微かな音で目が覚めた。
何かが息をする音。震えるように吐き出されるそれは、静寂を小さく揺らしていた。いつもならこの時間帯に目が覚める理由は、名前の寝相の悪さにある。俺の腹ど真ん中にキックをお見舞いしてきたり、寝返りを打ちながら俺の顔ど真ん中に腕を振り下ろしてきたり。なんかしたかな俺。あぁでも、ついこないだ寝ぼけて抱きしめて来た時は、なにこれ可愛いって思ったな。うんうん。
思い出しつい緩む口元を隠さずに、名前が眠っているであろう左隣に寝返りを打つ。いつも俺の方に体を向け、猫みたいに丸まって眠る名前の顔がすぐ見えると思っていたが、今日は違った。
震えていたのだ。猫のように丸まる姿だけはいつもと同じだが、俺には背を向け 静かに肩を震わせている。寒いのか?と思い顔を寄せると、先ほどから聞こえていた微かな音は、名前から発されていることが分かった。

「…名前?どうしたの?」

声をかけると、大きく肩を震わせて更に縮こまった。本当に猫みたいだ。俺の声は聞こえていたようなのでもう1度声をかけるが、無視されてしまった。寝たふりを決め込んでいるようだ。ちょっとだけ癪に障ったので、名前の横腹の下に左腕を差し込み、右手で少し力を入れて名前の体を引き寄せれば、簡単にコロコロ転がり俺の腕におさまる。おお、いいねこのサイズ感。少し目線を下げて彼女の顔を覗き見ようとしたら「や、さがる、」と自分の顔を両手で覆って隠してしまった。なに、本当にどうしたの。

もう1度名前を呼ぶも 頭を僅かに横に振るだけで顔は見せてくれない。仕方ないな、と嘆息してその体を強く抱きしめた。怖い夢でも見たのだろう。抱きしめると、強張っていた名前の体から力が抜け、顔を覆っていた両手を俺の背に回してその顔を俺の胸に擦りつけた。たまに見せるこの可愛らしさに俺は滅法弱い。

「…怖い夢、見たの」

ぽつりぽつりと、俺の胸から顔は上げずに話し出す。なんだ、やっぱり怖い夢か。名前の体が再び震え始めたので、小さな背を優しく撫でてやる。今まで、名前が怖い夢を見て目覚める事はよくあった。そして怖くて眠れない、と俺もその都度起こされた。しかし今回はどれだけ怖い夢を見たのだろう。おさまることの無い名前の震えに、少しだけ不安になる。

「2年後の世界でね、退が真選組副長になってたの」

出だしから吹いた。

「退がズルムケボーイになってたの」
「今だってチェリーじゃないよ?!」
「語尾が『あん?』だったの」
「…あんぱんか」
「モヒカンだったの」
「キャラ濃すぎでしょ」
「…わ、私なんか、いらないって、言われた」

俺の服を掴む手に力が篭る。そうか、だから君はそんなに震えているのか。そんなこと、言う筈無いのに。嗚咽を上げだした名前の両手を軽く握って、ベットに縫い合わせる。自分の上半身を起こして名前の顔を見れば、頬に涙の跡が幾筋も流れていて、なんか、とにかく愛おしくなった。

「…俺が、名前から離れていったの?」
「ん、遠くに行った」
「そんなこと、有り得る?」
「…わかんないじゃん」
「有り得ないよ」

唇を押し当てれば、涙のせいかちょっとしょっぱい味がする。それでもキスをして、キスをして。飽きるほどキスを交わした。酸素不足で涙目になりながら喘ぐ彼女に少し笑みが零れる。息つぎ下手だなあ。鼻で息すればって毎回言ってんじゃん。ぽやんと官能的な表情でこちらを見る名前に再び口づけると小さく反応しながらぎゅうぎゅうと俺に抱き着いてきた。ちょ、それは、ヤバい。

「…名前さん」
「んむ、なあに退さん」
「あの、ヤバいんですけど」
「爆発しそう?」
「女の子がそういう事いうな」
「いいよ退、しよ」

やけに積極的なのは 先程の夢のせいか。しかしここまで来て引き下がれる男はそうそういない。ってか俺には無理。名前の身体に指を這わせて、グッジョブ怖い夢。とか考えながら事を進める。俺の存在を確認するかのように何度も何度も名前を呼ばれた。大丈夫、俺は絶対君からは離れない、いや、離れられないの間違いか。





20121216
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