三成の薄く硬い歯が、家康の舌を強く歯を立てたのだ。
「んっ!」
 あの三成の鋭い犬歯が柔らかな粘膜に喰いこむ。
 腰が大きく跳ねて、硬直する。
 閉じた瞼の裏に、いつの日か、戦場で見つけた三成の螺鈿造りの鞘が甦った。家康の脳裏には蒲葡と青褐の貝細工についた僅かに裂罅したあの傷跡が焼きついていた。
 宝剣に類する程の美と値を備えた三成の白。その刃を最も穢れた行為の人斬りに使い、鞘を無造作に傷物にする。
 それは、白が三成のものであるからだ。だからこそ、あれほどまでに酷使する。
 けれど、三成は白を軽んじているわけではない。むしろ、己の体の一部のように思っている傾向がある。何に対しても関心の薄い三成があの刀だけは入念に手入れをし、常に腰に帯びている。
 あれは、三成のもの。だからこそ、螺鈿の鞘には噛み痕が刻まれている。鞘の傷は所有の証のようだと、家康は思っていた。
 己にもその三成の痕がつけられた。三成にそんな意図などないことは百も承知だった。
 しかし、家康の身体は悶え波打った。
「あ、あ・・・」
 家康が洩らした喘ぎを吐息と震えを唇で以って三成は感じたであろう。
 三成はじりじりと顎に力を入れた。このまま噛み切られるのではないかと思うほどの強い痛みを感じる。
 それにも関わらず、家康の舌下からどんどんと唾液が湧き上がり、口の端をだらだらと伝い落ちる。触れ合った三成の白い頬をも汚しながら。
 そんな己が盛りのついた雌犬のように思えて、羞恥と僅かな自虐が心を刺す。
 舌先の感覚がなくなり、生命の臨界を感じたところで家康を虐(しいた)いでいた三成の力が弱まった。
 家康はようやく許されて体から力が抜けていくのを感じた。すると、額といわず脇といわずどっと汗が噴出した。そこで初めて、自分が三成の羽織の裾を強く握り締めていたことに気がついて、なんとも言えぬ心地になり、そっと手を外した。
 三成がそれに気がついていたかどうかは、家康にはわからなかった。多分、気づいてはおらぬだろう。



 


・・・あの、ホントすみません。これ、まだちょっと続きそうです。こりゃ、××見誤りました。



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