コンビ結成仕立て
理想25歳×9歳




8月上旬、世間で言ったら今は夏休みの時期だ。しかし犯罪組織として活動している自分達に休みがあるはずもなく、平常通りに任務を遂行していた。たくさんの蝉の声が響き渡る森の中にオイラ達はいた。


「あぢい〜…」


さっきも言ったように今は猛暑日だ。そんな時期に外を歩いて太陽に照らされ続けるのは、正直生身の自分にとって辛い。それに、最近では長距離の外出を要する任務ばかりだった。こんな毎日毎日馬鹿みたいにずっと外にいたら熱中症になっちまう。無意識に発した言葉が少し先を行く相方に話しかけているのか独り言なのか、もうオイラにもわからない。


「うー、あつい…」

「……」


ふらつく足でよたよたと旦那の後を付けていく。ヒルコの中に入っている旦那はオイラの声が聞こえているだろうに決して止まりはしない。その中は外以上に蒸して暑いんだろうと想像するだけで、よけいに気持ち悪くなった。よくそんな中に長時間いられるものだと思ったが、あの人は傀儡だから涼しい顔をしているに違いない。


「もうだめだー死ぬ…」

「……」

「あーもう死にそ……い゛ッ!!」


俯きながら歩いていたとき、ゴンッと凄まじい音が森中に響き渡る。下を向いていたオイラは何が起きたのかもわからず、思いきり顔面から地面に突っ伏して、間もなくして鼻の辺りと後頭部に激痛を感じた。


「〜〜ッな、」


なにしやがる、そう地面に伏した顔を上げて声にならない声で唸れば、ヒルコの尾が目の前でゆらゆらと揺らいでいるのが見えた。あんなもので殴られたのか。


「さっきから暑い暑いうるせーな…。ならいっそ死んでみろ」

「だって…ホントに暑いんだからしょうがないじゃんかよ!」


地面に伏せながらも大声を出してみるが、旦那はオイラの声が聞こえているくせに先に行ってしまう。本当に、この人は手加減というものを知らない。どうやら今日は気が立っているようだ。オイラを置いていく旦那に頭にきたが、もしかしたら戻ってきてくれるかもしれないと淡い期待を抱いていた。しかし、いつまで経っても旦那が戻ってきてくれる様子は、ましてやこっちを振り返る様子すら伺えない。カチンときて「だん、」と声を発した、そのときだった。


「あ、?」


だらあ、と水らしき何かが顎を伝う。左手で拭ってみれば、手の甲が真っ赤に染まっている。伏している地面にぼたぼたと垂れ続けて出来た血溜まりを見て、血が引いていくのがわかる。


「だっ旦那ッ…ち、鼻血!」

「…!」


振り向きもしなかった旦那が声に気付いて、血みどろのオイラの顔を見るなり明らさまにイヤそうな顔をした。10、20メートルはある先の距離で旦那はぶつぶつと文句を言いながらヒルコから出てくる。オイラとしては早く何とかしてほしくて「旦那!はやくッ」と喉に大量の血が溜まりながらも必死に叫ぶが、旦那はわざとなのかやけに悠長な手付きでヒルコを巻物に仕舞う。ようやく旦那が手に白い布を持ってやってきた。


「っとにテメーは…」

「旦那が殴ったからだろッ!」


面倒臭そうに言いながらしゃがみ込む旦那に言い返すも、オイラは未だに止まらない血を気に掛ける。旦那は持っていた布切れをオイラに荒っぽく手渡すと、すぐに立ち上がった。そして思いの外「行くぞ」とだけ言ってスタスタと先を行ってしまう。オイラはその信じられない旦那の言動に、ぽかんと開いた口が塞がらない。


「旦那ッ」


歩いていた旦那の足が止まる。しかしこちらを振り向く様子はなかった。


「今度はなんだ」

「あ、あんたッ…誰のせいでこんな目に遭ってると思ってやがんだ!」

「俺は待たされんのが嫌いなんだよ」

「なっ…」

「それに、言ったはずだ。足手纏いになるような相方ならいらねえ」


オイラの顔を見なかった旦那がゆっくり振り返り、いつもの眠たげな目ではなく僅かながらも殺気を含んだ眼差しでそう言った。ぐ、と狼狽えるオイラを見て旦那は何事もなかったように正面を向いて歩き出す。どんどん遠くなっていく旦那の背中を見つめて、オイラはしばらく地面に伏せていた。


「……っんのクソオヤジ…ッ」


ぎゅ、と地面に付いている拳に力を込めて左足を立てる。ボタボタと垂れる血にオイラは目もくれず、もう片方の右足にも力を入れて体を起き上がらせた。手を差し出してもらわないと立ち上がれないようじゃ、自分の相方は務まらないってか。ナメんなよ。自分とオイラとじゃ釣り合わないだなんて、二度と言わせない。ようやく二本足で立てたところで、オイラは駆け足で旦那の後ろ姿を追った。






それから2時間は森の中を歩いたと思う。旦那はあれから本体のままで自分の少し前を歩き続けていた。オイラは旦那に置いてかれないようにと、旦那よりも小さい歩幅で懸命に付いて行った。暑さで気分が悪くなって歩くのが辛くなっても、さっきのように絶対に弱音を吐いたりしなかった。旦那にはオイラと違って休憩が必要ない。自分のように疲労を感じたりもしないし、ぶっ続けで物事を遂げられる。そんな彼にとって、自分がお荷物になることだけは避けたかった。ほんの少しだけでいい、本当は休憩時間を取ってほしい。目的地まではまだ距離があるはずだ。あとどれくらいだろう。そう思っていたとき、自分達のすぐ近くから水しぶきのような音が聞こえた。


「…?」


首を動かして辺りを見渡してみると、木々の向こうに青くキラキラ光る何かが見えた。旦那もオイラが立ち止まったことに気づいて足を止める。オイラは道から逸れて、目に映る青いそれに向かって足を進めて木々を掻き分ける。自分の足元から道が途絶えて、崖から見下ろさずとも視界に入るほど大きくて広くて青い水があった。


「海なんて久々に見たな」


隣に来た旦那が懐かしげな声で静かにこぼした言葉に、オイラは旦那の顔を覗く。視線に気付いた旦那は「あ?」と鬱陶しそうな顔をして聞き返す。


「初めて見た!」

「そーいやお前、田舎者だったな」

「む、旦那だって…そう言ったら変わんねーじゃんか」

「まあそうだな」


話でしか聞いたことないけど、本当に青くて綺麗だ。煌々と光る太陽に照らされて、風が吹く度に輝くのがとても芸術的だと思った。すぐ近くの海岸を行き来する大勢の人間が目に入る。泳いだり波に沿って浜辺を歩いたり、海水浴を楽しんでいる様子が此処からでも窺えた。


「…寄ってくか?」

「えっ」

「今日はもう大分歩いただろ。それに暑さでぶっ倒られたら迷惑だからな」


そう言った旦那の表情はオイラが振り返ったときにはもう背を向けられていたので、どんな表情をしているのかわからなかった。けどその声はいくらかやわらかくて、やさしい。通常のルートを変更して、旦那は海岸へと下る道を辿る。しばらくしてから旦那に「来ねえのか」と不機嫌そうに声を掛けられて、旦那の気が変わる前に急いで後を追う。正直あの時間にうるさい旦那の予想外な行動に驚きを隠せなくて、どう反応したらいいのかわからなかった。でも本当は、そんな旦那が初めて見せた優しさが嬉しかった。






重たい装束を砂の上に脱ぎ捨てて、履物を片足ずつ脱ぐ。右足が抜けたところでオイラは思いっきり海に向かって駆け出す。しかし、砂に足をとられて蹌踉けてしまう。その様子を見ていた旦那がぽつりと呟く。


「里にいた頃を思い出すな」

「すげえ、やわらけえ!」

「…本当にお前は反応が面白ぇ」


砂に埋もれた足を持ち上げて、一歩ずつ前に向かって歩く。やっと波が足元まで届く距離に来て、あんなに夢中になって駆け出したというのに今度は恐る恐る足を踏み入れる。海水の冷たさが足の裏を通じて伝わってきて、自分の中で何かが込み上げてくるのがわかった。
間近で見ると、なんて果てしないんだろう。どこまでも続いているような気がする。いや、オイラがまだ小さかった頃に読んだ書物には、海は世界のすべてと繋がっていると書かれていた。だから初めから終わりなんて有りはしないんだ。そんな世界の半分以上の面積を占めている大きな存在なのに、オイラは生まれてこの方一度として海を見たことがなかった。ずっと、あの里がオイラを縛っていた所為だ。オイラは湧き上がるソレを抑えることも忘れて、バシャバシャと音を立てながら海に入る。


「うわ、冷てえっ!」

「あんま深い方まで行くなよ」

「? 旦那は?」

「濡れると錆びるからな。俺はここで見てる」

「えーっ」

「ほら、行ってこい」


旦那にそう言われて、それを少し残念に思って、仕方なしにオイラは一人で水に入る。水が膝の上辺りの高さまできて、わざと音を立てるように水を蹴ってみる。それは一見詰まらなそうに見えて、空中に飛び散った水が太陽に照らされてキラキラと光るのがすごく綺麗で楽しい。時々顔に水がかかることさえ気にならないほど夢中になって何度も水を蹴っていた。いつもは飛び散る顔にかかるものといったら、死ぬほど浴びている飛び血くらいだ。でも今日は違う。それを確認するかのように両手で海水を掬い上げてみる。不思議だ。遠くから見たときは青かったのに、手で掬い上げてみると透明なんだな。どうしてなんだろう。


「お前は不思議だ」

「うん?」

「いつも目がキラキラしてる」


旦那が口にした言葉の意味がよくわからなくて首を傾げる。いつになく、旦那の顔は淋しげだった。


「どうして、お前みたいな奴が追われる身の上になった」


数秒、返答が見つからなくて固まる。いつのまにか、両の手のひらに掬った水が指の隙間から零れ落ちてしまっていた。


「…それは、」


口にしかけたそのとき、背後を通り過ぎる人物がいきなりぶつかってきた。相手の肘の部分が後頭部にぶつかり前屈みになったところを、旦那が瞬時に現れてオイラを支える。ぶつかった相手を見れば、ガタイのいい大柄の男が三人いた。


「チッ、気を付けろよな」

「はあ!?」


男達はそれだけ言うと何事もなかったように歩き出す。しかしそれで黙っていられるほどオイラはお人好しじゃない。ぶつかってきたのはそっちだろと怒鳴ろうとしたそのとき、オイラの前に旦那が立ち塞がる。


「どけよ旦那!」

「目立つ真似はするな」

「でもっ」

「ここは人目が付く。あんなのは相手にするだけ時間の無駄だ」

「……、」


旦那はそう耳打ちすると「安宿を探してくるからここにいろ」と言って、オイラが浜辺に置いた荷物を持って行ってしまった。なんだかいい気がしない。オイラは浅瀬から上がって浜辺に腰を下ろす。押し寄せる波が伸ばした足の指先に届かないかくらいの距離でもどかしい。今でも頭の中をぐるぐる渦巻くのはあのときの旦那の顔と、あの言葉。


(どうしてだなんて
(オイラにもわかんねえよ)


正直、どう答えたらいいのかわからなかったから逆にアイツらがぶつかってきてくれて良かったのかもしれない。
今でも昨日のことのように覚えている初めて人を殺した時、自分の体中を駆け巡ったあの感覚。そのとき見出した芸術が今でも忘れられない。でも、それはあっという間の時間。瞬間の美学に魅入られて、ただそれだけを追い求め続けていたらここにいた。
それだけのこと。







「おい」

「…旦那!」


うとうと仕掛けていたとき、背後から旦那の声が聞こえた。意外に早かったな、なんて思いながら振り返る。海に来た時間が遅かったせいか、空は赤く染まり始めていた。


「宿、見つけたら行くぞ」

「はいよ、うん」


もう少しだけここにいたかったけど、我が儘言ったら旦那がうるさいから素直に立ち上がる。乾いた砂を払って、旦那の傍まで駆け寄る。


「…あっ」

「どうした」

「オイラちょっと足洗ってくるから、旦那先に行っててくれ!」

「……」

「大丈夫、迷子になんかならないよ」

「…すぐそこだからな」


旦那が指差した場所は、ここからでも見える距離だった。そう言うと旦那はオイラを一人残して砂浜から上がる。階段を上る旦那の姿が見えなくなったことを確認してから、オイラはまたその場に腰を下ろす。旦那にはああ言ったけど、もう少しだけここににいたかったのが本音だった。


(人、減ってきたな…)


きょろきょろと周りを見渡してみて、最初に来たときよりも大分人が減っていることに気付く。まあ日も暮れてきたしそりゃそうか。やわらかい砂に両手を付いて、何の意味もなくざくざくと掘ってみる。粘土遊びをするかのように山を作れば、一人でも楽しく思えた。しかし押し寄せてきた波が山を崩し、無情にも呆気なく壊される。波が引くと跡形もなく山は消え去り、そこには残像すら残っていなかった。それが面白くて、オイラはまた砂の山を作り上げる。また壊されて、それでも手を休めることはない。粘土をいじるときみたいに、一人でこうしていると何もかも忘れられる。


「あ!コイツさっきの…」

「!」


ふと背後から声がして振り返る。そこには、さっきぶつかってきた男達がいた。夢中になり過ぎていて気配に気付けなかった、なんて旦那に知られたらどうなるか。咄嗟に立ち上がると、男達の中の一人がオイラの顔を見るなり不思議そうな顔をした。


「どっかで見たような顔だな…」

「あ、確かこいつビンゴブックに載ってた奴だよ!ほら、暁の!」

「!!」


一人の男が手荷物の中から黒い本を取り出して、パラパラとページを捲って見開きを指差す。そこには間違いなく自分の写真が載っていた。マズい。身元がバレたとなったら殺すしかない。ビンゴブックを持ち合わせている辺り、賞金首狩りかそんなところだろう。オイラは咄嗟に腰元のポーチに手をやった。が、いつもあるはずのそれがなかった。


(さっき旦那が宿に持ってっちまったんだった…!)


いつもならこんな奴ら一瞬で片付けてやるのに、起爆粘土がないとなると簡単にはいかない。焦るオイラの内心も知らないで、男達の目つきが変わる。


「コイツを近隣里の幹部に持ってけば大金が手に入るな」

「暁なら一千万…いや、軽く三千万両は超えるだろ」


じり、と詰め寄ってくる男共に無意識のうちに後退る。しかし一歩後ろはもう海しかない。ぱしゃ、と片足が海水に沈んだとき一人の男がオイラを押さえ込もうとした。すかさずその手をよけて前のめりになった男の背を踏み台にして、他三人の男達の上を飛び越える。そのまま振り返る間もなくオイラは無我夢中で走り出した。


「そっち行ったぞ!捕まえろ!」


後ろから男達が自分を追いかけてくるのが足音でわかる。通行用の道に繋がる階段を一段とばしで駆け上がり、咄嗟に目の前の竹藪の中に逃げ込む。手探りで木々をかき分けて先の見えない暗い奥へとひたすら走り続ける。以前に旦那から賞金首狩りの注意は聞かされていた。捕まったら最後、生け捕りは愚か殺されるだろう。


「…痛っ!」


ちく、と右の二の腕辺りに痛みが走って思わず足がにぶる。見れば葉の先に触れて切れたのか、赤い線が真っ直ぐ入っていた。思いのほか傷が深かったのか、そこから血が垂れたが構わずに走り出した。走っている最中そこだけでなく頬や手といった素肌を晒している箇所に鋭い痛みを感じたが、気に止めずに走り続ける。しかしいくら何でもアイツらとオイラとじゃ体格差がある。逃げ切るのは無理だと判断して、オイラはその場の草木の陰に隠れ込んだ。ぎゅ、と膝に付いた手に力が入る。遠くから男達の声がして、しゃがみ込んで身を縮めた。どくどくと激しい心臓の音、息の上がった呼吸音が更にその恐怖心を駆り立てる。


「……んな…っ」


どうしよう。起爆粘土もないし旦那もいない。体術だけでも一人相手なら勝てるかもしれないけど、体格のいい大人の男4人相手だとなるとそうもいかない。こんなことになるなら、あのとき旦那といっしょに宿に戻っていればよかった。
そう悔やんだそのとき、近くからガサガサと草木が揺れる音がした。思わずびくっと肩が飛び跳ねる。足音はゆっくりと自分の方へと近付いてくる。心臓の音がうるさい。それはもう相手に音が聞こえてしまうのではと自分でも疑うほど激しく鼓動していた。ちょうどオイラの場所からは音のする方が木で隠れて見えないことが恐怖を煽る。
自分の位置から見える相手の影がこちらに来ないことだけを祈りながら息を殺す。こわくてこわくて目をぎゅっと瞑る。しかし、近くで聞こえていた足音がピタリと止んだ。もうダメだ、瞑った瞳にうっすら涙が滲んだ。




「おい。クソガキ」




降ってきた声に思わず閉じていた瞼を開く。目の前には、紛れもなく今自分が呼んだ人物がいた。


「だ、だん…、」

「こんな所で何してやがる」


迷子になんかならないんじゃなかったのか。そう言うと旦那は切れたオイラの頬に手を添えて、ぐし、と袖で血を拭った。いつもなら何とも思わないはずの旦那の行動が、このときばかりはカッコ良く見えた。


「アイツらは俺が仕留めておいた」

「で、でもっ…旦那足手纏いになるような相方ならいらないって…」

「俺は待たされんのが嫌いだって前に言っただろ」

「…!」


旦那はオイラの腕を掴んで引き上げると、オイラに右手を突き出してきた。見ればオイラの起爆粘土用のポーチが握られている。あっと思ってオイラは素早くポーチを受け取る。すると旦那はオイラに背を向けてさっさと歩き出した。しばらくしてからはっとしたオイラも、急いで旦那の後を追う。


「なんで嘘吐いてまであの場に残ろうとした」

「…海」

「あ?」

「もう少し、見てたかったんだ」


ハァ、と前を行く旦那の盛大な溜め息がここからでも聞こえた。振り向いたと思ったら足音を立てて近寄ってくる旦那の姿に、叱られると思って思わず目を瞑って俯く。しかし、降ってきたのは罵声でもなくヒルコの尾でもなくかたい旦那の手だった。


「それならそうと早く言え」


ぐし、とオイラの頭を乱暴な手付きで鷲掴むとわしゃわしゃと撫でる。予想外な旦那の行動にオイラはされるがまま目を丸くさせて固まった。するとその表情が面白かったのか、旦那は柄にもなく笑った気がした。旦那がチャクラ糸を伸ばしたかと思えば、突然体がふわりと宙に浮く。「っうわ!」と驚いたオイラは旦那に目をやると、旦那は瞬時に上に飛んで消えた。引っ張られた体が木の上に到達して体に巻かれていたチャクラ糸がほどけたとき、隣には旦那がいる。


「海、見たかったんだろ」


旦那が顎で指した方向には、遠くからでも見えるさっき見た青色ではなくオレンジ色に染まった海。空の色と同化して、境界線が曖昧になる。海を見ながら「旦那の髪の色みたいだ」と言えば、旦那は小さく笑った。あ、また笑った。最近いっしょにいて気付いたことは、案外この人は人間らしさを無くしていないってこと。自分が思っていたほど感情まで捨てたワケじゃないようだ。


「死体が見つかるのは時間の問題だ。騒ぎになる前にすぐ出発するぞ」


旦那の声がして、もう少し見ていたい気持ちが邪魔をして素直に返事ができない。黙りのオイラの様子に、旦那が言葉を付け足す。


「わかってるとは思うが、追われる身の上である以上全部が全部好きなように生きられる訳じゃねえ」

「…うん」

「また来ればいい」


いつのまにか太陽は沈んで辺りは暗くなりつつあった。旦那が木から身軽に飛び降りて、オイラも咄嗟に旦那の後を追う。旦那の言う通り、またいつでも来られる話だ。もう、オイラは自由なんだ。さっきの旦那の質問、今なら何となくだけど答えられる気がする。きっと、自分でも知らない間に遭難しちまったんだ。











落日と逃亡者




なあ、旦那もそうなんだろ?





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詠葉様へ↓
デイダラに振り回されるが、結局デイダラが好きなサソリ…というおいしいリクエストでしたが、ツンデレ増しすぎて旦那の好き度が曖昧ですね(;_;)
もう多くを語ると言い訳になってしまいそうなのでこの辺りで切り上げたいと思いますorz
リクエストありがとうございました!