強く噛まれていた舌が、じわりと痺れてくる。圧されて堰き止められていた血が舌先に巡り始めたのだろう。
 その痺れる舌を、今度は三成が甘噛みする。
 これも、痛い。
 思えば、こうして舌を好きにさせているのは首を差し出しているのと同じような状態だ。
 食い千切られたら死ぬ。
 この行為は生殺与奪の意を表す。
 こうして家康が身を任せている意味を、三成はどう捉えているだろうか。
 そう考えて家康は胸の裡で苦笑いした。
 三成は、どうとも、なんとも思ってはいないのだろう。
 それでも、家康はこうして三成に全てを赦す。いや、むしろ求められれば喜んで差し出す。
 無意識だとしても、この男が豊臣の為以外に、自分自身の興味のために心を動かすことが嬉しかった。
 真剣に家康はそう考えているのだが、これは本音の一部に過ぎないだろう。これを全てと云えば欺瞞になる。
 家康は、三成の気をひいたのが、他ではないこの自分であったがが嬉しいのだ。それにしても、何を望まれても嬉しいとは、自分はいささか酔狂にすぎる。自覚はあっても、どうにもできない。やれ、是非もないことよと笑い飛ばすより他なかった。
 舌の痺れが収まる頃になっても、三成はまだ飽きないで家康の舌を食んでいる。
 まるで、お気に入りの玩具で無心になって遊ぶ童のようで、こんな時、家康は無性にこの男が可愛い、愛おしいと思える。
 しかし、ここで三成に触れたりはしない。触れれば、すぐに離れていってしまう。
 三成とはこうして口を吸いあうことがあっても、抱擁はしない。逃がさぬと繋ぎ止められることはあっても、欲しいと求められることはない。攻め詰られることはあっても、優しく暖かな気持ちを語られたことはない。
 こちらが想ったところで、想いを返してはくれぬ。承知の上で、こうしている。家康は三成にそれを求めることはしていない。それを哀しいことと、少しは思う。
 このような行為ならば尚更、慕情も恋情も伴わないのは哀しい。
 それなのに。




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