Others | ナノ

「……似合うと思うけど?」
「や、断然ペリドットだろ」
「ルビーよ!」
「あのなぁミス・スメラギ、確かにソレは綺麗だしあんたには似合うが、リノの髪に合わせるならこっちだろ」
「……あーらロックオン、貴方は単にリノに“自分の色”を付けたいだけでしょう?」
「!」

 ブリッジから微かに聞こえる押し殺したような男女の声。ドアに向かって伸ばしかけた手が一度止まったのは、その会話に色濃く感じたデジャヴのせい。
 前回と違うのは、この扉の向こうにリノが居ない事くらいだ。今ここで入って行ったらまた面倒だと思いつつも、仕方なしに再び扉に手を伸ばす。

 ――自動で開く扉を眺めながら気付いた違いが、もう一つ。
 俺は、今回は、この騒ぎの原因を、聞くまでもなく知っている。

「「刹那! どっちがいいと思う!?」」
「………」

 勢い良く振り返った二人が投げ掛けたのは、前回と一言一句違わぬ問いかけ。俺に向かって突き出された手には、それぞれ深紅と薄緑の宝石を使ったピアスが一対ずつ。
 十中八九リノへのクリスマスプレゼントとして選んだであろうそれ。予想はしていたものの、問われた時の切り返しは考えていなかった。
 一応ピアスを見比べていると、二人は黙ったままの俺を咎めるでもなく舌戦を続ける。

「あの子、赤系のドレス持ってるのに合わせるピアスは無いのよ。元々赤も似合うし実用的だし、一石二鳥でしょう?」
「いやいや、実用性を推すんなら、わざわざあんたのと揃いのモンをやらんでも貸し借りすりゃ良くないか? それよりこれだろ。色はリノの髪に映えるし繊細な造りもイメージどんぴしゃだし、まさにアイツの為に選んだって感じで!」

 仮にも俺に対する問いかけだったはずが、二人だけで白熱する会話。そもそも、もう選んだ後なんだから大人しくあげれば良いだけだろうに。
 しかし、今更それを言ったところで、返ってくる言葉が数倍になるだけだ。とりあえず嵐が去るまで、とそのまま口を噤んで眺めていたら、俺の背後で小さく機械音が響いた。

「……あら、みんなして、こんなところで突っ立ってどうしたの?」
「「リノ!」」

 まさかの本人登場に、二人は揃って両手を背後に隠す。挙動不審な彼らを一瞥したリノは、俺と目を合わせて小さく首を傾げた。
 しゃらり、軽い金属の掠れる音が静まりかえったブリッジに響く。それに気付いたロックオンはスメラギと素早く目配せを交わすと、頬を引きつらせつつリノに向き直った。

「あー……リノさん? その耳から垂れてるジャラジャラって……」
「ん? これ?」

 ロックオンが指差す右耳に髪を掻きあげて、“それ”を露にするリノ。しゃらり、再び涼やかな音を立てたそれを右手で弄びながら、彼女はふわりと微笑した。

「ふふ、今朝刹那がくれたのよ。綺麗でしょう?」
「「!!!?」」

 しゃらり。波音を思わせる音色を奏でるそれは、海をそのまま固めたような――深い深い、青色。










サファイアの祝福






「て……天然恐るべし……」
「……ここまできたら確信犯、だと思うけど?」
「!?」
あとがき
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