現パロ 


「だんなー?」


さっきまで飯はまだかまだかとあんなにうるさかったのに、いつの間にか旦那の声が聞こえなくなっていたことに気付いたオイラは、隣の部屋にいる旦那に呼び掛けた。しかし、応答はない。手にしていた包丁をまな板に置いて、気になって行ってみれば、床に座って何かを読んでいる旦那の後ろ姿が見えた。


「何してんだい?」

「いや…可愛いなと思って」

「…うん?」


何のことを言っているんだろう。まさかグラビア雑誌にでも載っている女の子のことを言っているのかと思って、ヒョイと顔を覗かせる。旦那が手に持っていたものを見ると、オイラは目をギョッとさせた。


「なにしてんだよッ!」

「これなんかヤバいな、お宝だな。写メ撮っていいか?」

「やめろよ!返せ!」


どこから見つけ出したのか、旦那はオイラの幼い頃のアルバムを静かになったあのときから今の今まで見ていたようだ。取り返そうと手を伸ばしても、旦那はおちょくるようにアルバムを持った手を前後左右に動かす。誰もいいなんて一言も言ってないのに、携帯をポケットから取り出すと、アルバムにレンズを向ける。


「っあ」


カシャッ


オイラが手をアルバムに伸ばせば、旦那のそれを持つ手が揺れたと同時にシャッター音が鳴った。旦那は携帯の画面を見ると、不機嫌な顔をする。


「何しやがる!ブレちまったじゃねーかッ」

「それはこっちの台詞だ!オイラの知らない間に何してんだよッ、恥ずかしーだろッ!」


そう言われて、旦那は小さく舌打ちしてアルバムに目をやる。すると先ほどまでの不機嫌な顔はどこへやら、にまりと嫌らしい笑みを浮かべて「ま、いいか。もう何枚も撮っちまったし」とオイラに言った。


「〜〜ッ!」

「にしても、本当に可愛いな。これぜってー女の子だろ。つか女にしか見えない。目ぇでけーし」


そう言いながら携帯の画面を見てにまにまと笑う旦那。「あ、そういやこれ欲しがってたよな」と思い出したように言って、奪い合ったアルバムをオイラにあっさり手渡す。…このヤロー。たぶんオイラ耳まで真っ赤だと思う。


「どうした、いらねーのか?」


あぁ、こんなに楽しそうな旦那の顔久々に見たな。確か前にも二度とこの顔だけは見たくないって同じようなことを思った気がする。恥ずかしくて死にそう、そう思ったときに旦那に名前を呼ばれて、オイラは顔を向けた。


カシャッ


「なっ…!?」


振り返ったときに見えたのは、旦那が携帯のレンズをこちらに向けている姿だった。うわあ、やられた。旦那は自分の思惑通りになって更に機嫌がよくなったのか、携帯の画面を見てククッと笑った。


「あー、小さい頃はあんなに可愛かったのに、こんな生意気な面になっちまって」

「余計なお世話だっつのッ!!」


もーやだ。さすがに今のは頭にきた。そーですか。どうせ今は可愛げもないですよ。見た目通り生意気な性格ですよ。でも、そんな自分に惚れてんのはどこのどいつだ。


「でも、変わってないでかい目とか、幾つになっても無邪気なところとか、人一倍負けん気が強い性格とかよ」


……え


「そういうところに惚れてるのは、俺なんだけどな」


旦那の言葉に思わず思考が止まる。あれ、今日ってなんかあったっけ?旦那の誕生日?いや、それはもう過ぎたし…じゃあなんだ、あれか、旦那の好きなミュージシャンの誕生日か?って…それは来月だったか。なら一体、なんでこんなに旦那がデレてるんだ?


「おい、デイダラ?」

「うわぁっ!?」


旦那に顔を覗き込まれれば、必死に考え事をしていたオイラは現実に引き戻される。「おま、うわぁって、」何が可笑しいのか、旦那は声を上げて盛大に笑った。あ、オイラこの顔好きなんだよな。それを知らない旦那は滅多にこの笑顔を見せてくれないけど。というより、知っていたらよけい見せてくれない気がする。旦那はそういう意地悪な人だから。


「…旦那オイラのアルバム見たんだから、今度は旦那のアルバム見せてくれよな」

「あぁ、いいぜ?」


その代わり、前の方がよかったなんて抜かしやがったら殺す。旦那は携帯をカチカチといじってテーブルの上に置くと、すたすたと居間に戻っていった。なんだいそりゃ。自分はあんなにオイラのこと貶しといてか?まぁ、そんな自分勝手な旦那に惚れてんのはオイラなんだけど。「デイダラー飯ー」そう旦那に呼ばれて「今行くー」と返事をすると、オイラも部屋を後にした。旦那の携帯の待ち受けが、先ほど不意に撮られた写真だということは、オイラは知らない。





え?デイダラのアルバム?
もちろんあたしも見たいです^p^