風姿華伝 | ナノ

「太乙せんせー、宿題集めて持って来ましたよー」


いつものようにノックもしないで開けた扉の向こうには、太乙先生ともう一人の見慣れない人影。
私が入ってきたことで途切れたらしい会話に若干まずかったかなって思ったけど、苦笑いをする私を先生とお客さんは笑顔で迎えてくれた。


「こんにちは」
「おっ、藍李! ご苦労様〜。そこの机に置いといてくれるかい?」
「こっ、こんにちはっ! すいません、お邪魔しちゃったみたいで……」
「いーよいーよ。あ、普賢君、この子、うちのクラスの学級委員長の藍李ね」


太乙先生の声を背に受けつつ、とりあえずノートの山を言われた場所に置く。
どうやらお客さんの名前は普賢さんと言うらしい。振り返って会釈すると、キラキラした柔らかい笑顔で返してくれた。

……あれ? 知らない人かと思ったけど何かこの笑顔、見覚えある。


「帰りのホームルームで紹介しようと思ってたんだけどね、普賢君…いや、普賢先生は、私達のクラスに付く教育実習生だよ」
「あぁ、朝礼の時の……!」
「うん。あれは緊張したよ……。担当教科が物理なんだ。よろしくね、藍李ちゃん」


そこまで言われて思い出した。今からつい2〜3時間前、全校生徒の前で教生代表として挨拶していた人。
優しそーとか美形ーとか知的な感じーとか、赤雲とか碧雲とか、クラスの女の子たちが言ってたっけ。
あの時は遠かったのもあってそんなに思わなかったけど、確かにこうやって面と向かってみると、そう言われるのも分かるかも。


「わぁ、そうなんですかー、皆喜びそう! よろしくお願いします!」
「こちらこそ」


普賢先生は軽く会釈して、またあの笑顔を見せてくれた。
生徒相手なのに物腰も柔らかくて丁寧。教え方も上手そうだな、なんて、根拠の無い確信まで持ってみたりして。
新鮮な対応にちょっと感動してると、微妙な表情を浮かべた太乙先生がこそこそと隣に近づいてきた。


「この笑顔に騙されちゃダメだからね…! 普賢君って、こう見えて……」

「何か言いましたか、太乙先輩……?」


笑顔で訊ねる普賢先生に、太乙先生は「ひいぃ!」と情けない声を上げて飛び上がる。
「ほらね言わんこっちゃ無い! 化けの皮が剥がれ……いやごめん何でもないから……!」なんてブツブツ応えつつも、しっかり私の後ろに隠れてるもんだから、正直威厳も何もあったもんじゃない……。

――ってさ、ちょっと待って、それよりも。


「……えぇっ、先輩ぃ!?」
「そうなんだ。大学の先輩でね。在学期間は1年しか被ってなかったんだけど、その間にも色々とお世話になったんだよ。だから、太乙先輩に付けるって聞いて、凄く嬉しかったんだ」
「へぇ〜。なんか凄いですねぇ……!」
「色々と、って何! 私別にそんな大層な事はしてないよ!?」


ニコニコと笑顔を絶やさない普賢先生。
引きつった笑顔で冷や汗だらだらの太乙先生。

対照的な二人を見て、大学時代に何があったかは聞かないほうがいいんだろうな、と思う事にする。


「……あ、じゃー私まだ授業あるんで! 失礼しましたー! それではまた!」
「あぁああぁちょっと藍李っっ!! この流れで二人にしないでー!!」
「え、先輩、何か都合の悪いことでもあるんですか……?」


……太乙先生が助けを求めてる気がしたけど、鳴り始めたチャイムに急かされて、私は理科準備室を後にした。










期間限定の日常!


(……何はともあれ、ホームルームも授業も楽しみっ!)




あとがき
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