Others | ナノ

「……エリザはさ、ぶっちゃけどっちが本命なの?」
「!!!?」

 ふと浮かんだ素朴な疑問をそのまま口にしてみると、彼女は大きく噴き出した。あと一瞬遅かったら今エリザの手元で小刻みに震えているカップの中身(イコール淹れたて熱々の紅茶)は、迷うことなくあたしの顔面へと一直線だったと思う。危なかった。

「なななななによ突然!!!! どっちって、本命って、な、なにが! だれの!」
「あはは、えっらいストレートやなぁリノ」

 他人事だと思って(いや実際他人事だけど)朗らかに笑うベルと比較するまでもなく、エリザの頬は一気に熟したトマトのように赤くなる。彼女らしくも無く凄くあわあわしてはいるけど、質問の意図はちゃんと伝わったらしい。にわかに騒がしくなった女三人で囲むティーテーブルにロヴィや親分を含めたいくつかの視線が集まったけど、あたしとベルでひらひらと手を振って軽くいなしておいた。因みに、『どっち』に該当する男二人は、そもそもココの異変には気付かなかったらしい。

「でもそれ、ウチも前から気になっててん。ぶっちゃけどうなん?」
「ねー?」
「ベベベベルまで何言い出すのよ!!」
「もー、しらばっくれちゃって。ウチはちゃあんと報告したったのにぃ」
「ねー?」
「ちょっとリノ!!!!」
「なにこれ八つ当たり? 照れ隠し?」
「あ、のねぇ……!」
「あはは、エリザ耳までトマトみたいになっとるよー」

 あたしの素朴な疑問に乗ってきたベルにたじたじのエリザ。ここまで反応あるってことはここ最近で何か動きがあったのかな。カマかけたわけじゃなかったんだけど、思いがけず大当たりを引いたかもしれない。
 先週あたしとエリザに“報告”を済ませたベルは余裕の表情でエリザの頬をつんつんと突く。そのベルがふいっと視線を上げたら生垣の向こうにバツが悪そうな顔したロヴィが居た。ぱちりとかち合った視線。ベルがふにゃっと微笑うと、ロヴィは片手を挙げて応えつつ頬を机に突っ伏してるエリザの耳と同じ色に染めて眼をそらした。……可愛いなこの幸せいっぱいバカップルめ。

「っていうか! それより、そういうリノはどうなのよ! 人に言わせるならまず自分からでしょ!」

 ロヴィとベルで和んでた間に攻撃の手が緩んだ事で復活したらしい。エリザがガバッと身を起こしてあたしに詰め寄った。あらあらぁ、と楽しげにあたしとエリザを見比べるベル。こうなったらヤケだと言わんばかりのエリザ。男衆もいつの間にやら聞き耳を立ててるのか、やたら周りがしぃんと静まり返る中、ぱちんぱちんという鋏の音だけが規則的に庭に響いてる。
 この一言で場がどう転ぶかなんて予測もしないうちに、あたしの口からは自然と言葉が零れ出た。

「あたし? あたしはトーニョだけど?」

 ばちぐしゃっ。

 一際太い茎が斬られる音とトマトの潰れる音が混じった音、それにフランシスとアーサーあたりの悲鳴をBGMに、すっかり冷めてしまった紅茶を口に運ぶ。あまり聞き慣れない愛称に一瞬フリーズしてたエリザの瞳に光が戻った瞬間と、ベルの柔らかい笑顔と、生垣の向こうの、手元で無残に潰してしまったトマトよりも余程赤く染まってた親分の表情は、しばらく忘れられそうに無い。










糖蜜タンテシオン


(ありゃ、勢いで言っちゃった……この後どうしよ……)
(ちょ、ちょちょちょリノ!! ととととりあえず落ち着いて話せるとこ行こか!!!?)

(ま、でも、これはこれでアリだったのかな……?)




あとがき
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