※ストーカーネタ 鬼畜有り


「まただ…」


掌で震えた携帯はもう今日だけで何回振動したのかわからない。ディスプレイに表示されるのは新着メール通知。その数、23件。どれも同じメールアドレスからのものだ。ほら、やっぱり。どうせ開いたっていつもと同じ言葉なんだ。愛してる愛してる愛してる。いくらボタンを押し続けて下へ行っても画面一面にビッシリと埋め尽くされたその文字。一体どこまで続いているのだろうか。そんな愛の言葉を冷めた目でぼんやりと眺めて、携帯をベッドの上に放り投げた。
こんなことが始まったのは、いつからだろう。確か2ヶ月前だろうか。初めは家のポストに手紙が入っていた。『好きです』中にはただその四文字だけが書かれていて、他には送り主の名前も何も書かれていなかった。なんだこれ、ラブレターかな。なんて思った程度で、オイラは全く気に止めていなかった。しかし、その手紙がそれから一週間後にまた届いた。中身はやっぱり同じ文字で、封筒も同じもので名前は書かれていない。そこで初めて恐怖心を抱いた。そして一週間置きだったものが、5日置き、四日置き、ついには2日置きへと。『今日は元気がなかったね』『そんな黒くて地味な服、君には似合わない』なんで、そんなこと知ってるんだ。気持ち悪い、と思った。それから手紙だけじゃなく、携帯にも同じような内容が送られるようになった。何度もメールアドレスを変えたけど、それでもまた送られてくる。受信拒否にしても、メールアドレスを変えて送られてくるから同じことだった。それどころか、逃げられると思うなよという脅迫文まで送り付けられる始末だ。どんどんエスカレートしていくその行為に、精神的に可笑しくなりそうだった。


(頭が痛い)


酷い頭痛に苛まれて、眩暈もする。もう、寝よう。時刻はまだ夜の10時だけど、明日のバイトも早いことだし。倒れ込むようにベッドにダイブして、枕に顔を埋めた。足元ではまた携帯が震えて、奥の部屋では鳴り止まない電話の音が聞こえてくる。もう、やめてくれ。オイラは目をギュッと強く瞑る。どうか明日には、この悪夢が終わっていますように。







「うわっ!デイダラちゃんどうしたんだよ、その目の下の隈…!」

「え?…あぁ。それが昨日も電話が鳴り止まなくて…」

「顔色悪ぃけど大丈夫か?」

「ん、大丈夫…」


飛段にはそう言ったけど、本当は独り暮らしで相手に住所も知られていると思ったら、怖くて眠れなかったのもある。コンビニのバイト仲間であり、クラスは違うけど高校も一緒で同学年ということで飛段とは仲がいい。一番の親友だし、信頼もしているから飛段だけにはストーカー被害に遭っていることを相談している。それだけ飛段はオイラのことを気遣ってくれて、前にも警察に相談しようと言われた。けどオイラは警察に言ったところで何も変わらないと言って、第一男がストーカー被害に遭っていて怖くて眠れないなんて、情けなくて他人には言いたくなかった。


「ホント、無理することねぇって…」

「オイラは大丈夫だって。それに、親が蒸発しちまったのに寝てなんかいられねーしさ」

「……」


飛段はオイラの言葉に黙り込むと「俺にできることなら何でもすっから…あんま一人で抱え込むなよ」と言って、頭に手を乗せくしゃくしゃと少し乱暴に撫でた。いつもなら嫌がっているけど、今日はそれがとても心の支えになって「ありがとな」と言い歯を見せて笑ってみせれば、飛段も安心したような顔して、ニカッと笑った。ホント、飛段いいヤツだなぁ。なんて思いながら、レジ場から離れようとした。


「っ!」

「お、おい!大丈夫か!?」


ガクン、と足の力が抜けて床に倒れ込みそうになったところを間一髪で飛段に身体を支えられた。吐き気がする。自分一人の力じゃ立っていられない。くらくらする視界の中、店長がやって来て「今日はもういいから、家でゆっくり休みなさい」と言われてしまった。飛段にも「そうしろ、な?」と言われてしまえば、オイラは仕方なしに頷くしかなかった。


「……」


それからタクシーを呼んでもらって、自宅に向かっている最中ぼんやりと窓から景色を眺める。ホント、何をやってるんだろう。自分のせいで色んな人に心配かけて、迷惑かけて。本当に、情けない。そんな考えが、グルグル脳内を駆け巡っていた。
中に入ってしっかり鍵を締めたところで、ほっとしたように小さく溜め息を吐く。今日が土曜日でよかった。学校で倒れたりしていたら、もっと大きな騒ぎになっていただろう。ベッドに寝転んで天井を見上げる。窓の外がまだ明るいのもあって、少しだけだけど安心する。疲労が溜まっているのもあって、目を閉じれば今にも寝られそう。眠気に誘われるまま、そのままゆっくりと瞼を閉じた。




目が冷めたとき、部屋はもうすでに真っ暗だった。時計に目をやれば夜の11時。大分寝ちゃったな。でも久しぶりにゆっくり眠れた気がする。今日はまだ電話もメールも一度も来ていない。その事実が何より嬉しかった。もう一度寝ようと目を閉じかけたそのとき、ズボンのポケットの携帯が振動した。思わずビクッと目を見開いて、眠気がどこかへ吹き飛んでしまった。恐る恐る携帯を開けば、あのメールアドレスから新着メールが1件。本文はやっぱり、画面一面に愛という文字がありながら、この行為に愛の欠片もない言葉。その直後、いきなり背後から家の電話が鳴る。ピリリリリ、という聞き慣れた音が怖くて、思わず耳を塞ぐ。それでも掌越しに甲高い機械音が聞こえる。


「……っ」


なんなんだよ。
オイラが、何したっていうんだよ。


どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだ。そう思えてきて、オイラは隣の部屋に向かう。そして、鳴り止まない受話器を取った。「もしもし、」と震えた声で聞き返しても、やはり相手の返事はない。ストーカーからの無言電話だ。


「ぉ、おい…聞こえてんのかよ…」

『……』

「……ぃ…、いい加減にしろッ、もう二度とかけてくるな…!!」


大声でそう言って、ブチッと電話を切った。すると先ほどまでの嵐が嘘のように辺りは静けさに包まれた。さっきまでドクドクとうるさかった心臓も、今では落ち着いて呼吸も平常に戻っている。オイラは力無くその場にへたり込む。言ってやった。逆上して家に押し掛けてきたりしないだろうか。そう思うと不安になったが、その日いくら待ち続けても誰も家には来なかった。




それから二週間が経ったが、ストーカーからの連絡はあの日から途絶えた。今まで大量に送られた手紙も、メールも一通も来ていない。あの電話でついに吹っ切れたのだろうか。こちらとしてはそれで終わってくれるなら有り難い。だから、油断していた。今考えれば、自分の考えは甘かったんだ。
アルバイトもいつまでも早めに帰らせてもらっているのは悪いと思い、通常通りのシフトにしてもらった。夜道も一人で帰ることが多くなった。そしてこの日も、オイラは一人だった。10時過ぎの辺りが暗くなった帰り道、歩いていたらポケットの携帯が震えたことに気付いた。飛段からかな、なんて考えながら携帯を開いた瞬間、オイラの表情は凍り付く。


「──ッ!」


『許さない』


ただ、それだけ書かれてあった。いつもは画面にビッシリ文字が埋まっているのに。それだけにこのたった四文字が怖くて堪らない。アイツだ。今まで何事も起こらなかったのにどうして。どっと冷や汗が身体中から溢れ出てくる。もしかしたら、すぐ近くにいるんじゃないか。そう考えただけで身体が震えた。こんなに怖いと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。今自分のすぐそばをストーカーが彷徨っていたら


「んなんだよ…っ…」


運悪く今日は街頭が少ない道から帰ってしまったため、辺りは真っ暗で何も見えない。この道は夜道が暗い代わりに、バイト先から自分の家まで一番近い。いつもは遠回りをしてでも、この道だけは避けていたのに。この状況に陥ると背後から、それどころか前後左右からも視線を感じる。ここにいるのはマズい。直感的にそう思って、オイラは後ろを気にしながら駆け出した。恐怖からか足がもつれて走りにくい。それでもオイラは必死に走った。そして家のアパートの少し手前の角を曲がった、そのときだった。


グンッ


「!? んン、っ!」


いきなり電柱の後ろから手が伸びてきて、驚く暇もなく口元をその手で塞がれた。顔は見えない。こんな行動に出るくらいだから、きっとストーカーに間違いないだろう。オイラは声が出せないかわりに必死に手足をばたつかせて抵抗した。すると耳元で冷たく低い声で「大人しくしろ」と言われた。声からして相手は男だった。これからどうなる、なんて考えたくもない。
そのまま抵抗もできずにすぐ近くの公園まで腕を引かれた。茂みに連れられ今まで強く握られていた手が離れたと思ったら、突然思い切り地面に叩き付けられる。突然のことに受け身が取れず頭から落ちて、痛がる隙も与えられずに男が馬乗りになった。


「いいか。逃げたりしたら…わかってるだろうな」

「ッ…!!」


男の手元でギラギラと光る物が見えた。間違いない、刃物だ。騒いだら、殺されるかもしれない。オイラは恐る恐るこくりと頷いた。男がゆっくりと口元を塞いでいた手を放す。


「いつもよりずっと聞き分けがいいじゃねぇか」

「……っ、ンッ!」


ジーンズを下着ごと下ろされたかと思ったら、いきなり人に触れられたこともない箇所を触られた。「あぁ、思った通り初めてか」なんて呟く奴とは恋愛観の感覚が違いすぎる。冷たくひんやりとした指先が無理やり蕾口に差し込まれた。痛くて涙が滲み出てくる。気持ち悪い、怖い。お願いだから、もうやめて。


「まだギチギチだけど我慢しろよ。慣らしてる余裕がねぇ」

「ひ…っなに、」


男が興奮気味に早口でそう言いながらオイラの脚を抱えて胸につくまで折り曲げさせた。そしてまだ渇ききっている入口に、ビンビンに勃ち上がった自身を押し当てられる。その熱にこのままじゃ本当に、と思って力を振り絞り必死に暴れた。しかし抵抗も虚しく、そこに先端を埋め込まれていく。


「や、っあ、あああ゙っ…!」


次の瞬間、聞こえたのは自分の絶叫。信じられない痛みと指とは比べ物にならない質量に、声を出さずにはいられない。初めてのうえに解されることもなく犯された蕾は男のものを半分も飲み込めない。それなのに、男は腰を動かし強引に其処にねじ込んでくる。


「――っ、ア!い゙…っ」


必死に痛みに耐えるオイラなどお構い無しに、男は激しく突き上げてくる。内臓が無理矢理押し広げられる感覚に耐えられなくて、地面にきつく爪を立てた。爪の中に土が入ったけど、そんなことはもう気にしていられなかった。


「デイダラ…可愛い…」

「や、ぁ、あ゛…ッ、ぁぐッ」


ぐっ、と一際奥まで突き上げられて身体が強張った。オイラには苦痛で仕方がない行為なのに、目の前の男にとっては快感の行為のようで、これ見よがしに腰を動かしてくる。何度も揺さぶられているうちに吐き気は増すばかり。男のものが一層大きくなったかと思ったら、波打ってオイラの中で果てた。


「ぁ――…あ…、…」


ようやく男の動きが止まり苦しくて息を吸い込むと、痛みで強張っていた全身の力がフッと抜けた。中ではまだドクドクと男の自身が波打っているのがわかる。やっと、終わったのか。もう気持ち悪くて気持ち悪くて仕方が無かったこの時間がやっと終わるんだ。息が上がって呼吸を整えていると、中に入ったままの男のものがまた熱を持ち始め、ぴったりと、微かな隙間も埋めるとばかりに身を寄せられた。




「もうへたばってんじゃねーよ」


耳元で囁かれたその言葉に、オイラは身体を震わせて絶望を隠しきれない。男が力の抜けたオイラの腰を抱え直す。そのままゆっくりと円をかくように腰を回した。内壁とヤツのモノが擦れ合わされ、爛れた粘膜に刺激を与える。な、んで。やめる所か、よけいに激しくなってる気が、


「一回出しただけで終わる訳ねーだろうが。せっかくの機会なんだ。朝まで付き合ってもらうぜ」

「や、ああっ、そん…っな、ぁ…ッ」


何度か中を掻きまわされたと思ったら男のものはすぐに固さを取り戻す。奥深い場所を突かれるときもあれば、浅く思わず身震いしてしまう場所を擦られる。ある一点を掠めると、オイラは「んあっ」と今まで出さなかった甘い声を上げてしまった。なんで、と自分でも驚いていると、男はそこをグリグリと強めに突き上げる。


「んっ…、ふぁ…っ」

「ククッ、どーした?おら、腰が揺れてるぜ」


身体がぶるりと震え、無意識に中を締めつける。それに男が肩で笑って、また煽るように小さく揺れた。その動作にさえ反応してしまう自分の身体が憎い。こんなことされてイヤなのに、苦痛で仕方ないのに。一瞬でも気持ちいいと思ってしまった自分はこの男と同じ、気持ち悪い人間なのかもしれない。


「…っ、く、ぅ……っ」

「俺でお前の中満たしてやるよ」

「ぃ…ッ、うぁ、あー…」


一際強い突き上げにもうだめだと思ったとき、自分の情けない声が聞こえて視界が真っ暗になる。そして男の手の中に熱い熱を放ったのと同時に、男も中で果てたのを感じた。嫌悪感からか、頬に一筋の涙が伝う。


「これでお前は俺のもの、俺だけのものだ。これからも、ずっと」


男はそう言うと、その零れ落ちた涙を舌で舐め上げる。頬から瞼、額、最後には唇にキスをされる。





「愛してる、デイダラ」


耳元で男が何度も自分に送り付けてきた言葉を囁いて、満足そうに笑う気配がした。














汚れた愛で心を満たす




一方的な愛を押し付けて
僕を苦しめて
それであなたは、満足ですか




────


采花様へ↓
旦那が気狂い+変態すぎました。
ごごごごめんなさい;ω;
本文では書けなかったのですが、旦那はデイのバイト先の常連客の設定です。営業スマイルだとしてもデイのあの笑顔に一目惚れして、何も買うものなくてもデイが出てる曜日は必ずと言っていいほどよく来てて、顔も覚えられていてデイは「あの人顔キレイだな」とか思ってました。でもでも自分以外の人にも愛想よくするデイダラが嫌で、愛情表現が下手な旦那は歪みに歪みます。
旦那とデイダラの出会いとか書きたかった^p^
リクエストありがとうございました!