残業残業残業。
頭の中でうごめく、なんとも忌まわしい言葉。せっかくの週末も、平日に済まなかった仕事の為に潰れてしまったし。もちろんサボっていた訳じゃあ無い。しっかりとノルマは果たしているのに、仕事が次から次へと舞い込んで来てしまうだけなのだ。
あぁ、あぁ。休日の無いまま明ける週明けなんて。いらいらするだけだ。


「……おい」

「……」

余りの過労に机に突っ伏して、目をつむっていると後ろから聞き慣れた声がした。それに 少しタバコの香り。もちろん誰かなんてわかっている。屯所中の女中を騒がせている二枚目だ。…珍しいな、この人から声を掛けてくるなんて。
しかし、返事をする気力のない私は反応しなかった。だって、もうだめ。疲れて何もする気分になれないんだもん。


「……おい。寝てんのか?」


再び、声を掛けてくる上司。いつもだったら飛び起きて反応するだろうけれど、今の私は余りに疲れていて、片思いの相手である土方さんにさえ反応せず狸寝入りしていた。それ程に疲れていたのだ。



 「……ったく、」


そのまま去るかと思いきや、土方さんは机と私とのわずかな隙間に腕を入れ、ゆっくりと私の体を持ち上げた。横抱きにして、いわゆる姫抱っこで。
狸寝入りをしている以上、ここで起きる訳にもいかなくて 土方さんのされるがままに、その場から移動している気配が 大きな腕の中で感じられた。
途中、沖田くんが「ずりー俺もサボる」とか言って、それに土方さんが怒鳴る声が近くで聞こえて、案外近くに顔があるんだなと、私の心臓は大きく跳ねてしまうのだった。

しばらくして土方さんの足が止まり、ゆっくりと柔らかい布の上に降ろされる。薬品の匂いがするから 多分、屯所の医務室まで運んでくれたんだろう。なんて優しい人なんだろう。思わず惚れ直してしまった。

「……よく寝てんな、どんだけ疲れてんだよお前」

低い声でそう呟きながら、土方さんは私の頬を撫でる。……あぁ、あぁ、顔が見たい。きっと今、土方さんはいつもの仏頂面はしていないハズだ。
だって、こんなに優しい声色なんだもの。


「…」


無言のまま、撫で続ける手が止まり 土方さんの気配が一瞬近付いた。すぐに気配は離れていき 1つため息が聞こえてくる。


「……俺ってヘタレ…」


ぽつりと呟かれたその言葉を理解しようとしている内に、小さくリップ音を立てて土方さんの唇が私の頬に落とされた。





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