旦那は本当に頭が可笑しいと思う。なんつーか、変態というかドSというか人とは違っているというか。まぁ、自分の体を改造している時点で常識では考えられないんだけど、うん。そんな旦那の最近のご趣味ときたら、オイラをいたぶることらしい。こちらとしては大迷惑だ。オイラはあんたの操り人形じゃない。…のはずなのに。




「だから、やだって言ってんじゃん」

「そう言うなって。また前みたく相手してくれよ」

「〜ッやだってば!」


前に、旦那の相手をしたことがある。というより無理やりさせられたんだけど。なんの前触れもなく突然押し倒されたかと思ったら、後はされるがままになっていた。訳のわからない行為を強要されて、オイラは混乱し、抵抗すら忘れて素直に旦那の指先に反応してしまった。それからというもの、旦那はこうしてオイラに度々相手を頼んでくる。人形なんだから性欲は沸かないんじゃないのか。そう問いただしたときがあったけど「お前に俺の何がわかる」とはぐらかされてしまった。肝心なことはいつも曖昧だ。気持ちいいのか、痛いのか、自分でもよくわからない。ただ、旦那のセックスは激しくて頭がどうにかなりそうだから、あまり気がのらない。


「んだよ。お前だって無理やり犯されたってのにあんなに善がってたじゃねぇか」

「言うなッ!」


冗談じゃない。あんたがオイラの弱いところばかり突いてきたんじゃないか。強すぎる刺激と快楽が怖くて、いやだいやだと泣き叫んでもやめてくれなかったんじゃないか。


「気持ちよかったんだろ?ん?」

「や、やだっ…!!」


バシッ


「……」

「…ぁ……」


耳元で囁かれて唇を当てられると、その冷たさに体が震えて反射的に旦那を振り払ってしまった。そのとき、手が思い切り旦那の頬に当たっていたかもしれない。その証拠に手が痛い。思わず固まるオイラに、鋭い目つきでこちらを睨む旦那。その目は殺意が芽生えている。あぁ、ヤバい。そう思ったときには、既に遅かった。


「…っあ!?」

「そうか。そんなに痛い方がいいか。だったらお望み通りにしてやるよ」


旦那がゆっくりと立ち上がり、右手をクイッと引き寄せれば、オイラの体は旦那の方へと引っ張られた。か、らだが動かない。まさかと思えばそのまさかだ。肉眼では見えないほど細いチャクラ糸で縛られてしまったらしい。


「卑怯だぞ…っ」

「言うことを利かないお前が悪い」

「わっ…!」


いきなり自分の両手が勝手に動いて装束を掴んだかと思うと、一つ一つボタンを外してスルリとそれを脱ぎ捨てる。旦那の意図を察したオイラは、旦那の方をじろりと睨む。


「なんだ、その目は」

「やだって言ってんじゃんかっ…!」

「うるせぇんだよ。いい加減黙らねぇと次は殺すからな」

「……っ…」


旦那は本気だ。うるさくしたら殺すと言ったなら、次に口を開いたときには毒を盛られるだろう。現にそれを何度か経験している。今度はその下に着ている服に手をかける。悔しい。何もできずにただ旦那の思い通りにされる自分が。満足げな顔をする旦那の目の前で、自ら身に着けていた衣服を一枚一枚取り去る屈辱に、オイラは血が滲むほど歯を食いしばった。






「ん…っん、ぅ…ッ」

「もっと声出せよ」

「やめ…っあぁ…っ!」


旦那が蕾に指を突き立て、悦い箇所を意地らしく抉れば、思わず押し殺していた声が漏れてしまう。腰が震えるのを顔を真っ赤にして堪える。体をチャクラ糸で拘束され、もはやじっとしていることしかできないので、ベッドの上に仰向けになり旦那の好きにさせていた。


「や…っ…も、やだ…」

「だめだ。許してやるつもりはねぇ」


旦那はそう言うと、また指を動かした。思わずビクン、と反応してしまい、このままじゃマズいと思って、体をよじって快楽から逃れようとする。旦那はそれを見て、舌なめずりをすると、二本だった指をさらに三本へと増やした。


「ぅあっ…ゃ…っも、抜い、て…っ」

「だから、許さねぇって言っただろ」

「あっ…ゃ…っ」


からだが熱い。頭がのぼせそうだ。いきなり旦那が左胸に歯を立ててきたものだから「んぁッ」と声を上げてしまう。それから旦那は無機質なその冷たい舌を這わす。それでも快楽を覚えてしまうのは、きっとこんな人形とこんな関係をずっと続けてきてしまったからだろう。


「ぅあ、ぁ、あッ、ん、あ…っ」

「もうイきそうなのか?」

「も…っ…だめ…ぇ…あぁっ」

「この変態が」


旦那はそう言うと、前立腺の辺りを集中的に攻めてきて、オイラは体を震わせて果てた。変態?性行為なんて人形のあんたには必要ないくせに、ただ付いているだけの使えないモノでむさぼるように情事をする奴がよく言いやがる。それ同等に、そんなモノを突っ込まれて善がっている自分もきっと異常だ。


「チッ…お仕置きしてやるはずだったのに、けっきょく気持ちよくしちまったな」

「んぁ……っあ…!?」

「次はたっぷり焦らしてやる」


今イったばかりだというのに、濡れそぼったそこにまた指を入れられる。もう無理だと思う心情とは裏腹に、そこは水音を立てて指を咥え込む。それが何より屈辱だ。


「はっ…ゃ、ああ…っ」


一度射精してしまったから、体がだるく、瞼が重く感じる。なのに休むことすら許されず、無理やり高みへ押し上げられる。


「っぅあ!ん、っ…」


自身を握られたかと思うと、その手はやわやわとスライドしてくる。後口を弄られて一度イかされたただけでも限界なのに、さらなる快楽に気が狂ってしまいそうだ。休みたいのに手加減なしの二点攻めに、オイラの自身はまた熱を持ち始める。…イキそう。喘ぎ声が抑えきれなくなって、もうだめだと思ったとき、


「…っい!!ぅ、…痛…っ」


気持ちいいのが一変、突然痛みが走った。その箇所を見れば、オイラの自身を扱いていた旦那の手が根元をきつく握っている。吐き出せない欲が体の中でうごめいて苦しい。手を離してほしい。


「ああっ!いっ、」


い、たい。強めに先端をグリグリと親指で突き立てられて、荒手に扱われれば、自身は強い刺激に膨れ上がる。けど旦那が根元を握っているからイけない。欲が出口を求めて、オイラの体の中を駆け巡っているのがわかった。


「ぅあ、あぁッ!ゃぁあっ…!」


苦しい。頭が、壊れる。旦那は手を休めるどころか、後口を犯す指をさらに早めて、自身は達せないようにしたまま刺激を与えてくる。やだ、やだやだやめて。このままだとおかしくなってしまう。自分でも何を言っているのかわからない。オイラは泣き叫びながら、旦那に許しを乞う。


「も、手ぇ、んぁっ、離し…、おねがっ、だんなあっ…!」

「いい顔できるじゃねぇか。デイダラ」

「んぁっ、だん、なっ…ふ、ああ!」

「デイダラ」


名前を呼ばれたかと思うと、旦那の綺麗な顔が近づいてきて、思わずドキッとした。そして、お互いの唇が重なった。


「ん、ふぅ…っ」


いきなりのことに驚いたが、無性に旦那が愛しく感じた。火がついたオイラは自分からも舌を絡める。しばらくしてから唇が離れると、吐息がこぼれ、部屋に荒い呼吸が響いた。


──足りない。


遠ざかろうとする旦那に、オイラは少しだけ体を起こして、その唇に口付けた。


「――んっ」


先ほどのように舌を絡める。ツゥ、と顎に唾液が伝った。たぶん、自分からこんな激しいキスをしたのは初めてだったから、旦那はというと動きがピタリと固まったかと思えば、それから顔を隠すように俯いた。まるで赤面した顔を手で覆うかのように。そんな旦那を見るのは初めてだった。


「お前、煽ってんのかよッ…」

「あぁあっ…!」


水音を立てて指を後口から引き抜かれ、それと同時に根元を握っていた手も離されて、たっぷり解されたソコに旦那のが押し込まれた衝撃で二度目の精液を吐き出した。しかし余韻に浸る隙もなく、旦那は激しく突き上げてくる。躯中に甘い痺れが広がった。


「あ、あぁっ!うぁ…っ」


気持ちいい、きもちイイのに。もしかしたら、この人にとってはただの遊びなのかもしれない。そう思ったら、なんだか急に泣きたくなった。暇潰しがてらのセックスに付き合わされて、玩具まがいのモノを突っ込まれて(自慰にも似ている気がしてきた)快楽に溺れて堕ちていく。そもそも旦那はオイラのことをどう思っているんだろう。思い通りに動いてくれる操り人形?それともただの情事相手?大体、この関係に愛はあるのか?


「だんな…んぁっ、だ…んなぁ…!」


もう、どうでもいい。今は何も考えずに、旦那を感じていたい。何度も旦那を呼ぶと、旦那はオイラの考えを察したのか糸を解いた。痕が付いた両腕を精一杯旦那の方に伸ばせば、旦那は強く抱きしめてくれた。その体は酷く冷たいけど、オイラはもうこれ以上何も望まないほど満たされた。オイラは背中に腕を回し、顔を埋めてしがみつく。自分を求めてくれた嬉しさからか、ぐちゃぐちゃの心情からか、わからない涙が頬を濡らしたことがバレないように。









情事ごっこ




愛の有無を確かめるように
性行為の真似事をした