ちょっぴりエッチ




「な、にしてんだ」


目の前には、衣服が乱れて床に押し倒されたデイダラと、覆い被さるようにしてその喉元に噛み付くイタチの姿。
一体なんで、どうして。
俺は信じがたい光景に、ただその場に立ち尽くした。


単独任務から帰ってきた俺は、疲れた身体を休ませることなく真っ先にデイダラの部屋に向かった。1ヶ月近くも会えなかったんだ。いくら強がりのあいつでも寂しかっただろうな。今日はたっぷり甘やかしてやろう。そう思って部屋に入ってみると、そこにデイダラの姿はなかった。なんだ、いないのか。俺は肩をがっくり落として、取り敢えず居間に行ってみることにして部屋を後にした。
廊下を歩いていたとき「デイダラなら飛段の部屋に入っていったぞ」とすれ違い様に角都から教えてもらった。俺はそれを聞くと、すぐさま飛段の部屋に向かう。やっとデイダラに会える。そう思うと自然と足取りも軽くなった。「デイダラ!」と力いっぱい扉を開けば、晴れ晴れしていた俺の表情はみるみるうちに曇っていった。そして、今の現状に至る。


「…思ったより早かったな」


イタチがデイダラから退き、小さく溜め息を吐いてそう言った。俺は部屋に散乱した物を踏みつけながらズカズカと歩み進んで、デイダラの腕を掴む。


「デイダラ、行くぞ」

「んー…」


しかし腕をぐいぐい引っ張っても、起き上がるのは上半身だけで足はぺたんと床に着いたままだ。身体に力が入らないのか。


「テメー…何飲ませた」

「勘違いするな。ただの酒だが、デイダラが止めても自分から飲んだんだ」


あ?と言いながら辺りを見渡してみれば、視界には何本もの床に放り投げられた中身が空の焼酎。それに部屋はどことなく酒臭い。飛段は泥酔してしまったようでベッドで大きないびきをかきながら寝ていた。デイダラも恍惚とした顔をしている。こいつら…一体いつから飲んでたんだ。


「だからって、なんでこんな…」

「……」


俺の問い掛けに、イタチは黙ったままだ。なんだよ、俺には言えないようなことなのか。そんな顔されると、まさか今日が初めてじゃないんじゃ、と嫌な考えが浮かんでしまう。随分と間を置いてから、イタチがやっと口を開いた。


「ただ、ちょっとした出来心だ」

「なっ…」


出来心だと。ふざけ、と言い掛けたそのとき、突然服の袖を引っ張られる。驚いて振り返ると、デイダラがとろんとした目で俺を見上げていた。


「だん、な…?」

「ぁ、ああ……って、ぅお!?」

「ずっと、待ってたんだぞ」


突然腕を引っ張られて体制を崩した俺は、座っているデイダラへ倒れ込む。そして背中に腕を回されていきなり抱きつかれた。予想外の展開に、俺は頭がついて行けずに硬直する。こ、ういうときは抱きしめ返した方がいいのだろうか。両腕をデイダラに回そうとするが、あともう少しというところで、やっぱりできない。決心してその背中に触れようとしたとき、デイダラが俺の胸に埋めていた顔を上げた。思わず回そうとした腕をパッと引っ込める。その顔はどこか色気付き(濡れ事後の顔のようだ)唇はほんのり赤く色付いている。不覚にも、ドキッとしてしまった。


「そんな顔されたら、誰だって我慢できないだろう」


イタチが俺からデイダラを引き剥がして、その唇に口付けようとする。いつもならデイダラはイタチに触れられただけで触るなと大声で騒ぐのだが、今日ばかりは意識が薄れてはっきりしないのか、されるがままになっている。


「…っやめろ!!」


耐えられず、俺は大声を張り上げた。イタチは俺が取り乱す様を見たのは初めてのようで、突然のことに驚いている。俺はデイダラを無理に引っ張り、強引に部屋から連れ出した。


「だんな…?どうし「黙ってろ」


早足でその腕を引っ張れば、よたよたと歩くデイダラは無理にでも早く歩くことを強いられた。俺がそう言い放っても、デイダラはまだ状況がわかっていないのか「どこに行くんだい?」とか「痛いってば」とその口を閉じることはない。それでも俺は一言も返さない。俺は珍しく苛立っていた。何にって、そんなの決まってる。
俺の部屋にデイダラを連れ込み、扉を閉めたところでやっとその手を離してやる。


「もー、いきなり何すんだいっ」

「…」

「あ〜!わかった!だんな、えっちなことしたかったんでしょ?」

「…」

「……だんな…?」


返事を返さない俺が気になったのか、デイダラは顔を覗いてくる。いつもなら可愛らしいと思うその仕草さえも、今日はただ腹立たしく感じた。


「あぁ、そうだよ」


静かにそう言うと、グイッとその腕を強く引っ張りデイダラをベッドに押し倒す。そして俺はすかさずその身体に跨った。ぐ、と身を乗り出してデイダラを見下ろせば、さすがに危機感を覚えたようで、肩を跳ねさせ俺を見る。


「お前の思ってる通りだ。ずっとお前に触れたくて仕方なかった。でも、お前はそうでもなかったようだけどな」

「だ、だん」

「俺がいなくたって、お前はよ」


平気なんだろ?
そう言ってやろうと思ったけど、デイダラの俺を見る目がいつもとは違っていて、明らかに恐怖を訴えていたから、そう言ってやる気も失せた。そんな顔させたいつもりじゃないのに。そう思うのに苛々が収まらない。出掛かった言葉を飲み込んで、強引にその唇を塞いだ。


「…っ、んっ、んんっ…」


抵抗できないように手首を掴みシーツに押し付けてしまえば、デイダラを大人しくさせるのは容易かった。ぷはっ、と苦しそうに酸素を求めて息をするデイダラを無視して、顔を掴み無理やり自分の方を向かせる。そして噛みつくようにもう一度キスをした。


「ん、ぅ…っ…っん…!」


息つく暇もないような激しいキスに、デイダラは顎から唾液を垂らして真っ赤な顔をする。酒の手助けもあってかその顔はいつもの情事の最中以上に増して厭らしい。そうやって、お前はイタチの奴を誘って、


「…たかがキスしただけでこんな顔になっちまうなんて、とんだ淫乱だな」

「っ、んなことっ…言わなくても…」

「うるせぇんだよ」


ビクッと身体を縮こませたデイダラを気にもせず、俺はその上半身の服を網ごと破り去る。ビリィッという音がして、無惨にも破られた服はただの布切れと化した。大きな目をさらに見開かせて、デイダラは不安げに俺を見る。


「だ、だんな…こんなの嫌だ…っ」

「黙れって言ってるのがわかんねーのか」

「……っ…」


ドスの利かせた低めの声でそう言いつければ、デイダラは唇を噛み締めて言われた通り黙った。押さえていた手から力が抜けたことを確認すると、俺はゆっくり手を離してやる。デイダラの手は少しながらもカタカタと震えていたが、それすらも俺は気付かないフリをした。手を伸ばしかけたとき、ふと目に止まる首筋に浮かぶ一つのキスマーク。先ほどイタチが付けたものだろう。それを見たら余計に怒りが込み上げて、その痕に唇を重ねて思いきり歯を立てた。


ガリ…ッ


「っ!ゃ、痛っ…」


痛がるデイダラを余所に俺はそこを集中的に吸い上げる、と言うより噛み付くと言った方が正しいだろう。まるで執着を見せつけるかのように舌を這わせば、デイダラは痛みに小さく悲鳴を上げた。しばらくしてから唇を離せば、そこは先ほどよりも赤みが増して血が出ていた。それを見て気をよくした俺は、今までその手を掴んでいた手でデイダラの素肌をなぞる。それは鎖骨から下へと向かって滑り、ズボンの上からデイダラのものを撫で、もう片方の手は胸の突起を刺激し続ける。強めにそこを弄ればデイダラは快楽混じりのくぐもった声を上げて、爪を立てて押しているうちに乳首は薄桃色に色付き、ピンと立って固くなる。初めは反応していなかった自身も少しだけ主張している。


「嫌がってるくせに、しっかり感じてんじゃねーか」

「ち、がっ…」

「嘘吐いてんじゃねぇよ」

「あっ、あぁ…っ」


ズボンの中に手を滑り込ませて、すでに先走りを零している自身を握る。それを扱いてやればデイダラは顔を赤くして敏感に俺の手に反応する。それを見て俺は更に手の動きの速めた。デイダラは目をギュッと閉じて快楽に耐えている。その姿が酷く俺を煽るとは知らないものだから、憎たらしくも思えた。


「も、んぁっ…ゃめ…っあ!」

「こんなにしといてよく言うぜ。イけよ」

「ぅ…っ…ゃっ、やぁああ!」


一際甲高い声を上げたかと思えば、デイダラは息を切らしてくたっと疲れた顔をしている。俺はズボンから手を抜き取り、濡れたそれを舐めとった。「やっぱり嫌じゃなかったんだな」と見下すように冷たく吐き捨てて、首筋だけじゃ満足できず身体のあちこちに唇を這わして印を付ける。まるで独占欲が形になったようだ。首のすぐ下に顔を埋めていたそのとき、上からしゃくり上げるような声が聞こえた。顔を上げた俺は、思わずギョッとする。見れば、デイダラが声を押し殺して泣いていた。


「デ、イダラ」

「…っ…オイラは、んなっ…つもりじゃなかったのに…っ」


見るなと言わんばかりに両腕で顔を覆うその姿が胸を締め付ける。瞳を隠しているとは言えども、頬を伝う涙を見たら次に感じるのは罪悪感。冷静になってその身体を見てみれば、手首には俺が掴んだ痕がくっきり赤く浮かび上がり、血が滲むほど吸い上げられた印が至る所に残っている。その痛々しい姿に、俺は手の動きを止めた。情事の最中に生理的な涙は何度か見てきたが、これは明らかにそれとは違うとわかる。俺が、泣かしてしまった。どうしよう、こういうときは謝るべきか。そう頭では考えているが、ごめんのごの頭文字すら出てこない。俺がどう対処していいかわからなくて戸惑っていると、デイダラがその口を開いた。


「ずっと…っ…寂しかったんだ…!」

「!」

「…っ…ふ…」

「デイダラ…」


俺はコートを脱ぐと、それをデイダラに羽織らせて優しく頭を撫でる。だんだん様子も落ち着いて涙も止まったのか、デイダラは涙目ながらも俺をちらりと見る。聞こえなかったかもしれないが、俺は聞き取れないほど小さな声で「悪い」と一言だけ言った。たぶん、デイダラには聞こえていたと思う。デイダラも肩を震わせながら小さく頷いた気がしたから。


「俺だって…そうだよ」

「っ…?」

「なのに、テメーは俺の気も知らないで他のヤツに隙見せて…」

「…!」


デイダラが潤んだ瞳を大きく見開いたかと思えば、今度は下を向いたまま動かなくなる。心配して俺は一度声を掛けて名前を呼ぶ。次の瞬間、突然首に腕を回されて抱きつかれた。


「お、おい!いきなり何すん…!」

「ごめん、ごめんよだんなぁ!」


ぎゅうぅ、と強く抱き締められて、さらにはやっと止まった涙もぶわぁっと溢れさせるものだから、俺は溜め息を吐いてもう一度その頭を撫でてやった。だんなごめん、ごめんよだんなぁ、と未だ言い続ける奴はいつもの生意気な顔からは想像もつかないほど、泣きじゃくって甘えてくる。馬鹿が一つ覚えに旦那旦那と言われるのは鬱陶しくも思えるが、こういうときに呼ばれるのは可愛く思える。でもそれが自分以外の誰かに向けられるだけで、こんなにも腹立たしく感じるとは思わなかった。俺ってけっこう嫉妬深かったんだな、なんて他人事のように感じながら俺は自分を呼ぶデイダラの髪を弄る。ただ、もうコイツには今後一切酒は飲ませないようにしよう。





次の日の朝、お決まりの記憶がないパターン(最後までヤったことを隠ぺいする旦那)