アセンブル。私のヒーロー名だ。全世界でも非常に有名なヒーロー映画の名セリフから取ったのが始まりである。
意味は確か召集とか集める、あと組み立てるとかそういう意味だったかな。正直そこは曖昧なので割愛するが、私の個性「囮」は自分に向いている攻撃を他者に向けさせたり、また他者への攻撃を自分に向けさせたりすることが出来る個性である。そのことからも、アセンブルというヒーロー名はなかなか適しているのでは無いだろうか。



ところで時刻は平日の真昼間のこと。

ドタンバタンと、人の倒れる音が階段の踊り場に響く。丁度大の大人が3.4名集って暴れているかのような、兎に角平常では無い音が、先ほどから辺りに響いている。ようやく一撃目の前の男の顎下にお見舞いすることおよそ数秒。同時に、視界の端でふらりとよろめいたもう1人の男の方から、ただごとではない叫び声がこだました。

丁度今私の下で気絶した男も、目の前でとあるヒーローに伸され喚いた男も、どちらも先刻まで私が若干手こずりながら相手をしていた二人組である。何で突然襲われることに至ったのか、その理由は話すと少々ややこしいのだが、とにかく明日開催される予定の創立記念パーティー会場のパトロール中に怪しげな2人間組が爆弾を仕掛けようとしているところを発見してしまい、途端混戦へと雪崩れ込んだのは、ついさきほどの話だ。

「デクさん!こっち落としました!」
「ーーっ、了解!」

何とか足元に転がしたばかりの男は仰々しいスタンガンを手にしたまま気絶している。そしてそれを押さえつける私の斜め前では、緑色のコスチュームに身を包んだ彼の手によって後ろ固めにされた男が尚も痛々しい叫び声を上げている。
私の呼び掛けに際して、かのヒーローはすぐさま階段の手すりと男の捻り上げた右腕を手錠で繋いだ。その手錠はいつも私が携帯しているアイテムで、咄嗟の判断で投げ渡したものだ。

「大丈夫ですか……!」
「なんとか、」

捻り上げたヴィランをその辺にあったガムテープで拘束し終えた私は、慌てて声のした方へと視線を向ける。すると微かに息を整えながら私の方を気にかけているその人とばっちり目があった。

あれだけの乱闘を繰り広げていたというのに、かの人の顔には汗ひとつ浮かんでいない。やはりナンバーワンヒーローは一味違うなと思いつつナンバーワンヒーロー、もといデクに差し出された手を取り立ち上がった。

かの人物は人の良さそうな眼差しを目一杯見開きながら近づいて来る。大丈夫か、と心配されて手を差し出されるなんて、そういえばいつぶりだろうか。ダイナマイトさんは基本私のことを振り返りもしてくれないので(心配されたらそれはそれで傷付くけど)、差し出された手を掴むのにしばし固まってしまったのだが、デクさんがそれに気付いたような素振りは無い。

「お陰様で助かりました。私だけだったらどれほど制圧に時間が掛かっていたことか……」
「ううん、最初に桜木さんが気付いてくれたからこそだよ」


ダイナマイトさんの代わりに事務所を代表して件のパーティへと参加してからは、今日で3日が経とうとしていた。ヒーローに任される仕事というのは災害や大事件などからもイメージされるように突発的な発生が多いように思えるが、実際は違う。今日のようにイベントの開催準備を手伝ったり、人手が足りない部署間への伝達を請け負ったり、後は内部に異変が起きていないか等の見回りをしたり……と意外と雑用もやるのだ。

最初の2日間は平和そのものだったのに、異変に気づいたのは今日の朝のこと。リストに無い業者が点検に来たと社員さんが話しているのを聞いて不審に思い様子を見に来てみたら、これだったのである。

爆弾は完全に素人が作成したようなものではなく、所謂プロの仕業と思わしき代物だった。大きいパーティだなあなんて参加前は悠長に考えていたけれど、案外この会社は物騒な奴らからとてつもないヘイトを向けられているらしい。

「この人たち、2名組での入館申請だったみたいなんですけど、2名で行動してるのに無線機を持ってました。」
「…………それって、」
「はぐれた時用かもしれませんが、もしかすると他にも仲間がいるのかも」

思考を開始してから、実際に行動を起こすまでの時間を兎に角短くしろ、とはダイナマイトさん談である。いつも、ダイナマイトさんにそう言われ続けてきた。だから、会敵した時に気づいた違和感から答えを導き出すことに対して時間を掛けてなんかいられない。

私の言葉を聞いて、デクさんが瞬時に4階に至る階段を見上げた。半ば数秒のアイコンタクトを経て、私はすぐさまチームアップしているヒーロー達へ無線を飛ばす。

「僕はこのまま上に向かうから、っ……アセンブルは他のヒーローに連絡と招集をお願いします!」
「はい!」

一瞬桜木さん、と言いかけたデクさんの背を見送って無線に応答したヒーローへと片っ端から位置を伝えれば、すぐ上の階から激しく唸るエンジンのような音が聞こえた。私も、モタモタしちゃいられない。

先刻伸した男に殴られた頬が、今になってじんわりと傷む。クリティカルで入っちゃったもんなぁと苦笑いを浮かべ頬をさすっていれば、何故か上の階へ向かったはずのデクさんが「あ、桜木さん!」と叫んで戻ってきた。

「あの、お節介かもしれないけどこれ!」
「えっ、」

突然戻ってきたデクさんがこちらへ向かって何かを投げ渡してくる。慌ててキャッチすると、手のひらの中には小ぶりな何かが入っていた。なんだか、冷たい。一瞬のことで上手く頭が回らなかったけど、どうやら保冷剤を渡されたようだ。

「跡になったら色々まずいと思うんだ」
「まずい……?」
「ほら、かっちゃん君には凄く厳しいって噂だから」

思考に関する量を落とし速度を上げろと日頃常々言われている人間とは思えないほどに、頭が全く追いつかない。何となく保冷剤を渡されたことと彼がそれを使って患部を冷やせと言っていることまでは理解が出来たが、それ以降はよく分からなかった。

かっちゃん、ダイナマイトさんのことを指しているであろうことは会話の感じからして推察できるが、とはいえあの人が私に厳しいなんてのは、ごく当たり前のことだ。彼はそもそも他人にも自分にもストイックなまでに厳しい訳だし。とはいえ、ダイナマイトさんが厳しいことと私の怪我に一体何の繋がりがあると言うのだろう。………考えても、答えは一向に出てこなくて。

しかしこれ以上時間を取らせる訳にもいかないのでとりあえずは「ありがとうございます」と伝える。
私が明らかによく分かってない状態で返事をしてしまったからなのか、刹那彼は何とも言えない表情を浮かべて上の階へと消えていった。

そういえば、デクさんって私の本名知ってくれてるんだ……とその人が消えた今になって気付く。今は悠長に考えている場合じゃない。それは分かっているのだけれど、それでも興味の方が勝ってしまったのだから致し方ないことだ、とも思う。時間があったらダイナマイトさんの学生時代の話とかを聞いてみたいな。と、そんなことを考えながら、私はオフィスフロアの扉を開けた。








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生憎、プロヒーローに終業という概念はない。社内の終業ベルが鳴り響く中、この数日間で顔見知りになった社員さんが「お先失礼します〜」なんてにこやかな笑みを浮かべて退社していく。その様を眺めながら、お疲れ様ですと私も一言返したのだが、私の返答は残念なことに隣に並んだもう一人の男性が発した大きな「お疲れ様でした!」の一言にかき消され、届くことは無かった。

パーティ本番をいよいよ明日に控えた夕刻。今は各々に割り当てられた部屋の中で、レジュメに目を通しつつ持ち込んだパソコンに一心不乱に文字を打ち込んでいる最中である。

この2日間、空いた時間を見つけては通常業務もなんとかこなしてきた。それでもやっぱり仕事は溜まる一方で。こりゃまたダイナマイトさんに叱られてしまうななんて考えながら帳簿に数字を入力していたら、不意に横からすっと手が伸びてくる。何事かと横を見遣れば、先程大きな声で社員さんを見送ったもう一人の男性が、私を見つめていた。

「君、昼からずっと休憩していないだろう?」
「あっ、いえ……その」
「熱中するのもいいが、本番は明日だぞ」

今から疲れていては本末転倒だ!と私なんかより数倍も活力のありそうな笑みを浮かべるその人の名はインゲニウムさんという。ダイナマイトさんの同期で、今をときめく実力派ヒーローである。

遠回しに顔が疲れていると言われては、返す言葉も見つからない。ははは、と愛想笑いを適当に返して、先程インゲニウムさんから渡されたばかりのペットボトルに視線を向ける。未開封のところを見るに、きっとわざわざ私の為に用意してくれたようだ。

「確かに、それもそうですよね」
「そうだな。明日のパーティを楽しみにされている皆様の為にも、俺達こそ今しっかりと休むべきだ」
「インゲニウムさんはもう休憩取られたんですか?」
「いや、俺もまだだが……」
「二人ともお疲れ様〜、もしかして休憩中?」
「あ、デクさん」

早速貰ったペットボトルに口を付けていたら、巡回に出ていたデクさんまでもが部屋に戻ってきた。彼もインゲニウムさん同様に疲れなど微塵も感じさせない表情を浮かべ、こちらへと近付いてきてそのまま椅子へと腰掛ける。

「丁度アセンブルくんにも休憩したらどうかと提案したところさ」
「そうなんだ」
「はい、なのでお言葉に甘えて休憩を……デクさんも休憩ですか?」
「どうしようって思ってたんだけど、2人もいるなら僕も休憩にしとこうかな……」

5分だけ、と後に付け足した彼がポケットからスマホを取り出して何やら弄り出す。デクさんのようなトップヒーローでも休憩中にスマホいじったりするんだ。ぼんやり考えていたら、傍らでその様子を見守っていたインゲニウムさんが突然「君!休憩すると言ったのなら、きちんと休憩をとらなければ駄目じゃないか!」と叫んだ。

「ご、ごめん」
「全く、君は本当に変わらないな」
「事務所に経過報告しなきゃと思って、つい」
「それは休憩が終わってからにしたまえ」

どうやら休憩に入ると言ったにも関わらず業務連絡の確認をしていたらしい。スマホを弄っていたのも娯楽ではなく仕事の延長だったと言うのだから驚きである。そして、そんなところまで細かく気付いて注意したインゲニウムさんも、また彼らしいなと思う。

“ダイナマイトさんの同期“という存在は、私から見れば轟さんと同じく雲上の方々にも等しい。そんな人達と縁あって同じミッションに参加し、果ては休憩まで一緒にさせてもらえるなんて、一体どんな幸福なのだろうか。


スマホをしまい、何気ない会話を続けるデクさんとインゲニウムさん。その二人をぼうっと眺めながら、時折会話に耳を傾けてみる。会話の内容は最近の出来事や、自事務所で実際にあったおかしな話など、様々。私は一言も発さずただ黙って笑みを浮かべているだけだけれど、会話に入れずとも耳を傾けるだけで今の私には丁度いい。


「ところで、桜木さんにも聞いて良いかな」
「っへぁ、なん、何でしょう!?」

そう、傾けるだけで満足だった。
はずなのだが。

突然如何にもなオフトークが、私の方へと向けられる。しまった、ぼーっとおふたりを眺めていたせいで、肝心の会話内容が微妙に頭に入っていなかった。どうしようもなく返答に詰まり、見るからに挙動不審な態度になる。

「あ、突然振ってごめんね」
「いえ!大丈夫です!私に分かることなら何でも!」
「いや、そんな大したことじゃないんだけど、かっちゃんの様子とか聞いてみたくて」
「かっ……ちゃ?」
「爆豪くんか、確かに気になるな」

動揺を隠しきれないまま返答したが、とりあえずデクさんからは苦笑いをされるだけで済んだので良しとしよう。蓋を開けてみればダイナマイトさんの近況について聞かれただけのようだったが、まさか同期の人からダイナマイトさんがかっちゃんと呼ばれているなどと露にも思っていなかった私は、本日二度目の動揺を露わにした。

ダイナマイトさんの様子については特段企業秘密ではないので話しても別に問題は無いと思われる。ただ、問題なのはどの程度なら話しても問題ないのか、が私からすると判断が難しいという点である。当たり障りのない話で良いのなら幾らでも話せるんだけどな。

「あの人ならお元気ですよ。最近はエンデヴァー事務所との連携もキレながらでしたが大活躍されてましたし」
「あっ、それ轟くんとだよね?僕もニュースで見たよ」

自分で話を振っておいて、若干後悔。

「轟くんとかっちゃんって仮免補講の時から連携においては僕達以上に相性が良いんだけど、桜木さんがあそこに加わることでお互いの火力を殺さず底上げ出来るから、凄くいいコンビネーションだと思うよ。」
「え??あ……ありがとうございます、」
「でも、あの二人連携はともかくとしても、普通にしてたら結構どっちもマイペースだから間に入ってくの大変じゃない?」

轟さんとダイナマイトさんのお二人は油と水のように見えて、連携だけならば意外とそうでもない。デクさんの言う通り、長年一緒にやっているのでは無いかと思うほどに息のあったコンビネーションを見せつけてくるのである。とは言っても、それは文字通り戦闘中に於いてのみ発揮されることなので、日常においてはその限りでは無く。

「そう、ですね……ははは」

ここぞとばかりの苦笑いだ。ここで「いや実は轟さんに一目惚れされて現在進行形でとんでもないことになってるんですよ、うちの事務所」なんてことは口が裂けても言えなかった。私のあからさまな表情で察してくれたのか、デクさんが「まあ色々あるよね」呟きながら顔を逸らす。その気遣いが、今はとても有難い。

「しかし、爆豪くんがクラスメイトとチームアップをするとは、なんというか意外だったな」
「そう、なんですか?」
「あ、確かにそれは僕も思った」
「デクさんまで?」

轟さんとダイナマイトさんの話題から逸れたのも束の間、話は再びダイナマイトさん本人に移る。思い出したかのように、インゲニウムさんが「爆豪くんの事務所立ち上げの際に手伝いを申し出たんだが断られてしまってね」と少し残念そうな顔で続けた。

「立ち上げの時って、私が入所する前ですよね?」
「ああ。流石の爆豪くんでも一人では大変ではないかと考えて申し出たんだが、」
「断られちゃったんだよね」
「もしや緑谷くんもだったのかい?」
「うん、僕はかなり突っぱねられたよ」

デクさんがダイナマイトさんの口調を真似しながら“かなり突っぱねられた“時のことを詳細に語る。曰く、「テメェにゃ死んでも借りは作らねェ」と言われたらしい。如何にもダイナマイトさんらしい口ぶりだ。

「一応それでも事務員とかは取ろうとしてたみたいだけどね」
「ああ、そういえば確かに一時期クラスの誰かが一緒に事務所を運営していたとは聞いたことがあるな」
「えっっ」
「えっ、そうなの?」

何それ、初耳なんですが。ダイナマイトさん秘話が聞けるとワクワクしていたら唐突に思ったより重要な話が飛び出す。デクさんもその話は知らなかったようで、目を丸くし前のめり気味にインゲニウムさんの話に耳を傾けている。

「誰か、までは分からないがアセンブルくんの入所直前くらいまでは居たと聞いているぞ」
「じゃあ桜木さんと入れ替わりなんだ」
「私と入れ替わり……」
「俺も仔細は知らないが」

入所した当初のことを思い出すが、浮かぶのはダイナマイトさんのキレ顔と呆れ顔のみ。我ながら記憶の比重が偏り過ぎだ。しかし、僅かな別の記憶を遡ってもダイナマイトさんと一時期共同で運営していたという方の痕跡はおろか、面影さえ見つけられなかった。
その前任の方と私が入れ替わりで入所したという事実は恐らく覆らない。と言うならば何故、私はそんなにも重要な話を聞かされていないのか。

いつになく真剣な眼差しのまま考えるが、私の頭じゃ答えなんていつまで経っても出るはずがなく。唸る私にデクさんが再び問い掛けてくる。

「桜木さんはかっちゃんと何処で知り合ったの?」
「私ですか?……私は元々ベストジーニストのところでインターンしてたんですけど、その時サイドキックとして働いてるダイナマイトさんにお会いしたんです」
「そうなんだ」

じゃあその頃からベタ惚れなんだねと語弊のある言い方で彼が続けた。恋愛的な意味で惚れ込んでいる訳では無いが、ベタ惚れであることに変わりはないので否定することも出来ない。

「いやまあ、恋愛感情は全く無いですが……確かにこの人の元で働きたい!とは直感で感じましたね」

なまじ否定も出来ない所為か、自分で思うより数倍小っ恥ずかしい暴露をしているような気がする。話の流れからして仕方ないこととはいえ、私は一体彼らに何の話を……。

「あああなんかすみません!自分でも若干気持ち悪いなって分かってはいるんですが」
「え?僕は全然良いことだと思うけど」
「お気遣いいただかなくても大丈夫ですよ、本当に我ながらたまに頭おかしいなって思うので!」
「いや、緑谷くんの言う通りじゃないか?爆豪くんも君が入所した後の方が活躍がめざましいと聞くし、そこまで卑屈になる必要も、」
「それは多分勘違い……、」
「いや、そうでも無いと思うよ」

インゲニウムさんからのフォローがむしろ痛くて、私としてはそこまで必死になる気も無かったのに結局全力で否定してしまった。実際問題としてダイナマイトさんは私の力など無くても前だけ見据えて真っ直ぐ突き進んでいく質なので、そこに関しては全力で否定させて貰うけれども。
けれど私が“それは勘違い”だと述べるより先にデクさんが珍しく真顔で私の否定を遮った。そこをバッサリと断言されるとは夢にも思ってなかったからか、突然の事態に言葉を失う。

「確かにかっちゃんは一人で何でも出来る人だけど、」
「……はい」
「でも、一人でやることに大して物凄い拘りがある訳でもないと思うんだ」
「と、言いますと?」
「君をサイドキックにすることが、かっちゃんにとっての最善だったってことじゃないかな」


その言葉を咀嚼するのに、暫しの間を要した。

本当に思ってもみなかった言葉が飛んできたなと、あとになってふと思う。言われたことがじわじわと侵食して、なんとも言えない感情が渦巻く。

「そもそも、かっちゃんは信用していない人と一緒に仕事なんて絶対しないだろうし」

ダメ押しでデクさんが呟いた時には、もう駄目だった。顔があからさまにニヤついて、口元が緩んでしまうのをどう足掻いても抑えられない。きっとこんな会話をしていることがバレたら、私は大目玉を食らうだろう。なんならその場で殴られて記憶を一部すっ飛ばされるかもしれない。でも、たとえそうなったとしても今日のこの出来事だけはずっと覚えておかなきゃと、何故かそう思ったのだ、






「まあ、その……要は色々話脱線しちゃったけど、これからもかっちゃんのこと、よろしくお願いしますって言いたいわけなんだ…...ごめん、何か凄く語っちゃった」
「い、いえ.....」


デクさんが照れくさそうに頬をかく。同時に、インゲニウムさんが微笑ましいものでも見るような目でこっちを見ていた。ダイナマイトさんが聞いたらブチ切れながら乱入してきそうな一言がいつまでも耳に残って、やっぱりなんとも言えない気持ちになる。
我ながら大丈夫です、とはとてもじゃないが言えない顔をしていたと思う。まさかこんなタイミングで憧れの人から認められていることを実感するような出来事が起きるなんて。いやもう、ホント...で同期ってすごい。とりあえず次事務所に返った時にはダイナマイトさんに変な態度取って怒られないようにしなくては。

噂をすればなんとやらで、実はこの後まさかのダイナマイトさんから別件で鬼電がかかってくることになるのだが、そんなことも露知らず、私は自身の挙動を誤魔化すように、インゲニウムさんから貰ったペットボトルを飲み干した。

休憩が終わる時間までは、あと僅か。



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