「隙アリ!」


ヒュッと背後からトビ目掛けて襲いかかり、通りかかるのを待ち伏せしていたため、突然のことに奴も驚いた様子だった。振り返ったのが運の尽き、オイラはその仮面を無理やり剥ぎ取ろうとした…のだが。


「!」


あともう少し、そう思ったとき触れられそうな距離のところでトビが一瞬で目の前から消えた。驚いたオイラは標的を失ってそのまま前のめりになり、トビはというといつのまにか自分の真横にいた。すぐさま体制を整え直して体をトビの方に向ける。なんだ…今のは。コイツの動きとは思えないほど俊敏な速さだった。奴の動きを見切れなかったことに驚きを隠し切れない。


「やだなぁ〜先輩ったら、手荒な真似しないでくださいよ!」


しかし、トビはいつものお得意のおちゃらけた様子でそう言う。それに何故だかほっとしている自分がいた。なんだ、やっぱいつものコイツ通りか。でもさっきのは一体なんだったんだ。


「そんなにこのお面の下が気になります?」

「べっ、別に気になってなんかねーっての…うん」

「仕方ないなあ。特別に先輩にだけは見せてあげますよ」

「…!」


正直、オイラはその言葉に興味をそそられた。視線をトビの面に向けずにはいられない。奴はその細く長い指を自らの顎元へと運び、クイッと少し面を上にずらした。面の下から形のいい唇が覗いて思わず息を呑む。鼻先が見えてあともう少し、というところでトビがピタリと手を止めた。それにオイラは見えるはずもない相手の顔を見る。


「あは、そんな簡単に見せるワケないじゃないですかあ。期待しちゃいました?」

「こ、んのヤロー…!」


騙された、我ながらまんまと奴の罠にハマってしまった。実際のところ、奴の言葉は図星だった。コイツはそんなオイラの反応を楽しんでいたんだ。そう思うと目の前で自分を馬鹿にするかのように体をくねらせる奴が憎たらしくなる。オイラは怒りと無知な自分への恥ずかしさをぶつけるように拳を強く握った。「顔見せやがれッ!」と言って奴目掛けて拳を入れるが、やはり先ほど同様ヒョイと身軽な動きでよけられてしまう。


「ヒミツですよ……ふふ」


少し上に上がったままだった仮面を元の位置に戻すと、奴は人差し指を口元にやってそう言う。コイツ…やっぱり楽しんでやがる!むすーっと顔を歪ませたオイラの表情を見ると、奴は更に機嫌を良くしたのか鼻歌を歌いながら立ち去っていく。
けっきょく素顔は拝めないまま…か。失敗は今日が初めてじゃないから別にどうってことない。でも、どうしてトビは素顔を見せてくれないんだろう。オイラに見せられない理由でもあるのか。そもそもアイツは謎が多い。どこの里の出身だ、使う術は、歳は。何を質問してみても、答えはいつもヒミツばかりだった。オイラはお前に隠し事なんて一つもないのに、それが何より気にくわない。だから別に、オイラがお前のことを知りたがる理由なんて、ただそれだけだ。









「またお前と一緒に過ごさなきゃなんねえのかよ…うん」

「仕方ないでしょー。角都さんから経費削減って言われてるし、それにここけっこう高いんですから」


ある日の任務を終えて宿に一晩泊まったときのこと。あれからトビの素顔を見れる機会に出くわすこともなく、オイラ達は淡々と任務を熟していった。オイラは装束をそこらに脱ぎ捨てて御膳の上に用意された和菓子を一つ手でつまんで口へ運ぶ。その脱ぎ捨てた装束を綺麗に畳み出すトビがそれを見ていたようで「席にも着かないでお行儀悪いですよー」なんて言われたが、聞こえていないフリをする。


「風呂、入ってくる。うん」


二つ目の和菓子を口に運んで、トビに布団を敷いておくように指示してオイラは浴場に向かった。いつものことだ。あいつはオイラと一緒に浴場に行かない。夜中に一人で入っているようだが、実際はどうなのかわからない。どんだけ顔を見られたくないんだ、ぐるぐる仮面を思い出しながらそんなことを思った。











「あれ?早いですねデイダラさん」

「ああ。髪、拭いてこなかったんだ」


宿で用意された青い刺繍が描かれた浴衣に身を包んで、鏡台の前に座る。顔を右に傾け、ぽたぽたと雫が垂れる髪をバスタオルで一通り拭いて、乱れた髪の毛に櫛を入れてととのえる。ふと鏡に目を向けたとき人影が自分の後ろに立っていた。そして振り返る間もなく後ろから抱きつかれる。


「先輩の後ろ姿、そそられます」


そらきた。だからお前と同じ部屋はイヤだったんだ。お前を要因にいっそこの女のような髪も切ってしまおうかと本気で思う。


「デイダラさん。キスしてもいい?」

「…お前さ、いい加減に」


…いや、待てよ。
いいこと思いついた。オイラは口角を釣り上げて振り返る。それにトビが抱きついていた体を離れさせた。


「あぁ、いいぜ?」

「…えっ」


奴はオイラの答えを予想だにしていなかった様子で、ま、まじですかとでもいったような台詞がピッタリだろう。固まった奴の目の前にオイラは手をやって「ただし、条件がある」と付け足す。


「その代わり、お前がその仮面をはずしたらな。うん」


奴の奇抜な仮面を真っ直ぐ指差してニンマリと笑ってみせれば、しばらく奴は黙り込む。しかし、返事は思っているよりも早く返ってきた。


「いいですよ」

「…!」

「じゃあこうしません?飲み比べで負けた方が勝った方の言い分を聞くってのは」


トビは御膳の上にある酒と杯を指差してそう言う。その仮面の下の表情は読み取れないが、明らかにその口調は楽しそうだった。飲み比べか、それならいくらか勝てるんじゃないだろうか。いや、でもそれを言うなれば負けるかもしれない。


「アレレ?もしかして先輩、怖じ気づいちゃいましたか?」

「だ、誰がっ…やってやるよ!」


立ち上がるや否やズンズンと歩いて酒を杯につぐ。二杯同じ分だけついだら左手の分をトビに突き出す。このときオイラには負けたときの不安よりも、好奇心の方が大きく勝ってしまっていた。


「じゃ、まず一杯目ですね」


トビが静かにそう言うと、杯を持つ手とは逆の手の親指で仮面をぐいっと上に持ち上げる。そして杯を口元へやって酒を飲み干した。それがいつものおちゃらけた雰囲気のコイツとは違いあまりにも大人びていて、不覚にも見入ってしまう。それも奴に「どうぞ」と言われるまで気付かなかったほどだった。はっとしてオイラも酒を口にする。ほろ苦い味が口の中いっぱいに広がって、飲み込むと喉を通して熱が伝わるのがわかった。大丈夫、これならいけそうだ。更に酒をつぎ足し、二杯、三杯目と体が火照るのに比例して杯数も増した。








「これで十三杯目ですけど…デイダラさん無理しなくていいんですよ?」

「だ…れが無理なんか、」


そう言ってるそばから足元がふらついて畳に伏せそうになる。トビはと言えば全然酔っていない様子で酒を飲む前の状態との差がわからない。トビが自分のとオイラの杯に酒をつぎ足す。正直、視界がぐるぐるしている。吐きそう。熱い。眠いしだるい。もうワケがわからない。ガチャンッという音と供に中身の酒が畳に染みを作る。震えたオイラの手から落ちた杯が割れたのとほぼ同時にがくんと足の力が抜ける。


「っと、だから無理しなくていいって言ったのに」

「…ぅ、」


そのまま倒れ込みそうになったのをトビが片腕で受け止める。自分の足で立っていられないオイラはトビにもたれかかる形で何とか前のめりにならずに済んでいる。トビがオイラを姫抱きで抱えると、襖の奥の部屋へと連れ込まれる。そこは先ほどの部屋より数段と薄暗く布団が二枚敷いてあるだけで、小さな灯火が照らされていた。ずきずきとする頭痛の中で警告音が鳴っている。ドサッと布団に放り投げられ上に跨られてしまえば、酔ったオイラの力じゃ抵抗するのも儘ならない。


「さすが高い宿だけはある。僕が敷かなくてももう敷いてありました」

「ト、ビ…っ」

「可愛く言ってもダメ。賭けに勝ったのは僕なんですから、言うこと聞いてください」

「っン、」


仮面をずらしたトビに早急に口を塞がれて、互いの苦いような甘い味が口内に広がる。無理やり唇をこじ開けて舌を押し込まれれば、オイラの体は面白いほど縮こまった。キスと言われててっきり唇を押し付けるだけのものだと思っていたオイラは、息吐く暇もない激しいキスに動揺を隠せない。唾液は口元から溢れ、顎を伝って垂れる。両手を動かそうと必死に抵抗を試みるが、奴の手で腕を押さえ込まれてしまいどうにもならない。


「ン、ぅ…っん!」


服の隙間から手を忍ばせ指先で摘むように胸の突起を刺激されると、塞がれた口から喘ぎが漏れだした。オイラはトビの予想だにしない行動に、嫌がるように首を横に動かしてキスを拒む。


「っはぁ、…てめっ、」

「こんなおいしい機会、見逃すワケにいかないじゃないですか」

「!ゃっ…」


トビの手が滑り下りて浴衣の上から自身を刺激されると、すでに先走りで濡れた服がグシュリと音を立てた。それにトビがくすりと笑う。


「嫌がってる割には濡れてますね?」

「んっ、ふ、」


アルコールのせいか、体が熱くて頭の中がぼーっとする。何も考えられなくなって、奴の愛撫に素直に否が応でも体が反応してしまう。い、やだ。こんなの、オイラじゃない。トビがオイラのを握る手を上下に扱いた。


「ふ、…っ、ァ」

「ねぇ先輩、イキたい?」


トビの手が自身扱きながら、オイラの耳元でそう囁いて甘噛む。そんなの、イキたいに決まってる。でも無理やりこんなことをされているのに、それを喜ぶなんて奴に淫乱だと罵られるのは目に見えていた。何よりプライドがそんなこと許さない。オイラは息も絶え絶えに首を横に振った。それにトビが「往生際が悪いなあ」と言って更に早く手を動かす。


「ひっ…、あぁっ!」

「先輩が言ってくれるまで、僕イかせてあげないんで」


激しく扱かれて堅くなる自身の先からは先走りの蜜が溢れ出る。焦らされるような感覚に無意識のうちに腰が揺らぐと、トビが滑り込ませた手を奥へと這わした。指の節で内壁を擦り上げ、ゆっくりと指を押し込まれる。初めてでもないはずの其処は、指1本でもキツく感じるほど強く指を締め付けてくわえ込む。トビがゆっくりと抜き挿しを繰り返し少しずつ指を増やすと、幾らか解れて水音を立てた。


「う、あ…っ!」


ちくしょう、トビのくせに。調子に乗る奴の指先に体を弄ばれると甘い声が漏れてしまう。認めたがいがコイツは、いわゆる床上手だ。まるで自分の性感帯を全て把握しているかのように的確かつ巧みに刺激を与えてくる。いつもは言動も態度もふざけているのに、夜になるとこうも変わるのだから侮れない。オイラが快楽の声を我慢しているのだと知ってか知らずか、奴は悪戯に指をクンと折り曲げる。


「ひっ、んぁ…!」

「素直になったらどうです。ほら」


達するには足りない刺激を与えられて熱に侵された体がうずく。焦らされてもどかしいことを知っているクセに、コイツは楽しそうにクスクスと笑いながらオイラに問い掛けた。無性に悔しくなってオイラは口を真一文字に固く結ぶ。それを見たトビがヤレヤレといった様子で蕾から数本の指を一気に抜く。思わずぶるっと体が快楽にふるえる。散々いたぶられた体はもう限界だった。


「そろそろ挿れてほしいでしょ?」

「っ…ぁ…、」


足を無理やりに開かれてトビが熱を持った自身を押し付ける。しかし、それが奥まで突き進むことはなく入り口で止まられてしまう。挿れて、ほしい。楽になりたくてたまらない。そう思っているのに、ほんの僅かに残った理性が邪魔をする。でも、こんな欲望をどうにかしてくれるのはもうトビしかいない。少しずつ口を開きかけた、そのときだった。


「ふ、僕の負けっスよ」


ぐ、と圧迫感が押し寄せてたまらずオイラは叫びに近い喘ぎ声を上げる。


「あ、っ、んあぁっ…!」


ま、ただ。また心が、体が、熱くなって。何も考えられなくなる。指とは比べものにならない質量に頭がどうにかなりそうになる。


「そんな物欲しげな顔されたら、我慢できませんってっ…」

「ひっ…ぁ!うあ…っ」


壮絶な快楽が次々とオイラを襲った。後ろから押されるようにして突き入れられる。その激しさにたまらずトビに必死にしがみついた。そんなオイラの行動を見てトビが「可愛い」と耳元で熱い吐息と共に囁かれた言葉に顔が熱くなった。思わず今まで絶対に流さないとしてきた生理的な涙が出た。もう、だめだ。気持ちイイ。オイラの限界を察したトビは、前立腺を集中的に狙って中を突き上げる。


「やっ…イクッ!イッちゃ…あぁ!」


中をきゅうっと思い切り締め付けながら、オイラは一足先に絶頂を迎えた。トビはオイラの締め付けに耐えながらも、自分の首筋の辺りで小さく吐息を漏らす。今思えば、しがみついた奴の体も自分と同じくらい熱かった。大量に摂取したアルコールのせいだろう。ああ、コイツも限界なんだ。そう頭の中でぼんやりと頭思った。


「──くっ…!」


奴の小さな喘ぎと共に、熱い飛沫を中で感じた。オイラの中で絶頂を迎えたようだ。互いの荒い吐息が聞こえて、汗で頬に長い髪が張り付く。久々のセックスに疲労がどっと感じる。


「お…まえ、ほんと…誰なんだよ…」


体を布団の上に投げ出したままトビにそう問い掛ける。オイラの髪の毛を払っていたトビの手が、一瞬ぴたりと止まった。が、それも数秒と経たずして何事もなかったようにまた髪をはらい始めた。オイラの視界が幾らか開けると、奴に頭をやさしく撫でられる。


「僕は僕でしかありませんよ」


トビは静かにそう言うとオイラは奴の言葉に首を傾げた。それにトビが小さく笑って「そのままの意味ですよ」と頭を撫でられながらそう言われた。それでオイラが納得できるわけがない。むかつく、けっきょく曖昧のままか。重たい瞼が閉じかけて、そのまま意識を手放してしまいそうになる。トビがそれに気付いて、オイラの目元を片手で覆った。


「おやすみなさい。デイダラさん」


カラン、と何かが投げ出された音が聞こえて次の瞬間には唇に柔らかい感触が伝わる。奴は今仮面を取り去っているのだろうか。頭の中でそんなことを思って、オイラは意識を手放した。











容赦ない罰ゲーム






隣でぐっすり眠るデイダラさんを見て、起こすのは可哀相だと思いそのまま様子を見守ることにした。朝になったらシャワーを浴びるくらいの時間はとってあげよう。僕は彼の乱れた浴衣を整えてやる。それからすることもなくデイダラさんの寝顔を覗き見る。こうして黙っていると、本当に女の子みたいだ。絶対にあの性格を直した方が得なのになあ、なんて小さく寝息を立てる彼を見つめながら考える。でも、それはそれで困るかもしれない。そうなってしまったらそれはもはや彼ではない。冷やかしてみても口答えもされないなんて、なんの面白味もないただの人造人間だ。それに今以上に変な虫が付くのも考え物である。あなたを見ていると、他の奴には渡したくないと思うんです。自分がここまで独占欲が強かったなんて、今更思い知らされましたよ。あなたは僕の素顔が見たいと言った。でも、それはできない。そうしたら、きっとあなたは


「…嫌われたく、ないんです」


不思議なものです。あなたの存在がこんなに大きくなるなんて、思いもしなかったのに。また明日、あなたが仮面の下を見せろと言ったらなんて言い返そう。そのときの悔しさに歪む彼の表情が楽しみだ。







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美晴様へ↓

マダラ様ってあんなシリアスな過去があったのにトビの口調とかよく演じてたな…
もう吹っ切れた感じでやってたんでしょうね(^д^)
キャラ演じてたとき実はけっこう楽しんでやってたら可愛いですね
そんなマダラ様にとって少なからず先輩は特別だったらいいな^^
怒ったり笑ったりコロコロ変わる先輩の反応はさぞ面白かったに違いない
リクエストありがとうございました!