思い返してみれば、俺はいつもひとりだった。幼い頃に両親を亡くして、誰かに甘える術も知らずに今日というこのときまで生きてきた。部屋に籠もってひたすら人形と戯れてきた自分は、端から見れば根暗で陰気臭い奴だっただろう。そうしてまともに人と関わることも知らずただ人形の相手だけをしてきた俺は、親からの愛情も受けずにずっと孤独だった。ひとりを嫌うようになったのはその頃の話だ。

そんな寂しさを紛らわすために、両親に似せた傀儡を造ったこともあった。そして幼い頃の自分が愛情を欲して父と母の傀儡を自ら操り抱き締めてもらった日のことを、今でも昨日のことのように覚えている。そのとき抱いた束の間の幸せ、ほんの一瞬だけ満たされた心の隙間。瞳を閉じてその幸福に浸れば、本物の父と母に抱き締められているような気がした。しかし糸がほどけてしまえば、それはもう動かないただの人形。次の瞬間に瞳を開いたとき目の前で死んだように床に転げる二体の傀儡を見て、自分の中で絶望を通り越して何かがすーっと冷めていくのがわかった。そのときからだろう、俺が歪んだ思想を抱くようになったのは。

傀儡なんて所詮人の形を象っただけの偽物だ。そんなものでこの空っぽの心が埋められる時間はほんの一瞬に過ぎない。瞬きをしているうちに、脆く儚く崩れてしまう。どうせすぐに消えてしまう幸せなら、最初から知らない方がよっぽど幸せだった。あのときの思わず目頭が熱くなるほど満ち足りた気持ちが、今でも忘れられなくなってしまった。そしてひとりを嫌った俺は、朽ちることのない永久の美である人形の心と体を手に入れたいと願った。永久を手に入れれば、手に入れさえすれば、いつかはこの心の隙間が埋まってくれるんじゃないかと思ったからだ。

なのにどうしてだ。俺の中にある穴はなぜ埋まらない。以前の人形の身体のときよりも、確実な“永久の美”の不死身の身体を手に入れたのに。どうして幼い頃から望んでいた本物の永久を手に入れたのに、この気持ちは満たされないのだろう。



「今のアンタは生身だが本物の傀儡に成り下がったただの人形だ」



俺の昔造った傀儡を受け継ぐ同じ里の生まれの後釜がそう語る。ただの人形という言葉に俺は耳を傾けた。そして奴は以前の俺の人形の身体を本物と、今のこの俺の身体を偽物と言う。俺の技術と造った傀儡は、そこに宿る魂を受け継ぐ後世の繰演者がいてこそ朽ちることのないものだと、その後釜は言葉を続けた。



「……」



少なからず、この後釜の傀儡師は俺の芸術品を受け継ぐ後世の繰演者、と解釈していいのだろう。俺が造った芸術品が次の輩に託され、そしてそいつからまた次の輩へと託される。それこそ俺の望んだ“永久”なのだろうか。


フ、と俺は思わず口元を緩める。俺は今まで永久を手に入れれば、手に入れさえすれば、いつかはこの心の隙間が埋まってくれるんじゃないかと思っていた。いや、そう願っていたかった。永久の体を手に入れたところでこの心が満たされる訳はないことを知った今、もうこの世界には何処にも、俺の生きる意味なんて、


そう思ったとき、俺の中で何かが切れたようにボロボロと体の一部が崩れ始めた。遠くでデイダラが大声で俺を呼ぶ声がする。嗚呼、俺はここで終末を迎えるのか、そうどこか他人事のように思った。きっとお前は、こんな俺の末路を馬鹿らしい息絶えだと、永久を求め続けた結果がこれかと笑うだろうな。それでも俺は、傀儡師として人に操られるのを黙って言いなりになるような気立ての良い奴には成り下がれなかった。俺はお前のために生きるつもりも、ましてやお前のために死ぬ覚悟なんて最初からありはしないんだ。あの日のことだって、お前をおいていくというのに死んだ家族の元に逝けるならと、一瞬でもそんな考えが浮かんだ俺は裏切り者だ。

でもお前に一つだけ言えなかったことがある。いつも芸術論について価値観の差でよく言い争っていたが、本当はお前のこと、そんな嫌いじゃなかったぜ。今でもテメーの言う“一瞬の美”とやらは理解できないが、もう二度とそれも拝めないと思うと一度だけなら見てやってもいい。

ひとりにされるのは嫌いだが、あの日のときも今もこうしてお前より先に死ねることでおいていかれなくて済むと思うと、心のどこかで安心している自分がいる。デイダラ、お前が俺のために生きてくれたかは知る予知もないが、少なくとも俺は俺だけのために生きて俺だけのために死のうとしている。お前のいない世界を、俺は望んでしまった。お前は俺を嫌うだろうか。取り残される辛さを俺自身が一番わかっているはずなのに、お前に同じ苦しみを与えることを恨むだろうか。

でもこれが俺の望んだ結果なんだ。もう感情を押し殺したフリをするのには草臥れたんだ。赦されたいとは思わない。救われたいとも思わない。ただ、願うのはお前の笑顔、お前の幸せな末路。


最後に、お前が笑顔で「ただいま」と告げる日を、今はただ、ひたすらに待ち続けよう。













このまま自己満足で死のう




ごめんな