飛段とデイダラ初対面ネタ




「お前が飛段か」


ぼーっと赤色に染まった空を見つめながら、いつものよう儀式をしていた夕暮れ時、突然黒い装束に身を包んだ覆面男に声をかけられた。正直ここ最近人と会話なんてまともにしてなかったから、自分の名前を久しぶりに呼ばれた気がする。この頃の俺は神に祈りを捧げてばかりで、ジャシン様の声だけを頼りに生きていた。


「あん?そーだけど?ってか、なんで俺の名前知ってんだよ」


腹に刺さったままの先の尖った棒を引き抜き、俺はだるそうにそう言った。しかし男からの返事はない。んだよ、無視かよ。なんなんだよコイツ。


「一緒に来てもらう」

「…はぁ?」


いきなり現れたと思ったら一緒に来てもらう?ホント、ふざけてんじゃねーのコイツ。つーか俺の質問には答えないくせに、自分勝手すぎるだろ。


「意味わかんねーし。誰が見ず知らずの奴なんかの言うこと利くかっての。馬鹿でもついて行かねーから」

「なら力ずくで連れて行くまでだ」

「上等じゃねーかよコラ。言っとくけど俺、けっこう強いから」


ふざけるなと思った。勝負には一度として負けたことがなかったし、ジャシン教の教えは半殺しはいけねえから、俺に声を掛けたことを後悔させるほどぶっ殺してやろうと思った。それに何より勝つ自信があった。だって俺、死なねーし。だから俺は突発的に自分から勝負を仕掛けた。しかしどうしたことか、俺の自信は鎌を一振りしたところで亀裂が生じる。男はそれを素手、しかも片手で受け止めたのだ。なんだこれ、硬くて刃が入らねえ。…殺りがいがあるじゃん。そう思っている反面俺は正直心の中で焦り始めていた。
次に目が醒めたときには、首を跳ばされ体を二つに分離されてしまっていた。有り得ない激痛に怒りを露わにすると「うるさい」とたった四文字で片づけられてしまう。そして男は手荒く地面に転がった首を鷲掴み、だらんと手足が投げ出された体を背負うと歩き出した。




そっから意味わかんねーままここが何処かもわかんねー場所に連れてこられて、その中でも一段と広い部屋に入ったところでやっと首を繋いでもらえる。痛ェと喚いてみたが、やはり返事は我慢しろだとか黙れだとか。そこで目の前に何者かが立っていることに気付く。覆面男が言うにはここのリーダーらしい。そのリーダーとやらに俺への説明を押し付けると男はこの場から出て行ってしまった。その後すんごい簡単に説明されたけど、ここは暁というS級犯罪者ばかりが集まる組織のアジトだということ。俺にはその暁に入ってもらうということ。その段階で黙ってなんかいられず俺は断固拒否した。


「それなら宗教活動を主に、暁の活動は二の次でいい」


条件は、ただ呼びかけがあるときは必ず集まるということだけ。聞けば、暁の活動は簡単に言えば主に邪魔者の始末(簡単に言えば殺戮。まあ、そんなところ)と尾獣狩り。そこに俺は耳を傾ける。


「…よくわかんねーけどよぉ、人殺し大歓迎の組織なわけ?」

「それなりの強さがあれば、な」

「へー…」


どうせ行く先なんてないし。それなりに自分のモットーが守れるなら、やってみてもいいかもしれない。自分の殺したいときに人を殺しても里の奴らのように咎められず、むしろもっとやってくれと言われるなんて、これ以上の居場所はあるだろうか。


「本業は宗教家、副業は暁。それでもいいならやってやってもいーけど?」






リーダーとの話を終え「三」と彫られた指輪と装束を手渡される。指輪は左手の人差し指にはめるように言われた。そういえばこの装束、今目の前の男も身に纏っていれば、あの覆面男も纏っていたような。その覆面男が俺の相方らしい。それからその部屋を出て長く幅の広い廊下に案内される。そこには幾つもの扉があり、その中でも指輪と同じ文字が書かれた「三」の部屋に連れて来られた。向かい側の部屋には「青」と書かれたプレートが掛けられている。どれもこれも漢字一文字だ。


「ここがお前の部屋だ。寝具やら生活に必要なものは並揃っている」

「ふぅん。つーかさー、この部屋メチャクチャ散らかってるんだけど、前に誰か住んでたとか?」

「あぁ、それは……いや、また別の機会のときに話す。取り敢えず一通りは言った。他に何か質問はないか?」

「あーないない。俺ちょっと疲れたから横になるわー」


半ば話を投げ出して俺は部屋に入り扉を閉めた。それから辺りを見渡して、奥にあるベッドに寝そべる。案外ここいい部屋じゃん。暁来てよかったかもなー、なんて考えながらぼーっと天井を眺める。そのまま瞼をゆっくりと閉じた。そのとき、いきなり扉が開く音がした。思わず閉じた目を見開く。


「それと、他のメンバーにも一応顔くらい合わせておけ」

「だーッ!わかったっての!」


リーダーはそれだけ言うと扉を閉めて行った。足音が遠ざかり、気配が離れていく。それを確認してから、俺はごろんと寝返りを打った。ああ言ったけど、これっぽっちも顔を合わせる気なんかない。どうせこんな犯罪者ばかりが集まる組織だ、きっと根暗で奇妙な奴らばかりで、まともな奴なんかいないだろう。(俺も今日からその中の一人だけど)


「……ハァ、」


なんか寝る気にもならない。目が覚めちまった。俺は体を起こして部屋から出ようとする。ふと、地面に放り投げられた指輪と装束に目が止まった。そういえば、着替えとけって言われたっけ。俺は嫌々服の上から装束に腕を通す。…暑。鏡で一通り確認してからドアノブに手をかける。おっと、指輪もはめるんだった。





さっき通った廊下に出て、もっぱら他の野郎の部屋なんか開ける気にもなれなくて取り敢えず奥に進んでみる。そのまま辺りを見渡しながら歩き続けていると、少し大きめの扉に差し掛かった。そこを興味本位で明けてみれば、どこか見覚えがある。どうやらさっきリーダーから説明を受けた部屋のようだ。プレートが貼ってないところからして、ここが休憩所みたいなところだろう。


「…!」


部屋全体に目をやれば、壁際のソファーで誰かが横になり仰向けになっている。俺は思わず忍び足で近付く。そこにいたのは、俺と同じ装束に身を纏った、金色の髪を一掴み分結った髪の長い女。そいつは目を瞑ったまま全く俺に気付かない。どうやら寝ているらしい。


(こいつも暁なのか…?)


そう思うと気になってじろじろと見てしまう。ふと投げ出された右手の人差し指に視線を向けたとき「青」と彫られた指輪をはめていることに気付く。確か、あの廊下で扉のプレートに同じ文字を見た。ということは、向かい側の部屋の住人はこいつか。
こんな俺より遙かにちっこい奴がこの組織のメンバーなのか。顔をまじまじと見つめる。…うわ、睫毛なが。よく見てみると顔立ちも整っていて小さく寝息を立てる姿が可愛らしい。とても犯罪者のようには見えないと思ったそのとき、突然女の瞼がパチリと開く。数秒、目が合ったまま固まる。


「うわぁっ!?」

「うぉ!?…って、は!?」


目の色青くてキレーだなあとか思ってたら、突然女がビックリして声を上げて、思わず俺まで驚いてしまった。しかし、俺はそれ以上に想像していた声よりもその声が低いことに驚く。
そう、まるで、


「お、男ッ!?」

「あたりめーだろーがッ!テメーどっから入りやがった!?」


俺は予想外の事実に頭がついて行けずその場で固まる。するとそいつは片足をグッと胸元まで引くと、いきなり俺の腹に蹴りを入れた。「ぐっ!」と声が漏れたところで、俺は蹴られたことに気付く。こいつ…、ちっこいくせにメチャクチャ痛え!


「ちょ、待てって!俺もここのメンバーなんだって!」

「あ?」


そいつは俺の言葉に振り上げた足を止め、じっと俺を見る。俺の恰好を見てやっと気付いたのか「…あぁ」と少し間を入れてから言った。


「新入り?」

「ったく、そうだっての!なんで無理やり連れてこられたってのに蹴り入れられなきゃなんねーんだよッ!」

「どうりで見たことない顔なワケだ、うん」


「ま、オイラも無理やり連れてこられたし。蹴ったりして悪かったな」と言うと、そいつは一度立ち上がりソファーに深く腰掛けた。首を跳ばされたことに比べたら、全く気にする内に入らない。


「別にいいけどよー…」

「……」

「あ、そういや、名前なんつーの?」

「人に名前を聞くときは最初に自分から名乗るもんだ。うん」

「るっせーなぁ、…飛段」

「そっか、飛段か」

「ハァ!?言ったんだからそっちも言えっての!」


そいつは小さく肩を揺らして笑うと「デイダラ」と言った。見たところデイダラは俺より年下だと思う。その小さい身体で俺に蹴りをかましてくる度胸は、やっぱりこの組織にいるだけある犯罪者の本能というか、血の気が多いというか。


「へぇー、ちっこくて女顔のデイダラちゃん、ね?」

「こ、これから伸びんだよ」

「ふぅ〜ん?」

「つか、チャン付けやめろ!!」

「ははっ、顔真っ赤にして怒っちゃってかわい〜」

「てんめー…!」


デイダラちゃんは俺の言葉に、ソファーに腰掛けていた体を起こす。「なんだぁ?やる気か?」と言ったそのとき、突然ギュッと手を握られた。頭の上にはてなマークが浮かんだ次の瞬間、手になんとも言えない感触がする。


「ぎゃぁああッ!?」

「へっ、驚嘆したか?」


にゅるん、といった気色悪い感じに、驚嘆というよりも絶叫した。離せとばかりに腕をブンブン振ってみるが、握られた手は俺の指と指とをがっちり絡めて離さない。その間にも重ねた手と手の隙間でうごめく何かが気持ち悪いったらありゃしねえ。無理やりその手を引き剥がして掌を見てみれば、透明の液体がべちょべちょになるまで付いている。


「な、な、ッ…!?」


見れば、奴の掌には人間の口みたいなものが付いている。デイダラちゃんは掌をひらひらと顔の横で動かして、満足げな笑みを浮かべて首を傾げた。
ああ、きっとこいつも。その可愛らしい仕草に似合わない気味の悪い掌を見て、俺はデイダラちゃんも自分と同じ根暗で奇妙な奴なんだと思った。


「んだよソレっ…!?」

「んー?オイラの芸術」

「ゲイジュツ、?」

「仕方ねぇなあ、見せてやるよ」


デイダラちゃんは素早く装束の下のポーチにその手を突っ込み、10秒くらいしてからまた手を出す。掌の口は固く閉ざされている。俺は何が何だかさっぱりわからずそこを覗く。すると、その口から鳥の玩具みたいのが飛び出した。驚く暇もなく目で追えば、部屋の天井辺りを飛び回っている。


「おお!すげーっ!」

「…!な!? すげーだろ!?」


さっきまで生意気な笑みを浮かべていた表情が嘘のように、デイダラちゃんは目をキラキラさせて俺に問い掛けてくる。「生きてるみてー」と言うと、まるで無邪気に笑う子供のような笑顔を見せた。あ、今のかわいい。こいつこんな顔もできるんだ。


「飛段さ、誰の相方?」

「なんかー…こう、マスク付けてる」

「!!」


デイダラちゃんはデッカい目を更に大きく見開くと「そっか、お前イイ奴だったのにな。イタチみたいな無口な奴ばっかだったから嬉しかったのにな」と一人で頷いている。はあ?よくわかんねーんだけど。


「前の奴は一週間もしない内に…」

「?どーいう意味だ?」

「とにかく…角都の気に触るようなことはすんなよ。うん」

「はあ?」


何が、と言いかけたそのとき、部屋の扉が開いて赤毛のちっこいガキが入ってきた。俺はその顔つきを見て驚く。身長が差ほどデイダラちゃんと変わらないからわからないけど…デイダラちゃんよりも幼い気がする。あんな若い奴までいるのか。


「あ、旦那!」


デイダラちゃんはその姿を見ると俺の横をするりと通り抜けて、そいつの元に行っちまった。「任務に行く支度をしろ」と言われると、デイダラちゃんは部屋を後にする。なんだあ?あのガキ、偉そうだな。


「またな、飛段!」

「…!」


デイダラちゃんはそれだけ言うと走って部屋から出て行ってしまった。ホント、すばしっこいなあなんて思いながら俺は遅くも手を振り返すと、赤毛がズンズンと俺に向かって来る。そして俺の目の前で立ち止まった。俺のこと見上げてるくせして、その目つきは生意気だ。


「あん?なんだよ?」

「ちょっかい出してんじゃねぇ、ガキが」


ハァ?


予想だにしていなかった発言に、思わず口がポカンと開いてしまう。そいつはそれだけ言うと、方向転換してスタスタと部屋を後にした。つーか、どっちがガキだよ。明らかに俺、あんたより年上なんですけど?


「……」


なんとなくだけど、デイダラちゃんはあの生意気なガキのこと気に入ってんのかも。あの赤毛は赤毛でデイダラちゃんのこと気に入ってそうだし。
ちょっかい出してんじゃねぇ、…ね。


「…どうすっかなあ」


だって、俺も俺でデイダラちゃんが見せる笑顔が好きなワケで。今度会ったとき、どうやってからかってやろーかなあ。











甘い罠に落ちたお馬鹿さん



残念ながら
もう惚れちゃってるみたいです

(あの笑顔は反則だろ!)