風姿華伝 | ナノ

「……さーて、全員集合したところで!」

 プシュッ。部屋のど真ん中で仁王立ちしている蝉ちゃんが、仕事帰りのサラリーマンのひとたちが生唾飲みそうな小気味良い音を立てる。その手に握るは500mlのビール缶。
 相変わらず男前なその姿に、天化と発っちゃんが小さく苦笑した。

「変わってねーなぁ、蝉玉ちゃん」
「つか、それ以前に言うほど久々な感じもしねぇさね」
「あーもー、ひとが折角良い感じに仕切ってるのに! 無粋な事言うんじゃないわよそこ二人!!」
「あはは、まぁまぁ蝉ちゃん、とりあえず座ろ?」

 押され気味な男子二人の手には350mlの方のビール缶。まだお酒入ってないのにヒートアップ気味な蝉ちゃんを手振りで宥めれば、彼女はようやく腰を下ろす。
 新成人四人には少々小さい折りたたみ机に、ようやく全員が落ち着いた。

 (ハタチになったらさ、同窓会やろーぜ!)

 ――最初に言い出したのは発っちゃんだった。確かあれは、高校を卒業する二週間くらい前。
 二十歳になったら学年同窓会もあるけど、その前に四人で成人を祝して飲み会をやろう、って、話のついでに出たくらいの軽さで決めた口約束。
 忘れてなかった訳じゃないけど、先月、集まる日を決めるメールが回ってきた時はちょっと感動した。

 つい昨日のことのように思い出せる、あの学校で過ごした日々。それからもう二年も経っているなんて、未だに不思議な感じがする。
 特に今日は集まってる面子が面子だから、その記憶は余計に鮮やかだ。

「……でも確かに、なんか放課後に集まってるみたいだねぇ」
「だなー。違うトコっつったら、堂々と酒が飲めることくらいか?」

 蝉ちゃんよりはやや控えめな音を立てて、発っちゃんが手元のプルタブを開ける。そんな彼の言葉に、蝉ちゃんはひらひらと手を振りつつ呆れ気味に言葉を返した。

「そうは言うけど、どーせ大学入った途端に堂々と飲んでたでしょ?」

 ことん、と軽く首を傾げて蝉ちゃんが問えば、発っちゃんはあっはっはと苦笑いを返すだけ。私はお酒を選びつつ、視線を感じて隣の天化を見やった。ぱちりと眼が合う。
 そんな視線のやり取りを、蝉ちゃんが逃すはずも無く。

「……うそ、あんたまさか」
「んー、私は今日が解禁日」
「「うっそだぁ!!!?」」

 ソプラノとアルトの綺麗なユニゾンが響く。ホントホント、と答える私と煩そうに若干顔を顰める天化を見比べて、二人は合点が行ったかのように手を叩いた。
 蝉ちゃんと発っちゃんは顔を見合わせ、やれやれと大仰に肩を竦めて天化にちらちらと視線をやる。

「あーなるほど、飲ませてくれなかったってワケね」
「天化お前ホント過保護だなー……いっくら大事な“幼馴染”とはいえ、大学生だぞ大学生!」
「ちっげぇさ!!」
「別に俺っちが言わんでも、コイツこーいうとこ妙に真面目だから……」
「ふーん? なんか急にコイツ呼ばわりしてますよ蝉玉さん?」
「ふぅん? まったく、独占欲の強い男は嫌ぁねぇ発さん?」
「うっせ! 違ぇっつの!!」

 ニヤニヤと楽しそうな笑いを浮かべる二人に、天化は完全におもちゃにされている。
 ここで私まで笑ったら完全に飛び火して収拾付かなくなりそうだから、必死に笑いを噛み殺す。抑え切れなくて、天化にちょっと睨まれた。

「なんであーたまで笑うんさコノヤロ!」
「うわー、責任転嫁ですよ蝉玉さん?」
「というより八つ当たりね。同じ男としてどうですか発さん?」
「だーもー何なんさアンタら!!!!」

 なおも終わりが見えなさそうな楽しげな言い合い。このままじゃ飲み会自体いつまで経っても始まらなさそうだし、いつか誰かお酒を零す気がして、軽い深呼吸ひとつしてから口を挟む。

「……あのね、高三の時に、二十歳になったら皆で飲み会しよって言ってたでしょ?」
「ん? うん」
「だから、初めて飲むのはそのときに取っておこうと思って」

 ――三人分の視線を受けつつヘラッと笑えば、蝉ちゃんがお酒片手に飛びついてきた。

「……あーもぅ相変わらず可愛いわねあんた!!」
「わ」
「うわ、あっぶね!」
「何してるさあーた!!」

 蝉ちゃんの右手に握り締められたままのビールの缶は、男子二人によってなんとかバランスを死守したらしい。お陰で頭からビールを被るという自体からは助かった。思わず苦笑が漏れる。
 何はともあれ、仕切り直しの良いタイミングにはなった。発っちゃんがビールを持った方の手を挙げて、ニカッと笑う。

「ま、とにかく今日が解禁日なんだろ? さっさと始めようぜ!」
「そーね! ほら、初めてならこのへんのチューハイにしときなさい。ほらほら早く開ける!」
「わ、ありがと蝉ちゃん」
「うお! 蝉玉、あーた何度ビール倒そうとすりゃ気が済むんさ!」

 相変わらずのドタバタ感が妙に楽しい。良く冷えたチューハイを一本貰ってプルタブを開けて、皆で発っちゃんに倣って右手を掲げる。さぁ、楽しい宴会のはじまりだ。

「「「「かんぱーい!」」」」





 ――それから、時計の針が一周して。

 お惣菜やおつまみを食べつつ、のんびりと近況報告をしつつ、それぞれのペースで進めていたお酒が回り始めた頃、徐々に場のテンションは上がりだす。
 ひたすら話し続けたり、ひたすら笑ってたり、聞き側に徹していたり。等しくみんなハイテンションな中、さっきから爆笑と思い出し笑いが止まらない二人を見てくすくすと止まらない笑いを漏らしていたら、不意にがしりと肩を捕まれた。

 ……振り返った私の眼前で、にやりと笑ったのは。

* * *

→蝉ちゃん
 (完全に出来上がってるようです)

→発っちゃん
 (ハイテンションです)
 (眼が据わりかけてます)

→天化
 (顔真っ赤でご機嫌です)
 (まだまだ飲み足りないようです

初の試み・分岐式ストーリーです!


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