# # #


Dbdパロ※グロと死ネタ注意

息が出来ない、呼吸さえもままならない。
恐怖のあまりぽろりと涙が一粒流れた。

壊れた和箪笥の裏で息を殺してしゃがみこむ。まるで刃物で滅多切りにされたような、凶暴な壊れ方だ。

私は破片の上にしゃがみこみ、唇を噛み締めた。足からは絶えず激痛が襲って、血溜りがどんどん拡がっていく。血が止まらないことに恐怖して、この血で発見されてしまわぬよう存在を消した。


ざく、ざく

割れたガラスを踏みしめて、確かめるように歩く人影が一つ。闇の中から目を光らせてやってきたそれは私の存在を探している。


「なまえ…どこだ?」

息が詰まりそうだ。何もかも壊れた世界で、私と彼だけが息づいているんじゃないか、そう思ってしまったことが恐ろしくて仕方ない。

どうか助けてと彼の影が通り過ぎるのを神に祈る。すぐそばで私を探す人影が乱雑に落ちていた木片を蹴り飛ばした。

震える身体を押さえつけて必死に歯を食いしばる。奥歯がガタガタと鳴り続けていた。


「いないのか?」



ざく、ざく、ざく
祈りが通じたのか足音が遠のいていく。
屋敷の外へとその音は出ていった。
後ろ姿を覗き見ると、衣服がズタズタになっていて。凛々しい雰囲気は形を潜めている。痛々しい、互いの風貌に何故こんなことになったのかと心が痛む。


見下ろすのは月。あたりは濃い霧が立ち込める日本家屋。荘厳な振る舞いとは別に衰退の一途を辿ったであろうこの屋敷は生者の立ち入りを拒むかのように孤独にそこに存在していた。

フラフラと導かれるように、茂みの奥へと人影は消え、気付けば先程の緊張とは打って変わり背の高い草が生い茂る庭先は恐ろしく静まり返っている。



(た、助かった……。)

再び震え出す身体。心の底から見つからなかったことの安堵が押し寄せる。
何とか見つからずに済んだようだ。

(っ、足が…)


見るのも憚られる私の右足はつい先程ここに逃げ込む前に氷の攻撃をくらってしまい、血だらけだった。見つかりたくない一心で唇を血が滲むほど噛み締めてうめき声を上げないよう耐えたが、今驚異が去った後は悲鳴を上げてもおかしくないくらいに激痛に苛まれている。

しかしモタモタしてる時間はない。また少しすれば探知されてしまうだろう。そうなれば今度こそ殺される。


動かすことすら難しい足を奮い立たせて箪笥に手をかけ立ち上がる。一刻も早くここから移動しなければ。

音を殺して痛みに顔を歪めながら屋敷からの脱出ルートを思い描いたその時。不意に壁に掛かっていた般若の面が床に落ちた。



背筋に悪寒が走る。


心臓の鼓動が張り裂けそうに煩い。
振り向くのが怖い、ボロボロと涙が堰を切ったように流れ出す。

私は知っていた。背後に 何 がいるのかを。
見なくても分かる、ああまた駄目だ、諦めろと囁く声が止まらない。恐怖の表情で後ろを振り返る。般若の面は落ちて割れていた。


「やっぱりここに居たんだな。」

「と、どろき…、くん。」

優しい笑みを浮かべた彼の人は、背後に寂しげな月を背負っている。縁側から戻ってきたらしく、それは屋内への逃げ道しか私に残されていないことを物語っていた。


「痛ぇよな?さっきは半端に怪我させちまった。大丈夫だ、今楽にしてやるから。」


動け、動いて足。今は痛いなんて言ってる場合じゃない。そう思うのに膝が笑って動けない。
痛い、怖い…どうしてこんなことするの、と意味を為さない問いかけをしかけて、飲み込む。もう長いことこの悪夢に囚われていて、そうしてる間に一歩また一歩と距離が近付いて逃げ道が塞がれていく。


「なまえ、帰ろう。」

「い、嫌!嫌だ来ないで!!」


愛おしい、と声から伝えられる。甘ったるく名前を呼ばれてやっと我に帰った。

心臓がどくんと高く鳴って、途端身体が少しだけ軽くなる。弾かれたように私は一目散に彼とは逆の方向へダッシュした。呼吸を途中からほぼしていなかったのにまるで嘘みたいに身体が軽い。足の痛みが気付けば無くなっていた。

バランスを崩しそうになりかけたがそのおかげで体勢が低くなり、轟くんが私を逃がさないように放った炎の渦を上手く躱す。

勢いに身を任せるまま外へと飛び出し、屋敷に逃げ込む前に発見した緊急用の脱出ハッチへと一目散に走りながら。
背後を振り向く余裕はなかったが、何となく次は氷が来ると察知していた。彼は牽制には炎を使うけど本気で捕まえにくるときは氷を多用するからである。





もう多分私は助からない。今夜もまた殺されるのは真っ赤に染まる視界のなかで何となく分かっていた。

記憶に残るくらいのここ最近は、無事に逃げきれた記憶がないし、発見されている上今回は負傷している。
逃げ切れる確率なんてほぼ0に近い、と分かっているのに。

それでも一時の生を諦められず足掻く足。


心の中の私が死ねば今回は楽になれるよ、と囁く。その声を振りはらうように必死で駆けた。

死ねば楽になれるんじゃ?
などとここへ来た当初は思っていたけど。
それは儚い夢だったともう随分と長い間止むことのない痛みをもって充分に思い知らされている。

この世界では死に救済はない。
何度でも呼び戻され連れ戻され、毎晩のように悪夢を見る。愛した彼に殺されそうになる夢。それは酷くリアリティを伴って私を苛むのだ。今晩も、また。






脱出ハッチが目前に迫る。そして同じように背後からも轟くんが迫っていた。

息切れが激しく、もう走れているのが奇跡なくらいに視界が歪んで前もほとんど見えていない、それでもここまで走れた。
アドレナリンが過剰に分泌されているのか、頭の中は酷くクリアだ。



あのハッチに飛び込めば、もう轟くんは追ってこれない。

最期の悪あがきに賭けるしかなかった。
何故ならあの脱出口に全身入ってしまえば、それ以上彼は追うのをやめるからだ。

境界として定められた向こう側まで入った途端に、轟くんは立ち止まって凄く寂しそうな顔で、名残惜しそうに私の名前を呼ぶ。


(お願い、お願いお願い!!)


逃げたい、死にたくない。
決死の力で踏み出し、脱出ハッチへと徐に飛び込む。轟くんが背後で一瞬叫んだのが分かった。


「ーーーーー!」

「………………そんな、」


立ち上がる気力も逃げる気力も無くなった私を待っていたのは無慈悲な氷の床だった。ハッチの黒々とした脱出口は一面厚い氷に覆われている。私は足をつき、その上で滑って転倒してしまった。


(ここまで来たのに……………。)



絶望し、その上で微動だに出来ないでいる私に彼は何ら変わらぬ甘い声で呼びかける。


「こんなとこにあったのか。なまえが先に見つけてるなんて思わなかった。危ねぇところだったな。」

轟くんは倒れ伏した私の上半身を抱え、抱き起こした。腕の中で力なく抱かれたまま、さめざめと静かに泣く。うわ言で「やめて」「助けて」と拒絶を繰り返しても、その胸の中に無理やり納められてしまっては、もうどうすることもできなかった。


「ごめんな、でも……」

やっと捕まえた。
目蓋に口付けをそっと落とされる。柔らかな笑みは、私の知る大好きな轟くんと同じ。
同じなのに、違う人。血に塗れた傷だらけの手に、無意識に手のひらを重ねる。


狂ってると思わずにいられなかった。
私が?それとも彼が?両方だ。私の頬を撫で嬉しそうに笑う彼は、狂ってる。
そして腕に抱かれて愛おしげに名前を呼ばれることに喜びを覚えている私も。


「ずっと、一緒だ。」


膝の裏に逞しい腕が回されて横抱きにされる。これがこんな絶望の中でなければ、きっと幸せそうに私も彼も微笑みあっていただろうに。

ポケットの中にはいざ捕まった時に突き立ててやろうと隠し持ったナイフがあるが、彼の胸に刺すことが今までどうしても出来なくて。結局私はまた今回も彼から逃げることを諦めたのだ。


眼前には血だらけで感情なく嗤う轟くんと、血にまみれ錆び始めた無機質なフックが迫っている。もう少しだ。あともう少しこの痛みに我慢すれば、また次回こうやって会える。


次も必ず殺してくれと誰かが耳元で囁いた。






個人的補足
(Dbdを知ってる場合は少し楽しめるかも)


サバイバー パーク構成
鋼の意思
デッドハード
決死の一撃(使用せず)

キラー轟くん パーク構成
囁き
観察と虐待
ずさんな肉屋

場所のイメージは山岡邸です。


死に救済はない

- ナノ -