Others | ナノ


 ……カカシが18禁本から目を離すのは、アイツがやって来る前触れ。

「第七班に書簡のお届けでーす」

「あっ、郵華ねーちゃん!」
「郵華さん! こんにちは」
「……よぉ」
「おっ、ご苦労さん」

 木の葉一枚擦れる音も立てずにふわりと木漏れ日の間から飛び降りた一人の女。着地音で漸く彼女の存在に気付いたナルトが真っ先に目を輝かせて立ち上がる。ぞんざいに置かれた弁当箱から箸が落ちた。
 誰よりも先に気付いているくせに、カカシはわざとらしく間をおいて片手を挙げた。ナルトにじゃれ付かれている郵華は会釈で返す。

「ねーちゃんねーちゃん、任務!? 任務来てる!?」
「どーかな。はいコレ。開けるのはカカシ先輩よ?」
「よっしゃ! 分かってるってばよ!」

 郵華からいくつかの書簡を受け取ったナルトはとんぼ返りでカカシの元に戻る。まるで犬だ。どれどれ、と書簡を開封していくカカシの元に自然と全員が集まる。

「んー、無いね」
「えええええー……」

 盛大な溜息と共にがっくりと肩を落とすナルト。カカシの後ろから書簡の束を覗き込んでいたサクラが小さく首を傾げる。サクラの目線を追ってみれば、『Dランク』の文字が見えた。……あるじゃねーか、任務。

「ちょっと郵華ちゃん、無いんだけど」
「何がですか。任務ならあったんでしょう?」

 俺とサクラを見て言う郵華。返事の代わりにサクラがひとつ頷く。そんな俺らの様子を見て、カカシが真顔で言葉を発した。

「違うって。ほら、郵華ちゃんから俺への恋文は?」
「「「!!!?」」」
「……寝言は寝て言ってください先輩」
「寝てたら言えないじゃない、もー、郵華ちゃんってば何言ってんのー?」
「まだ配達あるんで行って良いですか」
「はー、つれないねぇ……」

 ……アホか。

 4人分の呆れ顔に見下ろされてもカカシは調子を崩す様子も無く、地面にぐりぐりとのの字を描いている。ちらりと郵華を見上げて見れば、合わさった視線からは「帰って良いかな」と言わんばかりの色が滲み出ている。肩を竦めてみせると苦笑で返された。

「……それじゃカカシ先輩、あたしこれで失礼しま」
「あ、ちょっと待って」

 箒状の忍具を手に踵を返そうとした郵華を、カカシの腕が止める。気配には敏感なくせに、郵華の頭と肩がびくりと軽く上下した。カカシが後ろ手に隠した何かを見たのか、サクラの頬が僅かに赤く染まる。……正直、嫌な予感しかしない。

「あのさ郵華ちゃん、配達一件頼んで良い?」
「………仕方ないですね、何です?」
「これ、木の葉一の俊足の運び屋さんに……『渡郵華』に、届けといて?」

 ――郵華の、俺とそう変わらない大きさの掌に乗せられたのは、一輪のコスモス。

「そっ、そういうのは、ご自分で直接、『本人』に渡したらどうですかっ!!!?」

 呆気に取られるナルト、少々興奮気味のサクラ、ニヤニヤと笑うばかりのカカシ。郵華は渡された花を握り締めたまま、咄嗟に5メートルは後方に飛び退き、半ば叫ぶように言い捨て、仕事道具の忍具に跨り飛び立って行った。

 ……満更でも無さそうに見えるのは、俺だけか?










レトリック・レターの




あとがき
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