※ネタバレ 奴隷の二人
いろいろ可哀想、内容が酷いです







「目が覚めた?」


聞き覚えのある声が聞こえて、突然視界に光が差し込む。真っ暗だった目の前がいきなり真っ白になったことで、俺は思わず手で目を覆う。


「うっ…」

「久しぶり、サソリ」


なんだ、そう思ってだんだん慣れてきた目を少しずつ開けば、目の前にはカブトがいた。ここは、どこだ。辺りを見渡してみると自分の知らない場所だ。何故自分はこんな所にいるんだ。事情が飲み込めない俺を見て、カブトが俺に再度声を掛けた。


「大丈夫?驚いてるみたいだけど」

「…あぁ?誰に口利いてんだ。お前は俺の部下だろーが」

「悪いけど、僕は大蛇丸様側に就いたんだ」

「んだと…」

「まぁまぁ、そんなことより」




なんで君は生きてるのかな?




「──は?」


そう言われてみれば、なんで物事を考えることができるんだ?先ほどのこいつの態度についても。今も。自分は小娘と祖母と戦闘に入って核を一突きにされたんじゃないか。そこからの記憶が全くない。強いて言うなら、視力も聴力も筋力も重力さえ存在しない暗闇…無しかないところにいた気がする。何も言えない俺を見て、カブトは笑みを浮かべながらそれはね、と続けた。


「僕が君を造ったからだよ」

「つ、くっただと…」


そんな、はず。
前に死者を甦らせる術があることを、何度か書物で読んだことがある。永久に生き続ける術を学び探したための、その中の参考の一つの説話だ。しかしその術は世界でも極僅かな忍にしかできない。それもかなりの腕の忍でなければ。そんな高度な術を意図も簡単に扱えることが、カブトにそんなことができる訳が、


「──お前」

「ん?…あぁ、コレね」


ふとカブトの腕に目をやれば、その肌は色白で爬虫類の鱗のようなものがある。さっきは視界がぼやけていて気付かなかったが、よく見てみれば顔もどことなく誰かの面影がある。それはまるで、昔の相方のようだ。


「大蛇丸様の身体の一部を移植したんだよ。そのおかげで僕は強大な力を手に入れた」

「俺を裏切って…そのうえ大蛇丸まで裏切ったのか」

「まさか、勘違いしないでほしいな。亡くなった後で移植したのさ。第一、僕の力では到底あの人には適わない」

「……」


その力を使って俺を蘇らせたようだが何かの戦力の足しにされるのだろう。この術を使ったということで大体は読めていた。まさかこんな奴に利用されることになるとは。俺は睨みを利かせてカブトを見る。


「そうそう、君には部下だったとき相当こき使われたからね。今までの鬱憤を晴らさせてもらおうと思って」

「なんだと…」


なんだか、嫌な予感がする。当のカブトは不気味に微笑んで後ろを振り返り「おいで」と手招きをする。その人物はカブトに呼ばれて姿を現した。


「デイダラ…!」


そこには姿や形までもが全く同じの、デイダラがいた。物陰に隠れていて気付かなかったが、その姿を見間違えるはずがない。背丈も体格も、忘れるはずがない。デイダラ本人だ。しかし、様子がおかしい。自分は思わず声を上げてしまったというのに、デイダラは俺を見て何の反応もしない。それどころか、カブトに呼ばれて何一つ文句も言わずに命令に対応したのだ。


「デイダラ!!聞こえねぇのかッ」

「……」


俺の呼び掛けにデイダラの返事はない。一体どうしたんだと思ったそのときカブトがククッ、と不気味に笑った。


「無駄さ。僕の声にしか反応しない」

「テメー…デイダラに何をした」

「別に何もしてないよ。ただ、ちょっとばかり札を埋め込んだけどね」

「!?」


カブトはそう言って、傍に来たデイダラの肩を掴んでグッと引き寄せる。されるがままのデイダラの瞳は光を写していない。まるで本物の人形のようでその瞳は硝子細工のようだ。俺は耐えられずにカブトに駆け寄りデイダラを奪おうとした、のだが、一体どうした訳か動かそうとしても足が動かない。


「動かないだろう?」

「くそッ…」

「君の頭にも札が埋め込まれている。穢土転生された人間は術者の意志と命令には忠実に従う。印を結べば彼のように黙らせることもできる。僕は指一本触れずに言いなりにできるんだ。もちろん君も、ね…」


「試してあげるよ」とカブトは言って抱き寄せたデイダラの身体を放した。一体何をするのかと思えば、デイダラが俺に歩み寄る。そして俺の頬にそっと片手を添えた。よく見てみれば、デイダラの顔が組織で組んでいたときと変わらないままで、違うのはその瞳の暗さくらいだ。ズキ、とその事実が強く胸を締め付けた。


「久しぶりの生身なんだ。キスくらいしてあげなよ」

「!? ん、っ」


驚く暇もないまま、デイダラに唇を塞がれる。デイダラを引き離そうとしても、全身が固まって動かない。体温は感じられなかった。でも傀儡の身体だったときにしたそれとは違い、デイダラの唇は思っていた以上に柔らかかった。初めてデイダラを感じることが、こんな形で知ることになるなんて。
それが、酷く悲しかった。


「どうだい?元部下に言いなりにされる気分は」

「っ…!!」


くそ、身体の自由が利けばこんな奴。
デイダラがそっと唇を離す。そのとき思わず名残惜しく思ってしまった自分に嫌気がした。


「せっかくだ。生身の身体を体感させてあげようか」

「なっ、」


デイダラが床に膝を衝き、ゆっくりと俺のズボンのファスナーを下ろした。止めることも忘れて呆気にとられていると、デイダラは俺の性器を取り出す。そしてそろそろと口を近付けて、それに舌を這わした。


「ん、ム…っ」

「デ、ダラ…やめろっ…」


デイダラは小さく声を漏らすと、その柔らかな舌で先端を舐めて、次には裏筋を厭らしく舐め上げる。外見だけじゃなく、声までも以前と変わらないのか。情けないことにこんな状況にも関わらず、それは俺の意志とは裏腹に主張していた。惨めだ、そう思っているのにデイダラの舌技の上手さに吐息が漏れてしまうのが現状だ。


「は、っ…」


こいつは、こんな屈辱的な行為を自分から進んでするような奴じゃない。今俺の目の前にいるのはデイダラじゃないんだ。デイダラはもっと無邪気で、そんな人形みたいな綺麗な顔じゃなくて、顔を赤らめながらも自分を好きだと、言ってくれて…






『……』


お互い無言で交わされる、その接吻。しかしそれは唇を押しつけるだけで、決して舌と舌とを絡めることはなかった。しばらくして俺から唇を離すと、デイダラも前を向いて肩を寄せて隣り合う形になる。それから静けさが広がる部屋に、ポツリと小さく声が響く。
珍しく、口を開いたのは俺だった。


『…お前はさ』

『ん?』

『その…、したくねーのか…』


しばしの沈黙。するとデイダラは目を丸くさせて『はぁ?』と言った。居た堪れなくなった俺は顔を背ける。そんな俺の様子を面白く思ったのか、はたまたからかいたいのかデイダラはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。調子乗りやがって、早く言えってのクソガキが。


『はは、そうだなぁ〜』

『…』

『んー…オイラ別に、旦那とエッチできなくてもこうやっていられるだけでいいや』

『!』


『ま、オイラが上なら別だけどね』と言うデイダラは笑っている。正直、その笑顔に少なからず救われた。本当はデイダラが俺から離れていかないかとずっと不安だった。デイダラは俺とは違って生身で19と若い年頃なのだし、人生で今が盛りだろう。本音は他の奴に寝取られないかと心配で心配で堪らない。それでもデイダラは、俺を選んでくれた。そのうえ傍にいられるだけでいいと、なんて可愛いことを言うんだろうか。


『…ばーか』


そう言ってデイダラの頭を手荒く撫でてやる。髪が乱れて嫌がるデイダラなどお構い無しに、俺はくしゃくしゃと頭を撫で続けた。俺が一番欲しかった言葉を、どうしてこうも簡単に当てられるのだろうか。きっと、俺はそれが何よりも嬉しかった。






目の前にいるデイダラはあの頃のデイダラじゃない。中身が空っぽの偽物だ。それなのに、俺は偽物の恋人に欲情している。その細くて煌びやかに光る金髪も、大きくて形のいい瞳も、俺の好きな心地いい音程の声さえもが全くデイダラと変わらないけど、これは俺の知っているデイダラじゃないのに。


「…っ…デイダラ…」


胸の奥が痛くなって、俺はその名前を呼ぶ。まるでそれがデイダラなのかを確認するかのように。しかし思った通りデイダラは何も反応しなかった。一点を集中して刺激を与えてきて、俺の性器をくわえ込む。無機質の身体だったときには感じられなかった、生身特有の柔らかさと卑猥な水音が脳内を犯した。出る、そう思った瞬間にデイダラは俺の自身から口を離したため、綺麗な顔に俺の欲望を吐き出してしまった。


「あ……、」

「ん、ぅ…っ」


デイダラは嫌な顔一つせず、恍惚とした表情で俺を見ると、口元に垂れてきた俺の精液をぺろ、と舌で舐め取る。そして手でも顔の汚れを落として、それを口元に含んだ。その今まで見たことのない淫らな表情にゾクッと興奮を覚えた。本当に人が変わってしまったようだ。そう、まるでただの操り人形のようで。


「これでわかった?君たちは僕に服従するしか道はないんだよ」

「……」

「あれ、何だよその目は?」

「俺はともかく…デイダラにこんなこともうやめさせろ。こいつは永遠に朽ちない身体なんて望んじゃいない。こんな縛られてまで…こいつは、」


生きたがってなんか、




「…死体の分際で何言ってるんだか」

「!」

「君らの意志なんて関係ないんだから無いも同然、強いて言うなら忠誠くらいだ。僕に服従することだけが君たちの存在意義。まだわからないの?」


俺が言葉に詰まると、カブトは「本番はこれからだよ」と言って、デイダラに服を脱ぐように指示をする。言われるがままデイダラはその装束にゆっくり手をかけた。
そして俺が冷たい身体だったとき、何度も夢見た(けれども決して叶わなかった)その行為を、意図も容易く遂げてしまった。初めてのデイダラとのセックスは、ただ傍にいられるだけでいいと言っていたデイダラを裏切ってしまった罪悪感で、とても気持ちいいと言えるものではなかった。











レゾンデートル




どうか、その答を教えて

(ここにいるのに
生きた心地がしない理由を)
















※raison d'etre…フランス語で存在理由、あるいは存在意義