2週間が過ぎた。あの日から副長さんには会っていない。真選組自体はキャバクラによく通っているらしいが、いかんせん私は雑用だ。表に出て彼らと顔を合わせる理由が無い。それに顔を合わせたからといって、何を話せば良いのだろう。いざ意識してしまえば、自然と会話というものはぎこちなくなるものだ。それに彼は女性経験も豊富だろう、私のその態度で、すぐに恋のそれと感づくに違いない。


「はあああぁ…」

自然と出るため息に、なんだなんだ恋わずらいか、なんて同僚は茶々を入れてくる。なんだよ悪いかよ恋わずらいだよ。
掃除などを済ませてじゃあお先に、と裏口からキャバクラを出ると 時刻は深夜の1時を回っていた。外は真っ暗だ。家までは徒歩なので多少の恐怖感はあるが、もう慣れたものだった。

歩いて数分、足音がした。自分では無い、他人の。足音は私が歩いている時に聞こえる。立ち止まるとそれも止んだ。さすがに怖くなって早足になる、こんな時間に まさか散歩をする人などいないだろう。まだ家までは距離がある。鼓動が早まる。怖い、怖い。
とりあえず駆け込める場所を探そうと思って、近くのコンビニの方向へと向きを変えた。そこの角を左に曲がればすぐだ。落ち着いて、なるべく早く。
早歩きになると背後の足音も早くなっている、急がなきゃ、涙が浮かぶ。目からそれがこぼれ落ちる寸前、角を曲がった瞬間、何かに勢い良くぶつかった。思わず倒れそうになるのを抱えられ、転倒は逃れた。

「わりィ、大丈夫か…って、お前」
「……副長さ、ん」

ぶつかった相手は今までずっと会いたかった副長さんだった。なんだこのタイミング。漫画か。
堰を切ったかのように溢れ出す涙に、副長さんはぎょっとした。そりゃそーだ。しかし何かに気付いたのか、私を自分の胸元へと寄せて周囲を警戒する。
もうあの気配は感じられない。
副長さんは私を抱き寄せたまま、警戒を解いた。そして未だに涙を流している私の頭を黙って軽く撫でる。身長差は激しいが、心地良いそれにだんだんと涙はひいた。

「…大丈夫か」
「は、い。すみません」
「…仕事帰りか」
「はい…」

未だ頭部を撫で続ける副長さんの穏やかな手つきに、先ほどまで早まっていた鼓動は別の意味で高鳴りだした。なんだこの状況、なんなんだこの状況!ふ、副長さんに抱き寄せられている。あの副長さんに。タバコの匂いが、する。ああ、これが恋焦がれていた、彼の香り。

「…最近 ここらで若い女ばかりを狙った事件が相次いで発生してる。見回っといて良かった。…怖かったな」

それから副長さんは、私がちゃんと泣き止むまでずっと 抱き寄せてくれていた。
ああ神様ごめんなさい。こんな目に遭った後でも、私はこの人に会えたことの方が胸の中で大きく、そして嬉しいです。この人に会えるのなら さっきのようなこと、平気で乗り越えられそうです。
私が思っていたよりも、彼への恋心は大きく膨れ上がっていたらしい。





20120927
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