彼女とマのつくendless days! | ナノ

……カーティス卿ミリィ。元はコンラッドの隊にいた女性軍人さんで、コンラッドとヨザックの幼馴染。つまりミリィもハーフってこと。でもグウェンダルとも親交があって、ヴォルフラムに懐かれてる笑顔が爽やかなお姉さん。
おれの近衛兵として働いてくれつつ、時にはおれがこっちの世界に来るまでやってた諜報部員の仕事もこなしてる、まさに仕事のできる自立した女性って感じ。アニシナがミリィを気に入ってるワケも良く分かる。
それに仮にも魔王陛下の側近をやるだけの事はあって、剣の腕前はギュンターお墨付き。部下に檄を飛ばす時はギーゼラとは対照的に笑顔で脅…いやいや、彼らのやる気を引き出す模様。

好きなものは紅茶とケーキとクッキー。特に紅茶にはこだわりがあるらしく、ミリィの部屋には茶葉の入った瓶がまるでどこかのカフェのディスプレイのようにずらっと並んでいる。
口癖は大丈夫と何とかなります。あの笑顔で言われるとどんな事でも本当に大丈夫な気がしてくるから不思議なんだよな。
…そして忘れちゃいけないのは、おれの名付け親その2ってこと。

おれがミリィについて知っている事と言ったらざっとこんなもん。
それに対して、彼女について疑問を挙げればキリがない。

何でハーフなのに魔力あるの? 前例の無いことらしいのに皆がそこに触れないのはなんでだ? 家族構成は? いつも血盟城に居るけど実家に帰省したりしないの? 方向音痴だって聞いたんだけどおれと歩いてて迷ったこと無いよな? あのグウェンダルをも黙らせる若干黒い笑顔は過去に何かあったからなの? 本当は歳いくつ…って、女の人にこの質問はご法度か。…実際コンラッドとかヨザックとはどうなの? その素晴らしい持久力はどうやってつけたんだ? 地球じゃまず見ない鮮やかな水色の髪に妙に親近感を覚えるのは何でだろう?

…後半は個人的意見になっちゃったけど、こうして考えてみるとやっぱり知ってることより知らないことの方が断然多い気がする。
おれがそれを知らない理由は色々だけど、一番はやっぱり足を踏み入れていいのか分からない事が多いから。

…おれがこっちに居るときはずっと一緒なのに実は知らないことだらけなんて、何かちょっと寂しいなぁ…。


「…坊ちゃん、さっきからどうしたんです? 百面相してますよぉ?」


さっきからずっと窓の前に居るおれに後ろから掛けられた声。それに振り返るより早く、ひょこっと頭上に出てきたオレンジ頭。


「あ、ヨザック」
「……ははーん、さてはカーティス卿に恋わずらいですか〜? アイツはなかなか手強いですよ?」
「…え!? や、違うって! ちょっと考え事してただけで!」
「え〜? あんなに熱い視線を送りながらですかぁ?」


ちょっとグリ江ちゃん入った手つきで右手をくねらせるヨザックは、ニヤニヤ笑いながらそれはそれは楽しそうにおれを小突いてくる。とはいえ彼も一応冗談で言ってるわけで、ある程度おれをからかうとふーっと大きく息を吐き、腰に手を当てて改めておれを見た。


「…で、どうしたんです? ミリィの事で何かお悩みで?」
「……ま、あながち間違っちゃいないけどさ」


真面目な表情を取り戻したヨザックにかかれば、話さざるを得ないというか何というか。それにヨザックはミリィの幼馴染だから、このモヤモヤ感を打ち明けるにはうってつけの相手だろうし。
知らない事を彼伝いに聞き出そうとかいうつもりは無いってことをちゃんと伝えつつ、今まで考えてた事をかいつまんで説明する。ヨザックは時折相槌を打ちつつも黙って話を聞いてくれた。おれが一通り話を終えると、その大きな手で無造作に頭をがしがしと掻き、そぉですねー…と小さく呟く。


「ミリィは放っときゃ何も言ってきませんけど、こっちから聞けば大抵のことは話してくれますよ?」


窓の向こうで鍛錬中のミリィを指差して口角を上げるヨザック。少し屈んでおれに背の高さを合わせると、耳元でボソッと追加の一言。


「…特に、陛下相手なら、心配しなくても大丈夫ですから」


ヨザックは最後にニイッと笑って、おれの頭をぽんっと1回軽く叩くと部屋を出て行った。
…コンラッドが居たら今のヨザックの態度に色々言うんだろうけど、おれは別に全然嫌いじゃないんだけどな。コンラッドやミリィとはまた違う、頼れる兄貴分って感じで。

おれ相手なら大丈夫、って、耳元で未だ反響し続けるその言葉を何度も反芻しながらもう一度窓の向こうを見下ろせば、ミリィは相変わらず鍛錬に励んでいる。時計を見れば時刻はちょうど15時、地球でも眞魔国でも共通のおやつの時間。


「……おーい、ミリィ!! そのへんで休憩にしないー?」
「!」


締め切られていた窓を開け放ち、体を少し乗り出して外に向かって声を掛ける。パッと反応良く振り返ったミリィの水色の髪が陽の光できらめいた。

……よし、休憩を口実にミリィの紅茶を頂きつつ、今までなかなか聞けなかった事を色々と聞いてみることにしよう。










OK,now,I'm all ears!





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