風姿華伝 | ナノ

「2組…も、無いなぁ。三人とも。1組にも見当たらなかったよ」
「3・4組にもざっと見無ぇみたいだなー」
「5組と6組も無かったさよー?」


満開の桜。
真新しい制服。
どこかそわそわと落ち着き無い空気。

待望の入学式当日を迎えた私達3人は、只今、中庭に立てられた掲示板で、高校最初のクラスを確認中。

大きく張り出された名前の羅列を上から下まで万遍無く確認していくけど、見知った名前は未だ見当たらない。
分かれて探していた天化と発っちゃんも同じだったみたいで、天化は軽く駆け足で、発っちゃんは肩を落としながら、私のところまで戻って来た。


「…なぁ、俺、ホントに受かってるよな!? すげー心配になってきたんだけど!」
「まだあと3クラス残ってるさ。ホレ、あっち見てみ?」
「そーだよ! それにさ、この感じだと私達3人クラス近そうじゃん! 見に行こ?」


中三の担任に「絶対無理」と言われてたこの高校に見事受かってみせた発っちゃんは、6クラス見ても自分の名前が無いことで血の気を失いかけてる。
…何度も何度も確認した合格通知書を右手にずっと握り締めてても、やっぱりちゃんと確認できるまでは不安なのかな。

完全に腰が引けてる発っちゃんに苦笑しつつ、私と天化は二人掛かりで彼を引きずり、少し離れたところにあるもうひとつの掲示板の前に移動する。


「うわ…見たく無ぇ……無かったらどーすりゃいんだよ…」
「んな事無いって! ほら、不安になったら右手を見る!」
「つか、あーたはともかく俺っちたちも無いなんて事有り得ねぇんだから、普通に三人とも後半クラスだったってだけっしょ!」
「天化お前それ地味に酷ぇよ!」
「あはは! こんな事言ってるけど、発っちゃんが受かったって聞いたとき、天化凄い喜んでたんだよー?」


わいわい騒ぎながら、掲示板を見上げる人だかりの後ろに並ぶ。
見えそうで見えない微妙な距離に、私達は三人揃って背伸びして掲示板の方に身を乗り出した。


「…あ」

「え、見つけたのか!?」
「何さ?」
「や、ごめん、違うの。ちょっとデジャヴだった、今の」

「「は?」」


私が無意識に零した声に大きく反応した発っちゃん。つられて天化もこっちを振り返る。
返した言葉に同時に拍子抜けした表情を見せた二人がちょっと面白かった、なんて、今言ったら怒られるかな。

ひとりで想像してちょっと笑ってから、今の既視感を口にしてみる。


「また三人でこーやってクラス確認できて良かったなー、って思って、ね」


…はじまりは、中一の入学式。
クラブチームで野球やってた天化が、小学校の違った発っちゃんを友達だって連れてきたのが最初。
あの時もこうやって、期待に胸を膨らませつつ、今よりちょっと低い位置にあった掲示板を、同じように三人揃って見上げたんだ。
中二になる時も、中三になる時も、そんな風に、同じように。

だけどまさか、高校生になっても、一人も欠ける事無く同じ空間に居られるなんて、最初はきっと頭の片隅にも無かったんだろうな、なんて。


「新しいのも楽しみだけどさ、変わらないってのも嬉しいよね!」

「…おう!」
「…そーさね!」


三人同時にニカッ、と笑って、もういちど掲示板に視線を戻す。
それから声を上げたのは、これまた三人同時で。


「あ、あった! 私9組だ!」
「お、見っけ! 7組さね」
「ああああった良かったぁぁ…っ! 9組か…なんだ、端っこだったのかよ…。ったく、一瞬ホントにビビったぜ…」


…発っちゃんと一緒で天化だけ違う、って、ここまで中学と同じ展開になるとは予測してなかったけど。

――なにはともあれ、安心感とドキドキ感が良い具合に入り混じった、新しい日々のはじまりはじまり!










両手繋いで、スタートジャンプ!




(残念だったな天化ー、今回は隣どころか一つ離れてっぞ!)
(あーもーうっさいさ、急に元気んなって、現金さね…)

(…また3年間よろしくね、二人とも!)


あとがき
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