体の冷える季節が来た。暖房を付けたくて仕方が無くても、平隊士の私の自室にはエアコンなどという便利な物は無い。夏はうだるように暑ければ冬は凍えるほど寒い。おまけに日当たりも悪い。とんだ部屋に割り当てられちまったもんだ。ちくしょう。

「うううさむいさむいさむい」

私の隊服は、元はと言えば他の平隊士の皆と同じブレザーにズボンだったのだが、松平長官が近藤局長に『女の子いるんなら生足見せさせろ』と巻き舌で命令したので、私の隊服はごく最近、ブレザーにミニスカートor短パンという冬には少しキツい物へと変貌を遂げていた。夏ならまだしも、12月も間近に迫るこの季節にミニスカやら短パンは厳しい。最近はニーハイや黒タイツなど、防寒の為に生足命令を無視している。が、如何せん布の厚さにも限度がある。

処理中の書類を片手に自室を出て、隊士専用の居間へ向かった。確かあそこなら共同のこたつがあった。末端冷え症のこの私を救っておくれ。襖を開き部屋の中を覗き見ると、沖田さんと近藤さん、そして山崎が、共同用こたつを見事に3人で独占していた。UNOをしている。てめーら働け。ここじゃ絶対仕事進まない(沖田さんに絶対邪魔される)。そう悟って踵を返す。ここと同じくらい暖かい場所…そう考えて思いついたのは副長の部屋。あの部屋には暖房があった筈。そう思い付いてからの私の行動は早い。
自分の書類を片手に即座に副長の部屋へと潜り込んだ。副長の部屋はやはり暖かく、そしてなんとなんとこたつまであった。この人、っていうか真選組の男共どんだけ寒さに弱いんだ。ちゃっかりこたつにインさせて頂こう。

「…てめ、部屋に入るなら何か一言言え」
「お邪魔します、あ、副長もうちょっと右に寄ってください」
「こたつにまで入ってくんな。ちょ、なにお前すごい図々しいんですけど」
「いやあ暖かいですね。仕事はかどりそう、あ、土方さん仕事の息抜きにどうぞ、お茶とマヨ付き茶菓子です」

気が利くじゃねェか。と流される副長。ちょろい。この人の扱いはもうお手の物なのだ。
茶菓子(もちろん私はマヨは付けない)をつまみながら仕事を進めるうちに、少しの満腹感と、こたつやら暖房やらによる暖かさで眠気が襲って来た。いかんいかん。ただでさえここは副長の部屋。居眠りなどしたらバレた時が恐ろしい。首が体と離れてしまうだろう。目を覚ます為に、ぐっと上半身を伸ばしたら、目の前の副長が視界に入った。

「…めっずらし。副長が居眠りしてる」

日々詰めて仕事をするこの人の事だ。昨日もまた徹夜していたのだろう。こたつの机に突っ伏すようにして静かに眠りに落ちていた。起こすなんて考えは元より生まれず、せめて腰を痛めないようにと、突っ伏す彼の両脇にそっと手を入れてそのまま後ろに寝転ばせ、こたつの布団を副長の体にかけて、これでもかと言う程、普段の副長から考えられない可愛らしい寝顔を堪能しておいた。ごっつぁんです。

副長の寝顔を見ていると、先ほど無理矢理取り払った眠気がまた私を襲った。目の前にはこたつ、そして、いつもの鬼の副長はいない。ただ可愛らしい寝顔の男性がいるだけだ。もう迷う必要など無いだろう。名前名前、副長の隣、空いてますよ。

「…でやっ」



―――――――――――





「副長ー。山崎です。失礼しまーす」

副長に『昼までに持ってこい。出来なかったら切腹な』と脅迫…いや、頼まれていた仕事を持って部屋の中に声をかける。現在の時刻は18時。殴られる可能性は大だが、まあ切腹させられることは無いだろう。だって俺ちゃんと仕事は済ませたし、途中ミントンやってたのはバレてない筈だし。
襖の前で中の副長に声をかけるが返答が無い。これ以上、書類の提出が遅れたらさすがに切腹させられるかも知れないので一言声をかけて襖を開け中に入った。部屋の中を見渡すが、いつも副長が向かっている机には姿が無い。出かけてんのか、と踵を返すと同時に、かすれた声で誰かに呼ばれた気がして振り向いた。

「…山崎」
「副長!こんなとこにいたんですかー。いるなら返事してください…よ…」
「…こいつ、俺から引きはがしてくんね」
「………え」

こたつに横たわる副長の腰に抱き着くようにして眠っていたのは名前ちゃん。おいおい、真っ昼間から何してんだアンタら。「誤解すんな!」と副長は顔を真っ赤にして叫んでいたが、だったら自分で引きはがしてしまうことは出来ただろう。副長は名前ちゃんに甘いのだ。そろりと名前ちゃんを副長から離すと、名前ちゃんは寝ぼけながら一言こう言った。

「や、ひじかたさんは、あたしの」


副長の顔はみるみる紅潮。……もうお前ら勝手にやってろ。









20121117
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