学パロ 体育祭ネタ


「位置に着いて、ヨーイ」


ピッという先生の笛の合図で、みんな一斉に走り出す。その中でも先手を切ったのはオイラだった。駆けっこは一番の得意種目だから当然のことだ。白いラインに沿って一直線にグラウンドを駆け抜ける。
半分ほど来たところだっただろうか、後ろの奴らとはもう結構な差がついたはずだ。周りの歓声と吹き抜ける風が心地いい。このままオイラのぶっちぎり一位でゴール、のはずだった。しかし突如として隣のコースから人影が現れた。そいつはぐんぐんと追い上げてオイラとの差をつける。なんだコイツ…めちゃくちゃ速ぇ。焦ったオイラは追い抜こうと先ほど以上に足を速めたが、そいつはオイラのどんどん前に行ってしまってなかなか追い付けない。そのまま頑張った甲斐もなくオイラより先にゴールされてしまう。次に自分が二番目にゴールした。


「二人とも速かったねーっ」


息を切らしたオイラの前に先生がやって来てそう言う。一着の奴に目を向ければ、そいつは息一つ乱さず全く疲れていない様子だった。それにイラッときて、何か言ってやろうと思ったのだが、すぐにクラスメートが集まって来てワイワイと自分達を取り囲む。凄かったやら速かったやらと言われている最中にも、きっとオイラは不服そうな顔をしていただろう。褒められたところで一位じゃなければ意味がない。ちら、と奴の顔色を窺えば涼しそうな顔をしている。


「…むかつく」


ぼそ、と聞き取れないほど小さな声で本音をこぼす。周りがガヤガヤしていてうるさかったし、それは誰にも聞こえることなく空気中に溶けた。


でも、あれは偶然だろうか。
そいつがオイラの方を見て、ほんの一瞬だけ目があったような気がする。それはまるで時間が止まったように長く感じた。ギクッと心臓が飛び跳ねて、オイラはすぐに目を逸らした。






「──!」


校庭の視野がだんだんと薄れて、自室の天井が視界に入る。…夢、か?開きかけた目をこすって寝ぼけた頭で周りを確認するが、やはり自分の部屋だ。ずいぶん昔の夢だったな。寄りによってアイツの顔が出てくるなんて、なんて目覚めの悪い。カーテンの隙間から薄暗い光が部屋に入り込む。時計を見てみれば4時半を差していた。…まだ2時間は寝れる。気を取り直してもう少し眠ろうと布団に頭まで潜り込む。なんだかさっきので目が覚めてしまった。あのいけ好かない表情が脳裏にちらつく。あの余裕そうな顔、大人びた性格、特にこれといって理由はないがどうしても好きになれない。


「…イタチ」


そいつの名前を小さく声に出してみると、なんだか余計に胸の辺りがざわついた。今どうしてるんだろう。小学生のときは運悪くずっとクラスが一緒だったけど、中学生のときは学校が違ったんだっけ。なんて考え始めるとアイツのことで頭がいっぱいになって余計に眠れなくなってしまった。あんな奴のことなんてどうでもいい。考えたくもない。オイラは無理やりにでも眠ろうと目をぎゅっと瞑った。







「おっ、デイダラちゃんはよー。なんか今日来んの早くね?」

「まぁな。ってかちゃん付けやめろ」


けっきょくあのまま寝付けずに仕方なくいつもより早めの登校。自転車置き場で飛段とバッタリ会って一緒に教室に向かう。オイラは何度か前にも吐いた台詞を言うが、たぶんコイツには直す気は更々ないんだろう。それから飛段とたわいない会話を交わし、この前の漫画は返したとか返ってきてないとかくだらないことを言い合っていたが、飛段が何かを思い出したように話題を変える。


「そういや昨日、俺のクラスに転校生が来たんだよ!」

「転校生?この時期に珍しいな」

「だろ?んでそいつよお、顔見たら中学んときのダチでさ」

「へぇ、よかったじゃねーか。どんな奴なんだ?うん」

「んー…第一印象はハッキリ言ってあんま良くないかもしれねえど、喋ったら結構いい奴なんだよこれが。美形…って感じより美人でさ」

「…?気持ちわ「飛段」



悪ィ、そう言い掛けたとき、突如として背後から声がする。振り返れば、思わずオイラは言葉を失った。


「おーイタチ!ちょうどお前の話してたんだよッ」

「勝手に俺を話題に出すな」

「んなことよりさ、後でノート写さしてくんねー?課題忘れちまってよ」

「お前の場合やる気すらなかったの間違いじゃないのか」


そいつは飛段とたわいない会話を交わしながらこちらに向かってくる。間違いない、小学生のとき同じクラスだったイタチだ。確かに今日コイツが夢に出てきたが、まさか夢でなく本当に会うことになるなんて。イタチはまだオイラに気付いていないのか飛段と話している様子だ。
ふと、飛段と話しているイタチがオイラの方を見た。思わず飛段の後ろにサッと隠れる。しかし、イタチは目線を逸らさずじっとこちらを見てくる。


「…デイダラ?」


うわあ、最悪だ。飛段はイタチの言葉を聞くと「なんだあ?お前ら知り合いだったのか!」と言って後ろにいたオイラの前から一歩退く。イタチと面と向き合う形になってしまえば、もう逃げられない。


「よ、よお」

「小学校のとき以来だな」

「…うん」

「知り合いなら話がはえーしよお!放課後どっか三人で寄ってこーぜ!」

「俺は別に構わないが…デイダラお前は「お、オイラ今日用事あるから、」


冗談じゃねえ。何が悲しくてイタチなんかと連まなきゃいけないんだ。飛段のヤツ何も知らないくせにふざけたこと抜かしやがって。二人がオイラの突っ慳貪な言い方に目を見合わせる。居づらくなったオイラは何も言わずに大股で先を急いだ。イタチがどんな顔をしていたかなんて知らないが、置き去りにされた飛段は頭の上にハテナマークを浮かべて首を傾げていた。


「どうしたんだ?デイダラちゃん」

「……」





それからというもの、飛段はイタチを連れてよくオイラのクラスに遊びにくるようになった。その度にオイラは何かしら理由を付けてはすぐさまその場から逃げるように立ち退く。いくら馬鹿の飛段でもそんなオイラのあからさまな態度に気付かないワケもなく、何度か声をかけられて捕まりそうになった。問いただされるのは目に見えていた。でも、だからと言って誰かに話したくもなかった。イタチを嫌っている理由なんて自分でもよくわからない、と言うよりも、わかりたくなかった。






「デイダラー、今年もぶっちぎり一位期待してっぞーッ」

「おう」


あれから飛段(につきまとうイタチ)を避け続けて一週間近くが経とうとしていた。今日はオイラが毎年楽しみにしている体育祭。クラスの奴らからの声援を背にオイラは入場門に向かう。種目は去年と同じ200メートル走と、推薦で学年リレーになった。一年のときに200メートル走で予選を勝ち抜き先輩達を負かしてトップを取ったのがその理由だろう。まあ、当然の結果だ。走るのは誰にも負けない自信がある。


「お前も200メートル走出るのか」

「!?」


靴紐を結び直してしゃがみ込んでいたとき、背後から聞き慣れた声がした。振り返れば、白いハチマキを結び直すイタチの姿。ただでさえ背のデカいイタチを目の前にして、なんだか見下されている気がしてオイラは靴紐を結び終えてもいないのに立ち上がった。


「お前も、って…」

「俺も200出場だ」

「…はッ!?」


そういえば…クラスの奴らが予選でメチャクチャ早い奴がいるって騒いでたっけ。いや、でもまだそれがコイツと決まったワケじゃない。だけど、認めたくないけどイタチの並外れたあの運動神経は侮れない。


「デイダラは昔から早かったよな」

「…まあ、」

「お互い頑張ろう」


イタチは少し微笑んだかと思うと、すぐに自分の前から立ち退いた。そのとき、横切る際に肩に手を置かれて小さく叩かれた。


「……」


昔から早かった、けど。
お前がいたからオイラはいつも二番目だったけどな。なのに頑張れ、だと?オイラはお前に負けたくなくて堪らないのに、そんなオイラにお前は声援を送るんだな。本当にオイラが頑張ったら、テメーなんか相手じゃないに決まってる。
お前はそれでも、いいのかよ。






後ろの学年の奴らが走り終わって、やっとオイラ達の順番が回ってきた。赤いハチマキを結びつつ横に並ぶ奴らの顔ぶれを覗けば、どいつもこいつも同じ学年だ。だからだろうけど、その中にイタチがいた。スタートラインに立ったとき、オイラはこの時点で焦っていた。それもこれも、全部イタチの奴のせいだ。あいつの台詞が頭から離れない。周りの声援も、全然頭に入らない。ちくしょう、調子が狂う。




笛の音がグラウンドに鳴り響き、一斉にスタートする。初めに先手を切ったのはオイラだった。まったく、あのときと同じように。大丈夫だ。このままいけばオイラの勝ちだ。アイツなんかに負けるはずがない。そう思うのに、自分のすぐ後ろにイタチがいる気がしてならなかった。半分ほど来たところだったろうか、観客がどっと騒がしくなった。トップを維持していたオイラの横から突如人影が現れる。その人物は紛れもなく、自分が嫌う男だった。イタチとオイラはほぼ互角の速さで競い合う、がしかしゴール手前でイタチに抜かされてしまう。オイラは奴を追い抜こうと先ほど以上に足を速めた。なのにどうして、お前はいつもオイラの前をいくんだ。どうして、追いつけない。オイラが必死で熟していることを、お前はそうやって意図も容易くやってのけるんだ。そのままイタチが一着でゴールすると、歓声は更に大きくなった。それから2秒と掛からないでオイラがゴールする。


「……っ、は…」


嘘だろ。
またオイラの、負け?


ぎり…、と思わず拳に力が入る。なんで、どうしてアイツにだけ勝てない。真っ白になりなけた視界の中で次々と他の奴らがゴールするのがわかった。競技場から退場するなりクラスの奴らに囲まれて凄いだの速いだの大体そんな感じのことを言われた。それから2、3分も経たないうちにイタチとオイラの同時新記録が校庭中にアナウンスされる。それを周りが騒ぎ立てるのが煩わしい。もう、そんなのどうだっていい。一位じゃないなら意味がない。自分の出来なさに悔しさが募る。




「おつかれ」


背後から今まで自分でもイヤと言うほど意識してきたアイツの声がして、オイラは息を切らしながら振り返る。そいつの顔を見た瞬間、嫌な顔をせずにはいられない。周りの奴らは気を使ったのか「学年リレーよろしくな!」と言われて立ち去っていく。よりによって今一番会いたくない奴、イタチと二人っきりにされて。


「これ、お前の分」


スッと顔の前に差し出されたのはスポーツ飲料水。ちら、とイタチの顔を伺えば、オイラはゼーゼー言ってるってのに、こいつは息一つ乱していない。何かが自分の中で切れる音がした。


「──馬鹿にしやがって…っ」


イタチの差し出されたペットボトルごとその手を思いきり払う。イタチは一瞬の出来事に固まり、オイラとイタチ以外の周りの人物達だけが動いているように感じた。


「お前…なんなんだよ」

「…なにって、お前の分も買ってきてやっただけだが」

「そーいうのがだよ。こっちはお前となんか話もしたくねーってのッ!」


バッカじゃねぇの、そう付け足してオイラはその場にしゃがみ込んだ。そういうとこが昔から嫌いなんだ。まるで自分を見下しているような、その態度が行動が。いや、もうコイツの存在自体を拒んでいるのかもしれない。鈍いところさえわざとのように感じる。顔を伏せていたからイタチがどんな表情をしていたかはわからないけど、しばらくすると奴が離れていくのが足音でわかった。


「…デイ「あーもーるっせえな!!」


話しかけんなと言いながら顔を上げると、そこにはイタチではなく驚いた顔をした飛段が立っていた。


「ど、どうしたんだよそんな怒って」

「怒ってなんか…、」


…いや、怒ってるよな。
「ごめん、」と言ってオイラは立ち上がる。それでも飛段は曇った表情をしていた。


「…デイダラちゃん、イタチとなんかあった?」


なんかイタチといるとき変だし。そうそう付け足して飛段は気難しそうな顔をして頭を掻く。イタチとのやり取りを見ていたのだろうか。見ていなかったとしても、飛段の言うよう自分の言動は誰もが気付くほど可笑しかったに違いない。


「いや、話したくないならいーけど…デイダラちゃんが思ってるほど悪いヤツじゃねーよ、ホント」

「……」

「それだけだからさ。次のリレー頑張れよな」


飛段はオイラの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でると、クラスメートに呼ばれて立ち退く。取り残されたオイラは、さっきイタチを追いやったときとは違う心情だった。


「んだよ、ソレ…ッ」


んなのオイラだって、わかってるよ。性格だって悪いし異常なほどに自分が負けず嫌いなこともわかってる。そんな自分だからこそ、イタチはそこまで悪いヤツじゃないって頭ではわかってるのに、疎ましく思わずにはいられない。ただ、認めたくなかった。自分が誰かよりも劣っているなんて。それもあんな何でもできるヤツに、あんな
イタチにああ言ったのは自分なのに、今更になって後悔の思いに取り巻かれる。小学生のときから何でもできて、大人からも同級生からも褒め称えれていたイタチ。オイラがどんなに頑張ってみたところで、いつでも注目の的はイタチに向けられていた。そんな人に優しくてみんなから好かれていたアイツを忌み嫌っていたオイラには友達が少なかった。もちろん好きになろうとしたときもあった。けど、どうしても好きになれなかった。認めてしまったら、自分が出来損ないだと認めることと同じ気がした。だから、嫌うことで反抗していた。自分の出来なさから、劣等感から。
でも、オイラは知っていた。そんなイタチが自分の並外れた才能の出来を人に自慢することは一度もなかったことを。自分のようにその才能を疎むような人間から何をされても、決してやり返さなかったことを。そんなアイツだったから、オイラは心のどこかで憧れていたのかもしれない。
足元に転がったペットボトルを拾い上げて、アイツの後ろ姿を探す。
オイラは次の種目に迫った学年リレーをばっくれた。











拒んだのは、知らない感情




それを認めてしまうか、否か




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はるか様へ↓
プライドの高い先輩と、争いごとは避けたい兄さんと、空気を読んだドラえもん←わかる人にはわかる^p^
暁若者組を絡ませてみたかった
男の子って無駄に競争とか戦いに熱くなるよねって話
この後デイちゃんは勇気を出して謝れたらいいと思います、でもやっぱり謝れないでしょう
リクエストありがとうございました!