が微かに吊り上る。
 三成は家康の表情を毛一筋程の変化をも見逃さんとばかりに凝視しながら、飽きた玩具を討ち捨てる幼子のように縄帯を背後に無造作に放り投げた。続いて草摺も強引にもぎ取ると脇へ放った。家康は息を殺したまま動かない。それではつまらない。
 三成は土埃や血で汚れた家康の袴を膝まで一息に引きおろす。袴の下には、穿いていたのは湯文字ではなく、褌だった。家康は白い褌を締めていたのだ。
 白い薄手の生地が、その股間を覆っている。男の徴である隆起したものは見当たらなかった。しかし、柔らかく身体に馴染んでいる薄布越しに、ふっくらと起伏する恥丘の肌の色を微かに透かし、さらには淡い陰りまでもが三成の目に晒された。
 家康は肩をぴくりと動かしたが、それきりだった。逆に、三成はじりりと焦げるような疼きを腹底に感じ、それに驚いたかのように身体が勝手に揺らめいた。これを口惜しく思わないでもなかったが、情念の赤い炎の舌先がちろちろ舐め上げるのは、身体だけであった。いぜんとして精神だけが自分の身体から抜け出て、この様子を数尺上の高い所から見下ろしているかのような、そんな心地がした。
 どこで家康が動くか三成にはわからなかった。首の両脇に刀の刃がある。動きたくとも動けないだろう。それでも、唯々諾々とされるがままになるとは考えられない。家康は動く。その鍛え上げられた腕を撓らせながら、三成に強烈な鉄の拳を打ち込んでくるはずだ。絶対にだと断言できる自信が三成にはあった。しかし、まだ微動だにしない。
 三成は続けざまに、褌にも無造作に毟り取る。びぃっと厭な音を立てて布地が裂ける。その音を聞く家康の顔ばかりを三成は見つめていた。
 最後通牒のつもりだった。
 待ってくれ、お前の言うとおり誓いを立てる。だから許してくれと家康が乞えば、それで仕舞いだった。
 だが、しかし。
 家康は白い歯を食いしばって何事かの言葉を噛み殺した。血色のいいつややかな顔が今や冷たい汗と泥とに汚れ青褪めている。凛々しい眉の根を寄せて、それでも目を閉じることなく苦難に耐える二つの大きな眼に三成の姿が映る。
 二人の視線が交わるや否や、家康は乾いて罅割れた唇を戦慄かせ、声なき声で名を呼んだ。
 拒むでも、憎むでもなく。
 殺意もなければ、哀願もない。
 三成の量ることのできぬ他の何かの情で以って。
 みつなり、と。



*進入制限!
くどいようですみませんが、ここより先は完全18禁です。露骨な描写がありますので、心身伴に大人の余裕を持った18歳以上の紳士淑女のみご覧ください!



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