旦那死後



「っ…ぅ、」

デイダラ先輩の部屋に入ろうとしたら聞こえてきた嗚咽に僕は自然と溜め息をついた。あぁ、また泣いてる。もう何回目だろう。ここ最近、デイダラ先輩はサソリさんのことを思い出してはこうして一人で静かに泣いている。最愛の人がこの世からいなくなれば悲しむのが当たり前だろう。だがそのサソリさんが亡くなったのは今日でちょうど1年前。最初の1、2ヶ月は仕方ないかと思っていたけどこれがずっと続くとこちらとしてもどう対応していいか分からなくなる。ずっと泣いてるデイダラ先輩を慰めるのか、それともデイダラ先輩自身がサソリさんのことを忘れるかしないと彼はまた明日もこうして声も出さずに泣きつづけるだろう。僕にはデイダラ先輩を楽にさせてあげられるような術を持ってはいなかった。












旦那…あんたがこの世からいなくなってから今日で一年が経つんだぜ。早いもんだよなぁ、うん。
ずーっと「“永久の美”こそが芸術だ」とか「オレは死なない。なんせオレ自身が永久の美だからな」とかオイラにとっちゃ理解不能なことばっかり言ってたあんたがオイラよりも先に死ぬなんてこれ以上におもしろい話、どこ探したって見つかんないよ。まったく、あんたも人を驚かせるのが得意な奴だな。だってあの旦那だぜ?“赤砂のサソリ”と謳われた天才傀儡師の旦那が。ったく…残されたオイラの身にもなってほしいよ。
でもさぁ…もうオイラこれからどうしたらいいか分かんなくなってきちゃったんだ。そりゃあ正直言って旦那のことは今でも好きだ。好きだけど…さ。旦那は、いつもこうして旦那のことを思っては泣いて、思っては泣いてを繰り返しているオイラを見てどう思うかな?呆れるよな。一人の忍がこんなことでぴいぴい泣くんじゃねぇって。だけど、オイラは一人の忍でもあって一人の人間でもあるんだ。感情を捨てたっていう旦那とは違って泣きたい時だってあるんだ。旦那とは違って生身の体だから胸が痛くなることもあるんだ。旦那も…もう一度生身になってみな。そしたらオイラの気持ち分かるから。
そうだなぁ…。旦那ぁ、オイラどうすれば楽になれるかな?なぁ、なんか教えてくれよ。旦那。












再びデイダラ先輩の部屋に訪れたのは深夜だった。昼間みたいに中から嗚咽は聞こえなかった。少し安心して扉をノックし、「失礼します」と普段部屋に入るときには言わない台詞を言い静かに扉を開ける。足を踏み入れるとベッドの上で膝を抱えて縮こまっているデイダラ先輩がいた。僕が入ってきても微動だにせず、ただ静かにそこに佇んでいた。頭からシーツを被り起きているのか寝ているのか分からなかった。僕は窓際に立ち、暗闇に浮かぶ怪しいほど青白く輝く月を見上げた。

「……トビ」

あまりにも弱々しいその声に僕は一瞬驚いたが呼ばれたことに変わりはないので視線はそのままで僕も返事をする。

「はい」
「…」
「先輩?」

声をかけても返事がなかった。だけど次の瞬間、僕は己の耳を疑うような言葉を聞いた。

「トビ……オイラの中を…オイラの中をトビで、いっぱいにしてくれ…」

僕は目を見開いた。途端に喉が渇き、冷や汗が背中を伝い、掠れた声でそう言うデイダラ先輩に僕はどうしたらいいか分からなくなった。その時、今までまったく動かなかった先輩がもぞもぞと動き出し、僕のもとまで寄ってきたかと思えば後ろから抱き着いてきた。

「ちょ、先輩…」
「…もうこんな思いするのは嫌なんだ…トビ…」

か細い声で僕を求め、ぎゅっとしがみついてくるデイダラ先輩の腕を掴み、ベッドに押し倒す。不安と恐れと、少しばかりの期待が入り混じる瞳を向けられれば胸が高鳴るのを感じた。

「まったく、あなたって人は…」

―人の気を知らずに―

仮面をずらして口づけるとデイダラ先輩の目から一筋の涙が零れた。





「んっ…ぁ、は…」

幾度か射精したにも関わらず未だに熱を持ち続ける自身を扱いてやれば目を固く瞑り気持ち良さそうな声を出す先輩。だが、ふと僕に声を聞かれるのが嫌なのか左手の甲を口に当てた。

「先輩、そんなことしても無駄ですよ」

僕は手の動きを早め射精をしやすい状況に誘い込んだ。

「あっ…ゃ、も、出るっ…!」

その言葉を聞き、僕はぱっと手を離した。イく一歩手前で手を離されたのがよっぽど辛かったのか、はぁはぁと息を切らしこちらを見上げるデイダラ先輩の表情はとても艶めかしく色気があった。そうやってサソリさんにもその顔を見せていたんでしょうか?なるほど、その顔、すごく興奮します。
デイダラ先輩の後孔に熱く腫れ上がった僕のを宛がい、少しずつ奥へと埋めていく。奥に行けば行くほど自身を締め付けられ、根元まで入れ終えた時には噛みちぎられそうなくらいの締め付けが僕を待っていた。

「っ先輩…きつすぎっスよ。そんなに僕のを離したくないんですか?」
「はっ…ちが…」
「そんな顔で言われても説得力ありませんよ」

そう言って僕はデイダラ先輩の脚を広げ、腰をゆっくり動かし始めた。

「ん…あぁ…っ」

動く度に結合部から聞こえる濡れた音が聴覚を犯していった。両腕を伸ばしたデイダラ先輩の心裏を読み取り前屈みになると首元に腕を回してきた。

「あっ、あ…んぁ…!」
「先輩…もっと声出していいんですよ?…っ、今は、二人きりなんですから…」
「ひっ…んぁ、あ、あ、あっ…ト、ビ…!」

だんだん余裕のなくなってきた僕は腰の動きを更に早め奥につくくらい激しく揺さ振ってやった。少しずつ先輩の中がきつくなっていく中で僕ははっとあることに気付いた。デイダラ先輩は本当はこんなことしたらもっと悲しくなるの知ってて僕にあんなことを言ってきたんだろうか、ということを。そうだとしたら先輩、あなたは相当頭が悪い人ですよ。
だって…デイダラ先輩の中を満たしてくれるのは僕じゃなくてサソリさんなんじゃないんですか?


こっちを向いてはくれないくせに
(自分の都合のいいように抱いてくれ、なんて)
(そんなのずるいですよ、先輩)


そんなことを心の中で呟くくせに先輩の中に己の欲を吐き出す僕を、サソリさんはどう思っているのだろうか。


fin