彼女とマのつくendless days! | ナノ

「うぅーん……やっぱし、ちょっと…足りないか?」
「…どうかしましたか、陛下?」
「うわ!」


さっきから私の横でうんうん唸っていた陛下に声を掛けると、彼は飛び上がらんばかりに驚いた。ぼそぼそと漏らしていた言葉は独り言のようだったから暫く声を掛けずにいたんだけど、それがかえって良くなかったようだ。


「す、すいません陛下。そこまで驚かれるとは…」
「や、こっちこそごめん、大声出して。…っつーか、陛下って呼ぶなって、名付け親その2!」
「あら。失礼しました、ユーリ。…でも、人に向かって指を突き付けるのはいけませんよ?」
「あ、ごめん」


ぴっと突きつけられた人差し指ごとユーリの手を取り、微笑んで誤魔化す。陛下って呼ぶな、そう言われても、周りに居るのがコンラッドやヴォルフじゃなくて侍女や給仕係だとついそう呼んでしまう。それでも、その度にこうやって訂正されるやりとりは、ユーリも私もそれなりに楽しんでいるのだけど。


「…できれば敬語もナシの方が嬉しいんだけどな」
「……う…努力、します…」


ちょっと不貞腐れた風のユーリに苦笑する。これでもだいぶ砕けた丁寧語になった方だと思うんだけど…。
そこまで考えたところで、私の思考は最初に戻った。


「…それで、どうなさったんですか? 私の頭に何か付いてます?」
「あー…やっぱ、ちらちら見てたのは気付いてた?」
「一応軍人ですし、諜報部員もやってましたからね。気配には敏感じゃないと」
「さっすが、プロは違うなぁ」


バツが悪そうに頭を掻くユーリの視線は、相変わらず私の頭に向けられている。ユーリは背筋を伸ばしてしゃんと立つと、私にも同様にするよう促し、右手を頭の高さまで挙げる。

…あぁ、それで見られていたのね。


「…身長、ですか?」
「そーそー。だいたい同じくらいだと思ったんだけど……ミリィ、何センチ?」
「170ちょっとですかね」
「うわ、やっぱ負けてる! 靴のせいだけじゃなかったか…」


ちぇ、と残念そうに肩を落とすユーリに思わず苦笑する。笑うなよ、とすぐに少し怒ったように返してくると思っていたのに、彼の口から零れたのは大きな溜息。


「あーあ。あとちょっとなのにな」
「…すぐ伸びますよ。ユーリはまだ成長期でしょう?」
「でも魔族は成長遅いじゃん! もう伸びなくなるんじゃないかって冷や冷やしてんだぜ!?」
「でも、ちょくちょく地球にも帰ってるじゃないですか。ユーリくらいの歳なら、その間にも十分伸びると思いますよ? ホラ、地球の男の子は高校生の間が一番伸びるって聞きましたし」
「そーかなぁ…」
「そうですよ。その証拠に、最初にお会いした時よりは、差が縮まっているでしょう?」
「え、まじで?」


思いのほか気にしている様子のユーリに、私は微笑しつつフォローを入れる。そういえばヴォルフも昔こんな事言ってたっけ。男の子ってやっぱり気にするものなのかしら…。
そんな事を考えていると、すっかり普段の調子に戻ったユーリが笑っていた。


「じゃ、見ててよ! そのうちすぐ抜かすからさ!」


向日葵のような笑みを向けるユーリに、私は一言「楽しみにしてます」と返しておいた。










in due course of time.




楽しみにしてますよ、ユーリ。

……貴方が大きくなって、この国を背負って立てるようになる時を。




お題配布元:潦(にわたずみ)(PC)


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