Others | ナノ


「ここはこっちよ!」
「いーや! こっちだね」
「ぜーったい男装!」
「女装だって。“美女”二人の方が良い感じに目立つだろ?」
「あら、目立っちゃ駄目よ! 潜入任務なんだから」
「あのねぇ、二人とも……」

「……なんの騒ぎだ?」
「「刹那!!」」

 ブリッジから響くぎゃんぎゃんと煩い男女の声。開いたドアの向こうでは、案の定スメラギ・李・ノリエガとロックオン・ストラトスが言い争っていた。二人の間には文字通り板挟みになったリノ・ランディーニの姿。この場で唯一聞く耳を持ちそうな彼女に向けて口にした言葉は、彼女に届く前に騒ぎの当事者たちに拾われた。

「「刹那、どっちがいいと思う!?」」
「私に決定権は無いってのね……」

 勢いよく身を乗り出してきた二人の手には、それぞれ漆黒の燕尾服と濃紺のイブニングドレス。二人を見比べ、呆れ顔で嘆息したリノを見て漸く合点がいった。どうやらこの二人は、今夜俺とティエリアと共に夜会に乗り込む彼女の衣装を決めているらしい。

「ティエリアが女装ならリノは男装でしょ! それにしてもリノ、女の子達が放っとかないわよ絶対!」
「あんまり嬉しくないわ……」
「いやいや、リノは地味に胸デカいから潰すの大変だって。息苦しいと咄嗟に走るのも大変だろ? だったらこう、胸元開けて男連中誘惑して情報聞き出す方がだな……」
「あんたさりげなく失礼ねロックオン」
「……ほら、ってな感じでさ。埒あかねぇからお前が決めてくれよ」
「そうね、そうしましょ。時間もあまり無いし」
「……いーわよもうなんでも……」

 矢継ぎ早に言葉が交わされていると思えば、話はあっという間に纏まっていた。スメラギとロックオンが俺に向かって服とリノを突き出す。とりあえず本人の意向を目で聞いてみると、彼女は諦めたように左右に小さく首を振っただけ。
 どうやら、本当に俺が決めなければならないらしい。二人の差し出す衣装とリノとを交互に見比べる。

「……女装も何も、リノは女だろう? ドレスの方が似合う」
「「「!!」」」
 
 ……思った事をそのまま口に出せば、目の前の三人は揃って固まった。













(素か!? 素なのか!!!?)
(ちょっ、おねーさんときめいちゃったよせっちゃん……!)




あとがき
もどる
×