※バーテンダー土方


週末の楽しみ。
それは、会社の上司や後輩との付き合いで訪れるのではなく、たった一人で訪れるこのバーにある。シャカシャカ聞こえる、カクテルを調合する音に耳を傾けながら カウンターの向こう側にいる、ある一人のバーテンダーに声をかけた。

「土方さん」

呼ばれた彼は、カクテルをグラスに注ぎながら、目だけをこちらへと向ける。
瞳孔は開ききっているが、随分と顔立ちの整った彼は、最初は人見知り故か余り話すこともなかったのだが 私が通う内に、話(主に会社の愚痴)を聞いてくれるくらい仲の良くなったこのバーのバーテンダーだ。毎週会う度に思う。本当にイケメンだわ。

「お客さんが少なくなったらまた話聞いてくださいませんか?」

グラスを両手で包みこみながらそう問うと、土方さんは少しだけ切れ長の目を大きくしてその後すぐ目を細めて笑った。喉の奥でククッて笑うかんじ。その笑い方、きゅんってする。
他のお客さんに、先程作っていたカクテルを渡して 土方さんは私の前へとゆったり歩いてきてくれる。これは、仲良くなった常連だけの特権なのだ。


「名字さん、今日は随分と飲んでますね。何杯いきました?」

「ん?そんなに飲んでないよ?これで2杯目です。土方さんが作るカクテル本当に美味しいから、すぐ飲んじゃうんですよ」

俺のせいっスか。と、クスクス笑う土方さんにつられて、少しお酒も入って上機嫌な私もへにゃりと笑った。今日は仕事も失敗がなかったし、土方さんとこうやって話せてるし、良い日だなあ。
そうやって、土方さんとたわいもない話をしているとグラスはすぐ空になった。

「土方さん、カクテルお願いできますか」

「まだ飲むんスか、名字さん酔い潰れますよ?」

「今日は良い日なんで、無礼講なのです!土方さん、甘くて度数強いやつお願いします〜」

「度数強いのですか…ったく、酔い潰れても知りませんよ」

「じゃあ連れて帰ってください、うへへ」

「…、まあ今日は俺、あと30分で上がるんで、良いですけど」

「え、」

じゃあちょっと待っててくださいね。と、カクテル作りに没頭する土方さんを
私はぽやんと酔った頭で見つめていた。土方さんの言葉の意味も理解せず。

出来上がったカクテルは、淡い青緑の可愛らしいカクテルだった。色とりどりの果物がトッピングされていて、ごくり と水分を欲していた喉が鳴った。

「可愛い……これ、なんていうカクテルですか?」

「フェアリーランドです。度数強めですが、甘口で飲みやすいっスよ」

「ふへへ、じゃあいただきます」

こく、と一口含むと 甘酸っぱい味が口の中にあっという間に広がった。美味しい。すごく美味しい。
だけど、土方さんがフェアリーランドという、名前からしていかにも女の子!なカクテルを作ってくれたことが意外だった。可愛いところもあるんだなあ、思わず上がる口角を抑えていたら急に視界がぐにゃりと曲がった。あれ、わたし、そんなに酔っていたのかな。

「…土方さんが2人いるう…?あれぇ?ねむいや…おやすみー…」

「…はぁ、ホラ見ろ馬鹿。悪い近藤さん、俺上がるわ」

「お?おぉ、わかった。って、名字さん寝ちゃったか。」

「あぁ、送ってくる」

「…にしてもトシ、そんな度数の強いカクテル、…まさかお前わざと」

「さーな。じゃあ、お先」


その後の記憶はない。
ただ、目が覚めたら土方さんの部屋で、ベッドで2人で寝てて、幸い2人とも裸ではなかったけれどニヤニヤ笑う土方さんがやっと捕まえた って笑っていた。
どうやら私は、罠にハマったようだ。








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