オイラたちは浴室から上がると、ろくに髪も乾かさずに半裸のままそそくさと旦那の部屋へ直行した。
互いに長期任務明けで消耗していたが、そんなことはどうでもいい。既に頭の中はこれから行う激しいスポーツのことでいっぱいになっていた。
何しろ任務の間は他のメンバーも一緒だったため、ずっと我慢していたのである。パートナーがすぐ傍にいるにも関わらず夜中に一人でなんて。いい加減限界だった。
それは若者のオイラだけでなく旦那の方も同じだったらしい。アジトに着くなり即行「今晩ヤろうぜ」と書かれたメモを渡された。
この状況を誰かに見られてやしないか、そんなことを考える余裕はほとんど残っていない。
旦那の部屋に一歩足を踏み入れた途端、まだドアも閉めないうちから激しく口付けられ、息がつまりそうになった。

「…っ!?……ふぅ、んんっ!」

オイラは慌てて後ろ手でドアを閉めて鍵を回し、あっぷあっぷしながらも性急な旦那のキスに応じた。意外に華奢な旦那の背中をかき抱き、入ってくる熱い舌を許容してねっとりと舐め上げる。
湯上りの火照った体が一層熱を増し、頭が冒されたようにぼうっとしてくる。
唇を離すと、どちらのものともつかぬ唾液が糸を引いて生温い感触がたらりと顎を伝う。
はあはあとはしたなく息を荒げながら目線を上げれば、旦那のしっとりと濡れた目が無言でオイラを見つめ返す。形のいい赤い唇はオレンジのルームライトを浴びててらてらと光っており、悔しいかな、その存在自体が何かの芸術のように見えて激しくオイラの胸をくすぐる。
胸の奥がカッと熱くなって、苦しくて。

「ん、だんな……っふ、ぁ」

込み上げる欲の衝動に突き動かされるままに、再び濃厚なキスを交わした。
貪るように腰や首筋を愛撫し、むき出しの太腿を絡める。密着した肌に旦那の火照りを感じて身体の芯がぞくりと疼いた。
オイラたちはその場に座り込み、互いのものを扱き合った。旦那はオイラのを、オイラは旦那のを手で包み込んで奉仕する。
先端から滲み出した透明な先走りがぽたぽたと垂れて床を汚していく。そのまま頂点への道を一直線に駆け上った。
羞恥心を煽る厭らしい水音は大きさを増し、旦那はうっと短く息を詰めてオイラより先にイった。放心して余裕のなくなった一瞬、オイラのものを握り込んでいた手の力がふっと緩む。
オイラは脱力感でぽーっとした様子の旦那の腰に腕を回し、臀部の上を股間に向かってするりと滑らせた。白濁液に濡れた指で敏感な部分を狙い、じゅぽっと小気味のいい音を立て潜り込ませる。
旦那はそこで小動物のようにビクリと肩を跳ねさせた。

「…っ、にしてやがるてめえ」
「いいじゃんいいじゃん。気持ちいいだろ?」

オイラが一人うんうんと頷きながら重ねて旦那の尻を撫でると、旦那はぎゃっと間抜けな声を上げてオイラを突き放した。

「そー…いう問題じゃ、ねえ!先週は俺が下やってやったんだから自重しろよ!」
「んなこと言って、旦那、顔赤くなってるぅ〜」
「あァ?赤いのはてめえも一緒だろうが…このタコ!童貞!」
「は!?何だそれ!」

童貞。これにはオイラもちょっとカチンと来て、キッと旦那を睨んだ。
しかし旦那はオイラよりも数段怒り狂った様子で憤然とまくし立ててきた。

「大体てめーに上取らせるとしつけーんだよ!中が洪水みてえになんだよ!お前絶対俺に恨みあんだろ!中でションベンこいてるだろ!!」
「精液だ、精液!若いんだから仕方ねーだろ!そういうアンタこそすぐイきすぎなんだっつーの!慣らしてねーうちから突っ込んでくるわ、こっちがイってねえそばからへたってるわ、マジありえねーし!ははっとんだ早漏だな!!」

よし言ってやったとばかりにオイラは内心ガッツポーズである。
しかし旦那も負けておらず、しれっとした顔でもっともらしく吐き捨てる。

「俺が早漏なんじゃねえ、てめーが遅漏なだけだ」
「なッ…そうかいそうかい。あーあ、旦那は可哀想だな、うん。老化も自覚してないなんてな!」
「は?俺とヤるまで童貞してたお前に言われたくねえんだが?つか分かってんのか?俺様の慈悲がなかったらお前今頃まだ童貞だぜ。ああ、そりゃそーだ、お前みたいな女顔のピーピーうるせえ奴、拾い手なんているわけねえ」
「こっちは好きで女顔になったんじゃねえ!この包茎野郎が!」

オイラはいよいよブチ切れ、叫びながら力任せに旦那の股間を蹴りつけた。
奴はうっとくぐもった苦しげな声を上げてその場に蹲ったかと思えば、いきなりガバッと起き上がって掴みかかってきた。

「包茎?包茎って誰に向かって言ってんだアア!?」

オイラは旦那の殺気立った目をギロリと睨み返す。

「だってそうだろ!つかオイラだってアンタみたいな根暗の陰湿野郎なんかお断りだぜ。そうそう、オッサンらしくお水にでも通ってちやほやされとけ!インポしゃぶられとけ!」
「何だと調子乗ってんじゃねえぞこのクソガキが!!もうムカついた!オッサンめっさムカついた!!」
「ああ゙!?何だやるってんのか!?くたばっても知らねーぞ!」
「んなわけあるか糞ガキャアアアッ!!」
「かあああーーーッつ!!」





なんとなくその場の勢いに任せて決闘を初めてはみたものの、結局三十分経っても戦争終結の兆しは見えなかった。
大体のところ元々任務疲れでほとんどチャクラが残っていないのだからどうしようもない。今のオイラたち、絶対アカデミー生よりしょぼい。
はなっから貧相だった術の応酬はチャクラの減りに従って、殴り合い、物の投げあいといった粗暴なものになり、部屋の中は俄かに原始的な戦場と化した。
窓は割れ、襖に穴が空き、足元には医療器具や傀儡用の角材などがあっちこっち滅茶苦茶に散らばって目も当てられない有様である。
パラリと瓦礫を払って立ち上がった旦那は血のついた口元を拭い、怒りと疲労で血走った目をオイラに向けた。
髪はぼさぼさ、身体はいたるところ痣だらけだ。オイラも似たり寄ったりな状況だから人のことは言えないのだが。

「くそっ……てめえ、なかなか…やりやがる…!」
「ふん、旦那こそ…、チャクラもねえくせに、ねちねちと粘っちゃってよ……」
「…もうこうなったらアレしかない、アレで決めるぞデイダラ」
「アレ…?」
「アレっつったらアレしかないだろ。行くぞ!?」

旦那は意味深な視線を寄越しながらスッと片手を上げた。ああ、なるほどアレか。理解したオイラは旦那の声に従って拳を突き出す。

「最初は…」





「ぐー!じゃんけんぽん!あいこでしょ!しょ!しょ!しょ!」
「くそっ!なんであいこばっかなんだよ畜生おおお!!ほら仕切りなおすぞ。――あいこでしょ!しょ!しょ!」
「それ旦那がズルしてるんじゃねーのか!うん!」
「馬鹿も休み休み言え!何が嬉しくてお前と同じもんばっか出さなきゃなんねーんだ!?」
「だってほら、あいこでしょ!しょ!」
「しょ、しょ、しょ!殺されてーようだな!?」
「しょ!しょ!知るかよ、だって旦那がオイラの真似を…」

「――もういい加減にしろお前らああああ!!今何時だと思ってんだ!!」
「ひィッ!!?」

バーン、と爆音に近い音がした。
オイラたちは地上から軽く三十センチほど飛び上がり、怒声のした方を振り返る。ドアが綺麗さっぱり吹っ飛んでいた。
恐々としながら視線をゆっくりと上へスライドさせていくと、壊れた戸口の向こう側にナイトキャップとぼさぼさの髪の下から氷のように冷たい目を覗かせたリーダーが立っていた。
いやそれだけではない。
角都、イタチ、鬼鮫、ゼツ。組織の大半のメンバーがずらりと勢ぞろいしてまるで汚いものでも見るような目をこちらにむけていた。しかも極限に苛々した様子で。







「うん…まあ確かに悪かったよなオイラたち。夜中に騒いだのは悪かった、それは分かる。けど何だよコレ。何がどうなってこうなってんの?」

オイラは一見カレンダーのようにも見える薄っぺらい紙切れをひらひらさせながらパートナーに答えを求めた。
一拍置いて返ってきたのは実に重苦しいため息である。

「どうやら役割分担を決められてしまったらしいな。争わずに済むように」

そう、そういうことなのだ。上か下かで喧嘩するくらいなら俺らが決めてやろうとリーダーを初めとするいらち共がその場で勤務表に割り振りを書き込んだのである。

「意味わかんねえ。どこに部下のタチネコを決める上司がいるよ?…うん」
「しかもデイ、デイ、サソ、デイ、サソ、デイって…微妙にお前タチ多いな。よかったじゃねえか」
「は?ちょ、泣くんじゃねえよ旦那。しゃーねえな、もう…分かったよ。ほら、こっちおいで」

ベッドの上で寛ぎながらちょいちょいと手招きすると、旦那はどんより曇った顔をこてんと傾げた。

「何?」
「今日は特別に上取らせてやるよ、うん」
「えっ、けどお前さっきあれほど…」
「今日は旦那の部屋いっぱい壊しちまったしな!」
「――そうでしたね!」

旦那はオイラを見てにこやかに笑ったかと思えば、次の瞬間一転して獲物を駆る猫の勢いで飛び掛ってきた。
やっぱり乱暴だ。へとへとになった傷だらけの身体に旦那の愛撫は痛いほど沁みる。
けど、少し嬉しかったのは旦那がいつもと違ってイクのを必死に我慢していたことだ。ぷるぷる肩を震わせる旦那が可愛くて、つい余分に中を締め付けてしまった。





20110714