Others | ナノ


「まっさおっみくん!」
「おわっ!」

 庭先で見つけた、3年という時間で以前にも増して逞しくなった背中に思いっきり飛びついてみた。咄嗟のことにもバランスを崩さないのは流石だと思う。地面に着くか着かないかの爪先をぶらぶらと遊ばせていたら、ゆっくりと重力が戻ってくる。

「……なんだよ望美、どうした?」
「えへ、ちょっとね」

 あたしを降ろして向き合う形になった将臣は若干呆れ顔ながらも笑って答えてくれた。風に靡くほど長くなった彼の襟足には、未だにちょっと違和感を覚える。ぴゅうっと吹いた一陣の風に、流れるままに下ろしたあたしの髪もふわりと舞い上がった。狭くなった視界を広げるように、髪を手櫛で整えて押さえる。やっぱり、ちょっと鬱陶しい。

「……ん?」
「あ、そうだ将臣くん、さっき郵華があっちで呼んでたよ」
「……郵華はお前だろーが」
「そうそう郵華はあたしだけど……って、えぇぇえ!!!?」

 あたしの頭の後ろに手を回して髪をいつものポニーテールに纏めつつ、将臣がサラっと口にした答え。まさかこんなに呆気なくバレるなんて、あたしも望美も予想してなかった。思わず大きく上げた声に将臣はけたけたと明るい笑い声を立てる。

「おもしれぇ事してんなぁ。しっかし残念、相手が悪かったな! 幼馴染舐めんなよ?」
「譲にはバレなかったのに!」
「ま、そりゃ譲はなー……」

 双子なら一度はやってみたい『入れ替わり』実験真っ最中だったんだけど、バレちゃったんならこの髪型に意味は無い。いつものように髪を一纏めに括れば、やっぱりこっちの方がしっくり来る。落ち着いたところで、肝心な事を聞いてみた。

「……ねぇ、なんで分かったの?」
「突風吹いたときに髪押さえただろ」
「それだけ!?」
「や、他にも多少違和感はあったけどな。決め手はそんだけだ」
「えぇぇ……そんなんじゃバレないよ普通……」

 肩を落とすあたしとは対照的に胸を張って答える将臣。我ながら上出来だと思ってたんだけどな、と漏らすと、彼はにやりと笑ってあたしの頭に掌を乗せた。

「分かるって。17年、ずーっと見てきたからな」










鏡面かくれんぼ


(っ……! 将臣ずるいっ!)
(何がだよ。あ、ほら、あそこ、九郎あたりだったらいけんじゃね?)




あとがき
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